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『Joe Dart解体新書 』どこよりも詳しいJoe Dartまとめ(2)――名曲Dean Townが生まれたワケ。さらに使用機材・全ゲスト参加音源を紹介

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、17回目の連載になる。では、講義をはじめよう。

(👆Vulfpeckの解説本をバンド公認、完全無料で出版しました)



前回と今回は、『Joe Dart解体新書 』として、Joe Dart(ジョー・ダート)についての情報を複数のインタビューなどからまとめている。前回は彼のプレイスタイル、経歴について情報を集めた。今回は、さらにマニアックな内容に踏み込んでいこうと思う。

Dean Townの作曲解説

Joeのプレイに心奪われた方は、ほぼ間違いなく、Vulfpeckの楽曲「Dean Town」にもヤラれていると思われる。もちろん、私もその一人だ。まずは、この曲の作曲に対して、様々な角度から内容を解説していきたい。

まずは曲名から…これは、ウェザー・リポートの「Teen Town」のオマージュである。曲名はJoeのニックネームから名付けられた。

(筆者注 ジョー:)僕はこのバンドでは”ディーン”ってニックネームで呼ばれていて、”「Teen Town」じゃなくて「Dean Town」というタイトルは?”という話になった。(出典:ベースマガジン2019年10月号)

ウェザー・リポートは伝説的なベーシスト、Jaco Pastorius(ジャコ・パストリアス)が在籍したグループだ。その中でも、Jacoがベースでハイレベルなメロディを弾きこなす大人気の曲、それが「Teen Town」である。

Vulfpeckはこの曲の要素を用い、自分たちの新しいサウンドとして昇華させることにした。

しかし意外なことに、作曲はメロディを弾いているJoeではなく、キーボードのWoody Gossだ。

実はあの曲のラインはウッディが作ったもので、それまでに僕らのバンドでやってこなかったベース・スタイルを押し出したものにしたかったみたい。あと、僕がこういう16分のラインを好んでいるのを彼は知っていてね。彼は特にジャズやフュージョンを研究してきた人だから、ウェザー・リポートを少し拝借しつつ、ジャックなりの解釈を取り入れたバージョンに仕上げた。(出典:ベースマガジン2019年10月号)

そしてこの👆短いJoeの言葉の中に、Dean Townを構成する「3つの重要な要素」がすべて解説されている。

順に追いかけていこう。

まず、①最初の16分音符が連続するパート。これは過去のVulfpeckの曲にはないもので、しかもファンクの楽曲としても過去にあまり例がないものだ。だが、Joeが愛してやまないバンドで、このスタイルが用いられている名曲がある。

Red Hot Chili Peppersの「Parallel Universe」だ。

僕が初めてレッド~をコピーしたのは90年代後半の頃で、『カリフォルニケイション』がリリースされた頃だったかな。フリーは僕が飛びつくにはあまりにも魅力的で、視覚的にも派手で大げさだし、顔面をガツンとやられる強いエネルギーを持っていると思う。幼い僕でも”ベースだってこんな魅力的な楽器になれる”と理解できたよ。誰かの影に隠れるべき楽器じゃないんだよってこどだね。(出典:ベースマガジン2019年10月号)

「Parallel Universe」はベースが同音の16分音符を弾き続ける曲だ。そして、さきほどのインタビューから、Joeが『カリフォルニケイション』の中でも人気曲である「Parallel Universe」をコピーしているであろうことが分かる。

彼はVulfpeckのライブになると、Beastlyのソロなどでこの同音の16分音符を繰り返すスタイルを披露していた。そしてWoodyは、そのスタイルをJoeが気に入っていることを知っていたのである。

Yeah, yeah, I was trying to do a bass song for Joe, and also part of it was basically the beginning part of it was based on something that I saw him do a lot during live shows. And I was like, we don't have this in a song yet something where he's going like "di di di di di di di di...".

