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アルジャナン・ブラックウッド関連

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英国の怪奇幻想作家アルジャナン・ブラックウッドの作品についての感想、試訳をまとめております。
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アルジャナン・ブラックウッド「The World-Dream of McCallister」試訳

 3月14日は英国の怪奇幻想作家アルジャナン・ブラックウッドの誕生日です(今年は生誕155年!)。というわけで、短篇の「The World -Dream of McCallister」を訳してみました。すてきな夢を見たのに、どんな夢か思い出せないマカリスター氏と、その夢が彼に与えた影響にまつわる物語です。 カバー写真:Pierre Puvis de Chavannes, Public domain, via Wikimedia Commons (https://common

アルジャナン・ブラックウッド「The House of the Past」試訳

カバー写真:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Manor_House,_West_Hoathly.jpg (Poliphilo, CC0, via Wikimedia Commons)  2月13日に発売される『幻想と怪奇15』には、ぼくが訳したアルジャーノン・ブラックウッド「ジョーンズの狂気」が収録されております。輪廻転生や前世の記憶を題材にした作品ですが、実はブラックウッドが初期に執筆した掌篇が一部に(かなり改変されたかたち

アルジャナン・ブラックウッド「S.O.S.」試訳

 3月14日は、英国の怪奇幻想作家アルジャナン・ブラックウッドの誕生日です。そんなわけで、短篇集『Tongues of Fire and Other Stories』より、掌篇の「S.O.S.」を訳してみました。ジュラ山脈を舞台にした、不思議な物語です(セント・バーナードがかわいい)。 (Cover Photo by Giles Laurent, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via

アルジャナン・ブラックウッド「A Man of Earth」試訳

 本日3月14日は英国の怪奇幻想作家アルジャナン・ブラックウッドの誕生日です。というわけで、掌篇の「A Man of Earth」(1914)を訳してみました。大地のような大男が遭遇した、奇妙な出来事の話です。 Cover Photo by Sandro Cenni (https://unsplash.com/photos/k61Vvk9wCLg?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditShareL

アルジャナン・ブラックウッド「The Prayer」試訳

 本日3月14日は英国の怪奇幻想作家アルジャナン・ブラックウッドの誕生日です。というわけで、短篇「The Prayer」を訳してみました。好奇心旺盛な医学生ふたりは「内なる視覚をひらく薬」とやらを服用しますが、果たしてその結果は……? (Cover Photo by Ryan Hutton on Unsplash) 祈りアルジャナン・ブラックウッド 渦巻栗 訳  ふたりが会ったとき、オマリーの目は輝いていた。「手に入れたぞ!」そう小声で言って、小さな薬びんを差し出した。お

読んだもののメモ

 E・F・ベンスン「The Step」、カール・ジャコビ「The Gentleman Is An Epwa」「The Royal Opera House」「Exit Mr. Smith」、アルジャナン・ブラックウッド「Strange Disappearance of a Baronet」を読んだので、メモを残しときます。 「The Step」 とてもおもしろかった。  主人公のクレスウェルは裕福な男で、エジプトのアレクサンドリアに住んでいた。彼は破産したタバコ屋から地所を取

モード・フォークス宛の書簡より

 文学フリマ東京、お疲れさまでした(遅すぎるあいさつ)。というわけで、会場で頒布したおまけ冊子を公開します。英国の怪奇幻想作家ブラックウッドが旅先から編集者に送った手紙の一部です。 Cover Photo: https://unsplash.com/photos/nbneQlI2M1A モード・フォークス宛の書簡より抜粋 アルジャナン・ブラックウッド 渦巻栗 訳  英国もそこでの生活もすっかり頭から消えてしまったので(この手紙はトルコのユスキュダルで書かれた)、まるでそ

アルジャナン・ブラックウッド「Jimbo's Longest Day」試訳

 3月14日は英国の怪奇幻想作家アルジャナン・ブラックウッド(1869~1951)の誕生日です。というわけで、短篇集『Ten Minute Stories』より「Jimbo's Longest Day」を訳してみました。想像力豊かな少年ジンボーと夏至の神秘を描いた作品です。 ジンボ―のいちばん長い日アルジャナン・ブラックウッド 渦巻栗 訳  夏至は子どもからすると不思議な、言いつくしがたい期待感を秘めている。日の出がとても早いというのがその理由のひとつで、一日の半分――午

