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いちごのタルト ちば


「誕生日以外にケーキって食べてもいいのかな」


まゆみはショーケース内に並ぶケーキを見て子どものように目をキラキラ輝かせていた。
特段甘いものに興味がない僕も季節の果物で着飾られたケーキ達をまゆみと一緒に眺めた。


まゆみは真っ赤なあまおうがふんだんに使われたいちごのタルトを選び
僕はまゆみの二択から外れたレアチーズのタルトを選んだ。

店員が手慣れた手つきで皿にケーキを盛り付ける姿をまゆみはニコニコしながら嬉しそうに見つめている。

今日は天気がいい
テラス席にケーキとアイスコーヒーを運んで腰をかけた。
周りはカップルや家族連れで賑わっている。


春の柔らかな日差しの中
フォークを用いてケーキのフィルムを器用に巻き取るまゆみがやけに美しく、愛おしく感じて思わず



「なんだかエモいな」
なんて言葉をこぼしながらスマートフォンのカメラをまゆみに向けていた。



「笑止千万」
突如、まゆみの目から輝きが消え
鋭い視線で僕をじっと見つめる。



言葉を失う僕にまゆみは続ける



「SNSの肥やしになりたくない、私は、SNSの、肥やしに、なりたくない。ハッシュタグになんか収まりたくない。エモい、なんて言葉で消費されてたまるかよ。」


まゆみは目の前のいちごタルトの中心にフォークを刺し、ケーキを持ち上げそのまま豪快にかぶりついた。


「見てみろよ、これでもお前が言うエモーショナルか?」


まゆみのあまりの勢いに驚いた僕は漏らしていた。


気がついたら漏れていた。


という表現が正しいのかもしれない。

「君の方がよっぽど情緒的じゃあないか」

やけに興奮した様子のまゆみは
カランと音を立てて床にフォークを落とした。

対面に座る僕の元に来て
「合格」と囁きながら震える僕を強く抱きしめた
そんなまゆみを振り解く勇気はなかった。

僕が漏らしたそれはつーっと地面をたどり真昼の太陽に反射して嫌というほど輝いていた。

その様はまるで数分前までケーキを見つめていたまゆみの瞳のようだった。



ちば

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