ジョーのためにベースが主役になる曲を作ろうとしていたんだ。彼はライブでよくああいうプレイをしているのを知っていたので、あの曲の最初の部分はそれを活かして作ってみたものだった。僕はあの「ダダダダダダダダ…」っていう16分音符のプレイが好きだったけど、これはまだ僕たちの曲にはないタイプのプレイだな、って思ったんだ。(出典:「Interview with Woody Goss」)

Joeは影響されたベーシストをかなり多く挙げているが、どのインタビューを見ても、いわゆるロック的なこの同音プレイを行っているベーシストで名前が挙がっているのはレッチリのフリーだけだ。

簡単そうに見えるかもしれないが、ベースで同音を16分音符で維持し続けるというのは、かなりのスタミナを必要とする。それでいて、譜面には決して書かれないグルーヴをこの単純な音列で表現する必要もあり、その点でもこのイントロのプレイはJoeの技量を物語っていると言える。

“Dean Town” has become a fan favorite. How tricky is it to keep up those 16th-notes?

It forces me to keep my chops up, which is good. I feel most in shape after we’ve been touring for a while, and we had been when we recorded it. But when we play it live, it’s a bit of mind-over-matter thing where I’m trying not to think about how long I have to play those 16th-notes.

記者:「Dean Town」はファンのお気に入りの楽曲になりましたね。あの16分音符を維持するのは難しいですか?

ジョー:頑張らないといけないね。レコーディングした時もそうだったんだけど、しばらくツアーをした後は調子がいいんだ。そして、ライブで演奏するときは、16分音符をいつまで弾かないといけないのかを考えないようにしているのさ。(出典:Vulfpeck's Joe Dart: "We intentionally keep things on edge and in the moment"

僕がそのパート(筆者注:Dean Townのイントロ)を弾くときは、”自分がもしドラマーだったらどこでスネアやバスドラを叩くのか”を意識しているよ。これは4つ打ちのビートでね。アタマの拍にアクセントをつけながら、ドラムをずっと追いかけている感じだ。それでいてダイナミックな息づかいも大事にしている。ロボットみたいに均一に刻み続けるんじゃなくてね。(出典:ベースマガジン2019年10月号)


次に、②印象的なメロディとリズム。先のJoeのインタビューで、「彼は特にジャズやフュージョンを研究してきた人だから、ウェザー・リポートを少し拝借しつつ、ジャックなりの解釈を取り入れたバージョンに仕上げた。」と語られている。

Dean Townが、Teen Townの複雑なメロディに影響を受けて生まれているのは間違いない。Woodyはボイスメモで作曲をすることが多く、恐らくWoodyの鼻歌のようなものから誕生したメロディだろう。(出典:「Interview with Woody Goss」)

さらに驚くべきことに、このメロディは前日にバンドに共有されたものだった。

(筆者注 Cory Wong:)例えば「Dean Town」はウッディーがセッション前日に、”こんなメロディ、どうかな?”って送ってきたものでね。こういったやりかたでセッションを進めていくこともある。(出典:ギターマガジン2018年11月号)

Woodyのジャズへの愛情がなければ、このメロディが生まれてくることはなかったはずだ。Woodyはよくその存在感についてファンでも議論が交わされるが、彼の作曲やハーモニーのセンスなくして、Vulfpeckの成功は考えられない。

そして、リズム。これもTeen Townそのままである。

Vulfpeckのライブでも、PV同様にJackとTheoが一緒に二人羽織状態でドラムを叩くのが恒例になっているこの曲。

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左がJack、右がTheo / 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=rv4wf7bzfFE

Teen TownDean Town、両方を聴き比べてもらえば、リズムにおいても原曲をかなり意識していることが分かる。特にTheoの叩くハイハットはほとんど同じだ。そこにJackの叩くタムとスネアが入るとより現代的なリズムとなり、一気に2010年代のサウンドへと進化している。


最後に③、「ウェザー・リポートを少し拝借しつつ、ジャックなりの解釈を取り入れたバージョンに仕上げた」の部分。Vulfpeckのリーダー、Jack Strattonがこの曲で何を行ったか、ということになる。

これは、もしウェザー・リポートならテーマの後にソロを弾くはずなのだが、Dean Townでは誰もソロを弾かない、というアレンジの話である。引き算のファンク・アレンジ。ミニマルファンクだ。

Ordell Kazare, the arranger on “Mr. Big Stuff” and “Groove Me”, he’s kind of the gold standard of minimal hooky funk, where each instrument is sort of contributing just what it needs to – but if it does too much it doesn’t have the impact that you’re looking for. And for him soloing for the sake of soloing is a moral issue you know (laughs). It’s a deep moral atrocity for him and it’s not for me, but I love that attitude and I want to take it even further and tighten up even more.