読んだもののメモ

 アルジャナン・ブラックウッドの短篇ふたつを読んだので感想のメモをおいときます(ツイッタだとツリーが長くなっちゃうので)。 「The Survivors」 リンドシュトルム氏はバスの事故に遭うが、奇跡的に傷ひとつ負わずに生還する。氏が現場を立ち去ってケンジントン庭園で座っていると、時間の感覚が変化し、まわりの世界もどこか変わったように見えはじめて…… 死によって別のナニカへと変化するという話。中年でありながら、少年にもなれたり、過去と未来が入り混じっていてかなり奇怪な感じだ

Kindle本が出ました(冒頭の試し読み)

 ぼくが訳したアルジャナン・ブラックウッドの「H.S.H.」がKindle本で出ました。嵐の夜、山に籠る青年のところに、不思議な気高い男が訪ねてくる……という短篇です。  以下で買えます(100円)。  冒頭部分を載せとくので、おもしろそうだったら購入よろしくお願いいたします。 殿下(冒頭) アルジャナン・ブラックウッド 渦巻栗 訳  この山小屋には都で何週間も騒いだ後に逃げてきた。彼、ディレーンという名の旅する英国人青年は、ひとりで座って、風が荒々しく松の木立を打つさ

アルジャナン・ブラックウッド「The Curate and The Stockbroker」試訳

 秋といえば怪談ですね(強引)。というわけで英国の怪奇幻想作家アルジャナン・ブラックウッドのラジオ怪談「The Curate and The Stockbroker」を訳してみました。異次元にまつわる掌篇です。 牧師補と株式仲買人 アルジャナン・ブラックウッド 渦巻栗 訳  むかしむかし、バリー(*1)の『メアリー・ローズ』が街で話題になっていた頃――女の子がひとり、あの劇で消えてしまいました。みなさんもきっと覚えておいででしょう、地球の表面からぱっと消えたのです――ロン

アルジャナン・ブラックウッド「使者」 試訳

 今日は英国の怪奇幻想作家ブラックウッドの誕生日なので、作品集『Pan's Garden』より「The Messenger」を訳出してみました。ジュラ山地を舞台に、夜明けの神秘を詩的に描いた掌篇です。 使者 アルジャナン・ブラックウッド 渦巻栗 訳  わたしは幽霊じみたものを恐れたことはないし、むしろ奇妙に生きいきとした好奇心とともに惹かれてきたが、不思議な〈存在〉が近づいて来るのはいつも屋外だったので、自然のただなかにいると警告や伝言、虫の知らせやその類のものに出くわし

アルジャナン・ブラックウッド「南風」 試訳

 だんだん気温があがり、桜も咲き、春が近づいてきました。というわけで英国の幻想小説作家ブラックウッドの作品集『Pan's Garden』より「The South Wind」を訳出してみました。高山の村における春の訪れを描いた掌篇です。 南風 アルジャナン・ブラックウッド 渦巻栗訳  いかなる感覚を通して、またはどんな感覚の組み合わせを通して、それを知ったのかは言い表せない。〈だれか〉が近づきつつあって――すぐそこまで来ているのだと。おそらく、奥底にあって五感すべてを内包す

アルジャナン・ブラックウッド「The Fire Body」 試訳

 『The North American Review』Vol.232(1931年)に収録されている、アルジャナン・ブラックウッド「The Fire Body」を訳してみました。単行本未収録で、たぶん本邦初訳です。 火の体 アルジャナン・ブラックウッド 渦巻栗 訳  はっきりした妄想を、おそらくはわれわれが考える以上に多く抱く人々、それも日常生活のあらゆる刺激に対して正気でまともな反応をする人々は、完璧に、それもおおまじめに、特定のある事柄に欺かれるものだろうか?  〈火