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ユーミンと幻覚

ユーミンの曲が好きだ。

私は、ユーミンの曲が大変に好きである。


言うまでもなく、ユーミンこと松任谷由実は旧姓の荒井由美の時代から現在にいたるまで数多くの楽曲を発表してきた。
メジャーな曲もそうじゃない曲も、まるで昔から知っているかのように体に馴染むメロディ。
それでいて不思議と時間が経っても古く感じない、何なら新鮮に感じるのが魅力である。


そして何よりも私が一番に「良いぜ、、、」と思うのは、音が絵画のようなところだ。
ユーミンの書く、みずみずしく素朴で共感を呼ぶ歌詞は言わずもがな素晴らしい。しかしそれよりも、楽曲全体の空気感というか、風景が浮かぶような、情感のある「音」が非常に良い。

空間や温度や、時間を感じる。それは自分が聴いているときの季節や周りの情景と重ねて、より強く脳内にイメージが浮かんでくるのかもしれない。

しかし私が、曲を聴いてハッキリと絵が浮かぶのはユーミンの曲だけである。
「視える」曲と、そうじゃないけどなぜか好きな曲について話す。

水の影


「けれど傷つく 心を持ち続けたい」

時間を流れる川に例え、大切な人との別れを歌っている。つぶやくように響く声が印象的である。
一言であらわすなら凪のような曲である。

波の立たない静まり返った海にガレオン船が浮かんでいる。霞がかっていて、白いところだ。
私はそれを離れた場所で見ている。行き場を失ったような人の影がうっすらとみえる。それらは死であった。ふと気がつくと自分も同じ海にいる。ああ、自分もいずれあそこに行くのだろう、と妙に納得した。

(歌詞に忠実にするならば川でゴンドラが浮かんでいるはずなのだが、歌詞をぼんやりと捉えているせいでこう視える)

ユーミンの楽曲には雨、海、川など、水に関するモチーフが非常に多く登場する。この曲も同様、川が登場し人生のメタファーとなっている。

川の流れ着く先は死である。
水から生まれ、水に死んでゆく。彼女の死生観が垣間見えるような曲である。

自分が宮崎駿(あるいは庵野秀明)だったならば、この曲を自分の映画に使わせてくれと頼んだだろうと確信した。


空と海の輝きに向けて


『水の影』が人生の悲哀とその終わりを描いているのなら、『空と海の輝きに向けて』は生の喜びを歌っている曲である。

まだ寝静まっている町を背にして港を出た。息を白くしながら不安を抱えて大いなる海原へ舵を切る。
沖ではじめて朝焼けを見る。その美しさに胸が震えるような喜びを感じる。

この曲には、静かに、けれどもしっかりと背中を押してくれるような前向きさと力強さがある。
航海者である自分のこれからの人生を祝福してくれるような曲で、聴くたびに生まれ直したような心持ちになる。


5㎝の向う岸


女の子が自分より背の低い彼氏を周囲に揶揄われて、たったそれだけのことが気になって別れてしまうというストーリーの歌詞である。
一度聞くだけですんなり理解できる、簡潔でわかりやすい構成の歌詞が素晴らしい。

しかし私が衝撃を受けたのは歌詞よりも何よりも、イントロの音である。
これがなんとも壮大で優雅で、明るいのだ。
雄大な自然や人生をテーマにした曲なのだろうと思ったら、思春期の女の子の恋愛模様が歌われているのだから初めて聴いた時は拍子抜けした。

このイントロの美しいメロディに、たった5センチの身長の違いが何よりも大事だった、あの頃の自分を懐かしみ愛おしむ気持ちが表されているようにも感じる。

おまけ エブリマンス★ユーミン

★1年12ヶ月、その季節に聞きたいユーミンの曲をセレクトしました★

1月   SALAAM MOUSSON SALAAM AFRIQUE

2月   CHINESE SOUP

3月   最後の春休み

4月  DOWNTOWN BOY

5月   緑の丘に舞い降りて

新緑の季節にぴったりの爽やかな曲。盛岡行きたい。

6月   午前4時の電話

7月   海を見ていた午後

8月   私を忘れる頃

9月   9月には帰らない

10月   ノーサイド

11月   翳りゆく部屋

12月   Corvett 1954

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