ジャック: 「Mr. Big Stuff」と「Groove Me」をアレンジした「クリオールのベートーベン」と呼ばれる、ワーデル・ケゼルグという人物がいて…彼はミニマルファンクの重要人物なんだ。そこでは、それぞれの楽器の音が多すぎると、曲の本来の魅力が損なわれてしまうことがある。そして、「そこでソロを取る」かどうかというのは、実は道徳的な問題なんだ。(笑)

それ(本来ソロを取るべきところでソロを取らないこと)は深い「道徳的残虐行為」かもしないけど…僕にとってはそうではないし、むしろ自分のスタンスが大好きなので、これからもさらに推し進めていこうと思っているよ。 (出典:Vulfpeck Keep It Beastly

JackはVulfpeckをもともと、「そこにヴォーカルがいる、というふりをして演奏する、ヴォーカル無しのファンクバンド」として結成した。よって楽曲は空白ありき。無駄にソロを弾かないという選択肢が彼の中に厳然と存在し、むしろ、そうすることによってVulfpeckとしてのコンセプトを高めるのが彼のアレンジなのである。(この話の詳細に関してはこちら👇)

以上がDean Townの作曲に関する話だ。この曲は譜面が出回っているため、カヴァーへの敷居が下がっており、いろんなミュージシャンがカヴァーしている。

この曲がここまでヒットしたことはバンドにとっても想定外で、特にJoeは折に触れて感謝の言葉を述べている。

リリース以降はベーシストの間で話題になって多くの人がカヴァーしてくれてるのを目にするし、ライブではみんなが歌ってくれる。ベーシスト冥利に尽きるし、自分でも信じ難い気持ちになるよ。(出典:ベースマガジン2019年10月号)


では、次はJoeの機材についてだ。

使用機材まとめ

前回の記事でも述べたが、Joeは2019年に彼のシグネチャー・モデルのベースが作られている。そのベースについて触れるまでに、まずそこに至るまでの過程を追っていきたい。(本章参照記事:「Vulfpeck's Joe Dart: "We intentionally keep things on edge and in the moment"」、「Joe Dart: “The one thing you absolutely can’t skip on is developing great time”」、ベースマガジン2019年10月号、「ヴルフペックのジョー・ダート使用機材まとめ」、「Equip Board : Joe Dart」)

Fender Jazz Bass

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👆Dean Town(2016)より / 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=le0BLAEO93g

まず、Fender Jazz Bassがあった。おそらく、世界中でもっとも多くJoeが抱えている姿が見られているベースだろう。「Dean Town」、「Animal Spitirs」、「Cory Wong」、「1 for 1, DiMaggio」、「Adrienne & Adrianne」、「Soft Parade」、「Outro」、「Figue State」、「Hero Town」、「Newsbeat」、「Mr. Finish Line」、「It Gets Funkier Ⅱ」、「Barbara」、「Mean Girls」、「Lost My Treble Long Ago」、「Captain Hook」、「Half The Way」など、使用曲を挙げればきりがない。

こちらは先述のシグネイチャー・モデルと同じくらいの頻度で使用されるフェンダー製ジャズ・ベースで、メキシコ工場で生産されたものだ。生産年代は定かではないが、1990年代のもので、ジョーが13歳の頃に中古で購入して以来、今でも気に入って毎日手に取る1本だと言う。「Dean Town」、「Animal Spitirs」などで使用された。

”多彩な使い方ができて、かなりファンキーなサウンド。ミックスのなかで抜けてくれるし、ライブでプレイするのにも最適なコンディションだよ。スラップと指弾きのどちらでもグレイトな低音が鳴ってくれるし、ロッコ・プレスティアのヴァイヴを出すこともできる。今も、これからも大のお気に入りだね”(出典:ベースマガジン2019年10月号)

自身のシグネチャー・モデルを所有するまではJoeはこのFender Jazz Bassしか持っておらず、他のベースはすべて借り物だったということだ。ときおり持っているベースがコロコロ変わっているが、ミシガン大学出身という環境で借り物のベースがたくさん使える状況にあったのかもしれない。

「Beastly」のビデオではフェンダーのピノ・パラディーノ シグネチャー・モデルを使用。(出典:「Equip Board : Joe Dart」)

SQUIER ( スクワイヤ )Affinity Seriesが正しいという情報あり。詳細は当記事コメント欄にて。

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👆Beastly(2011)より 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=KQRV0c1KXYc

「Running Away」「Grandma」「Birds of a Feather, We Rock Together」「Baby I Don't Know Oh Oh」など、アルバム「Mr.Finish Line(2017)」以降の数曲は、Fender Precision Bass Juniorを使用。

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👆Birds of a Feather, We Rock Together(2017)より 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=WQm4R0LM2mE

また、「The Cup Stacker」「Darwin Derby」などでは、Squier Classic Vibe '60s Precision Bassを使用。この青いプレベもJackの所有物で、ちなみにJoeのフェイバリット・カラーも青だそうだ。(出典:「interview w/ Joe Dart」)

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👆The Cup Stacker(2018)より 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=3HOb5vXOIkw

そして、そんな借り物のベースの中でも、特にJoeが気に入って使い続けていたベースがあった。それがJackの所有していた、ミュージックマン社のStingrayのクローン・モデルだ。

Carlo Robelli bass with Music Man pickups

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👆It Gets Funkier(2011)より / 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=yKg_3kyIhHc

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👆Disco Ulysses(2018)より / 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=F7nCDrf90V8

このベースの名前「Carlo Robelli」とは、アメリカの楽器店「Musician's Friend」 のオリジナルブランドのことであり、ターゲットは楽器初心者――つまり、本来はプロ用の楽器ではないということになる。Jackが中古で100ドルで購入したとのことだが、JoeもJackも、この古典的なファンク・ソウルのような音がでるこのチープなStingrayのクローン・ベースをいたく気に入って、折に触れてそれを持ち出してはレコーディングに使っていた。「It Gets Funkier(Ⅰ、Ⅳの両方)」、「Daddy, He Got A Tesla」、「A Walk To Remember」、「Welcome to Vulf Records」、「Disco Ulysses」などが使用曲だ。

Joeはたまにミュージックマンの他のベースをレンタルしてレコーディングで試してはいたが、結局、元のクローン・ベースに戻ってしまっていたようだ。例えば、「Christmas in L.A.」ではErnie Ball Music Man Sterling 4 Classicを使っているのが確認できる。

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👆「Christmas in L.A.(2015)」/ 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=d5K3UgrPdbQ

そして、あまりにそのクローン・ベースを気に入った結果、Joeは「もし、自分のシグネチャー・モデルが作れるなら、このミュージックマンのベースを元にして制作したい」という夢を持つようになる。

…そして、それが叶えられる日がやってきた。

「It Gets Funkier」という曲で、Jackが持っていたミュージックマンのクローンを使ったんだ。あれはおそらくVulfpeckのトラックで得た最高のトーンだったから、いつかクローンではなく本物を手に入れるべきだと思った。Stingrayを借りて、Sterling Classicを借りて、いくつかのVulfのトラックでそれを演奏して良い結果を生んだけど、アーニー・ボール(筆者注:ミュージックマンのブランドを所有する会社)が僕に連絡してきて「俺たちが持っている新しいベースをデモしに来ないか」と言うまでは、まだ自分のベースは持っていなかった。

僕はサンルイス・オビスポに飛んで行き、そこでいくつかのデモ演奏をした。僕はそれを気に入ったので、彼らは「もし欲しいのであれば紹介するよ」と言ってくれたんだ。それで3年前(筆者注:2016年)に初めてアーニー・ボールのベースを手に入れたんだ。(中略)

それで僕はアーニー・ボールの連中と友達になって、ある日話をしていたら、彼らが「ユニークな楽器のアイデアがあるなら、カスタム・ベースを作りたい」と言ってきたんだ。ジャックと僕は、「It Gets Funkier」で僕が弾いた例の安いミュージックマンのクローン・ベースの話をしていた。ジャックと僕は言った。「あれと同じような感触と見た目のベースを作れたらどうだろう?」それで僕たちはそのアイデアを実行することにした。彼らにミュージックマンのクローン・ベースと、僕がいつも使っているフェンダーのジャズ・ベースを持っていって、「この2つのハイブリッドを作ろう」と言ったんだ。(出典:Joe Dart: “The one thing you absolutely can’t skip on is developing great time”

こうして、Joeが最も愛した2つのベースを掛け合わせて生まれたカスタムモデルが、「Earnie Ball Music Man : The Joe Dart Signature Bass」となった。

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画像出典:Joe Dart: “The one thing you absolutely can’t skip on is developing great time”

このシグネチャー・モデルは一般に50本限定で販売され、あっという間に完売。

見た目も非常に美しく、無駄が削ぎ落され…Joe、そしてJackの夢が詰まったサウンドが鳴るようになっている。それは彼らが愛した、ソウル・ファンクのレジェンド・ベースサウンドの再現だ。

(👆発売時の解説動画。THE FEARLESS FRYERSのレコーディング時に撮影された。Jackが、様々なレジェンドのサウンドを再現できることを解説している。)

記者:仕様について教えてください。

ジョー:ノブが1つ、ピックアップが1つ、そしてパッシブだ。全てはジャックのアイデアから始まったんだ。彼は「シングル・スピード・ベース」と呼んでいる。箱から出した時には、僕もジャックも倒れちゃったよ。まさに僕たちが思い描いていた通りのもので、今でも現実の世界でそれを目の当たりにすると、とてもシュールな気分になるね。

このベースについては、多くの素晴らしいコメントをもらった。何回かツアーに試作品を持って行ったんだけど、みんながよく見ているのを見ていて面白かったよ。僕たちはブライトさのあるフラットワウンド弦も用いて、本当にオールドスクールなディスコトーンを聴かせたかったんだ。これは本当に素晴らしいベースだよ。子どもの頃からの夢だったんだ。頭の中でしか考えていなかったものが、物理的なものになっていくのを見るのはステキな事だね。1つのノブ、1つのピックアップ、木の上に白を基調としたルックス......こんなものは見たことがない。何か新しいものを世に送り出したような気分だよ。(出典:Joe Dart: “The one thing you absolutely can’t skip on is developing great time”

そして今ではこれは彼を象徴するベースとなり、2019年のマディソン・スクエア・ガーデンでのライブもこれを用いて行われた。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=rv4wf7bzfFE

Joeは本当に楽しそうにこのベースを弾き倒しており、その姿を眺めるだけでこちらまで嬉しくなってしまう。こういったバックグラウンド・ストーリーを知れば、それは尚更だ。

さて、以上が、使用ベースについてのまとめになる。それでは、残りはエフェクターとアンプについて、だ。

まず、エフェクターは使用しない。このご時世に、なんと漢らしい…。ワウもファズも歪みも使わず、ただシンプルにクリーンなサウンドでグルーヴすることのみを追求している。

そして、アンプ&スピーカーは以下のものだ。(出典:ベースマガジン2019年10月号)

アンプ・ヘッドはMark Bass Little Mark 800、キャビネットはStandard 104HFを使用。

これはJoeがマークベース社とエンドース契約を行っているからで、マークベース社のHPにもJoeのコメントが載っている。

I used to ask the backline company to provide a bass amp by any one of a handful of amp companies, and so it ended up being a variety throughout the tour. And then I started noticing that every time they provided a Markbass rig, I walked off stage feeling like I had played a truly great show. Somehow the clarity, punch, and warmth of Markbass amps was making me play better." —says Joe— "Now I only play through Markbass rigs, and I've never heard another amp that sounds more like ME when I play through it. It's hard to put into words, really, but these amps sound like my hands, my bass, my playing. Not overly colored or effected - just a deep, punchy, warm and clear projection of what it is that I'm putting out there. It feels absolutely amazing. My deepest gratitude to the Markbass team."

ジョー:以前はバックラインの会社にベースアンプをお願いして、複数のアンプ会社の中から好きなものを選んでもらっていたので、ツアー中のアンプはバラエティに富んだものになっていたんだ。いつしか、彼らがMarkbass社の機材を提供してくれるたびに、本当に素晴らしいショーをプレイしたような気分でステージを降りることに気付き始めた。どういうわけか、Markbassアンプの明瞭さ、パンチ、暖かさが、僕のプレイをより良いものにしてくれているんだ。

今ではMarkbassの機材でしかプレイしていないけど、他のアンプでプレイしていても、これほど自分そのものだという感覚は得られない。言葉にするのは難しいけど、このアンプは僕の手やベース、演奏のように聴こえるんだ。オーバーな特色やエフェクトがあるわけではなく、自分の出している音が深くなり、パンチがあり、温かくクリアに投影されているだけさ。それは絶対に素晴らしいことだと感じている。Markbassチームに深く感謝しているよ。(出典:http://www.markbass.it/artist-detail/joe-dart/

以上が、Joeの機材まとめだ。次は、Cory Wongまとめと同じく、ゲスト参加作品のまとめとなる。

全ゲスト参加作品まとめ(~2020年7月)

Joeは基本的に大学時代からの友人関連からの仕事を受け、レコーディングに参加しているケースがほとんどだ。(参照:https://www.discogs.com/ja/artist/3852267-Joe-Dart

・ Michelle Chamuel ‎/  Face The Fire (2014)

まずはMichelle Chamuel のアルバム。彼女はなんと、My Dear Discoのメインヴォーカルだった女性だ。

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画像出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Michelle_Chamuel

美しく伸びのある声、My Dear Discoの頃から少しも変わっていない。同アルバムはJack Stratton、Joe Dart、Woody Goss、Theo Katzmanが参加している。もはや裏Vulfpeckのアルバムだ。他にも、My Dear DiscoからTyler Duncan、 Julian Allen、Mike Sheaが参加。

・Ella Riot / Love Child (2011)

そして前回の記事でも少し触れたが、My Dear DiscoがElla Riotと名前を変えた活動最終期のアルバムに、Joeは正式メンバーとして参加している。既にTheo、Joeyはソロキャリアのために脱退していたため、本作には二人は参加していない。

・The Olllam / The Olllam (2014)

こちらはMy Dear Discoの発起人、Tyler Duncanのバンド。My Dear DiscoがElla Riotになり、活動が停止した後に作られたバンドだ。引き続きJoeは参加し続けている。こうしてみると、本当にJoeは友情を大事にしている。

世界最高のイリアン・パイプ(バグパイプの一種)奏者として名高く、アイリッシュ・ミュージックマガジンで「真のマスター」と呼ばれるJohn McSherryを迎え、オンラインで2012年からレコーディングされたのがアルバム「The Olllam」だ。バンドの名前はアイルランド詩人の最高位である「Ollam」から名づけられている。

👇この動画にもあるように基本はアイリッシュミュージックだが、Joeが参加しているので、ところどころファンクが入ってくる。JoeのソロはVulfpeckや、Red Hot Chili Peppersそのままだ。

👇ツアーにはWoody Gossも帯同。珍しくかなりディープなアドリブソロを聴くことができる。

👇初期のライブではJoe、Woody、Theoが参加。

The Olllamは2020年、クラウドファンディングで新譜を作り始めた。こちらにも引き続きJoeは全面参加。


・Anna Ash /  Demos (2013)

そしてJoeと同じミシガン大学音楽学部出身、Anna Ashのアルバム「Demos 」に1曲だけ参加している。このドラムはMy Dear DiscoのMike Sheaだ。Anna AshはJackの友人でもあり、Jackは彼女のビデオを作成したこともある。

また、以下のAnnaの作品にもJoeは参加した。

Anna Ash / Floodlights (2016)

・ Anna Ash ‎– Righteously (2017)

Anna Ashの作品はTheoがほとんど参加し、またレコーディングとミックスを担当したこともある。さらにJoey Dosikも参加。Vulfpeckを支えるGoodheltz社が彼女をレコーディングしたこともある。あまり語られることはないが、Vulfpeckに非常に近い距離にいるアーティストだ。

・ Rachel Mazer ‎– How Do We Get By (2019)

これもMy Dear Discoの繋がりだ。同曲でギターとアレンジを担当したTyler Duncanが、My Dear Discoの発起人だ。さらにこの曲はJoeだけでなく、Theo、Woodyも参加している。Joeはアルバム「How Do We Get By 」の、このタイトル曲と「Is It So Wrong」「Home」の3曲に参加。

アルバムはクラウドファンディングで作られ、Tyler Duncanのスタジオでレコーディングされた。Tyler Duncanスタジオは、VulfpeckのDeen Town、Cory Wong、Animal Spiritsなどでも使われたファンには馴染み深い場所だ。

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画像出典:https://www.kickstarter.com/projects/392772221/rachel-mazer-debut-album/description?lang=ja


・ Woman Believer ‎– Dunzo(2019)

このアルバムには、Joeは「Simple」という曲のみ参加。YouTube動画が確認できなかったので、同アルバムの別の曲を引用した。ちなみに、これも裏Vulfpeckの作品。

ヴォーカルはVulfの「Animal Spirits」を作曲したひとりChristine Hucal、ベースはJack、ドラムはTheo、鍵盤はWoody。マスタリングはお馴染み、Goodheltz社のDevin Kerr。なんと外部の人間が一切関わっていない。完全に裏Vulfだ。

・ Seth Bernard ‎/ Eggtones Blues (2017)

これも友人の、Seth Bernardの作品だ。先ほどのRachel Mazerのアルバム同様、Vulfpeckの「1612」などでカメラマンを務めたJulian Allenも参加している。本作では「Eggtones Blues」のみに参加。また、Sethの次作「Eggtones 4 Directions 」にも、「The Past Is A Mother」「Touchstone」の2曲にJoeは参加した。

・ Seth Bernard ‎/ Eggtones 4 Directions (2018)


そして、残るはTheo Katzmanの全作品である。


以上が、Joeのゲスト参加作品となる。長かった「Joe Dart解体新書」も、これで終了だ。


おわりに

最後に、ちょっとした小ネタを。前回の記事から、多くのレジェンドが…そしてJackが、Theoがみんな彼のプレイを愛し、そして彼のファンになっている…という話をしてきた。

しかし…実は、それをはるかに上回る、Joeの世界一のファン、という女性が存在するのだ。この話を最後にしなければならない。それは、

お母さんだ。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=AvUi3SigyJI

👆Joeがお母さんと一緒に受けたインタビューを紹介するご本人のツイート。SNSでも大人気だ。

彼女はVulfpeckのFBページにもよくコメントで登場し、ファンと一緒にVulfpeckを、そしてJoe Dartを盛り上げている。さらにはライブの常連でもあり、しかもCory Wongのソロライブなどにも積極的に参加。

ちなみに、Jackのお母さんもライブに登場するし、お父さんも息子についてインタビューに答えたりしている。家族にやさしいバンド、ヴォルフペック。最高だ。


…では今度こそ、本当にこの記事も終わりだ。Joeが素晴らしいプレイヤーであることは疑いようがないが、こうして長時間にわたって深く調べていって、確信したことがある。世界中どこを探しても、彼ほどVulfpeckに適したベーシストはいない。何かがあってJoeがベースを弾かないような事態に陥れば、Vulfpeckはまったく違ったバンドになってしまうだろう。それはVulfpeckがグルーヴを重視し、ソロのテクニックや技巧に走らず、全体の調和を均一に保つことをねらいとしているからで――そのスタンスを完全に理解し、自らの血肉として自然に表現できるのは、この世にJoe Dartただひとりなのだ。

今の僕は、ドラマーと一緒になって曲のグルーヴに対してしっかりとハマることを大切にしているし、それでいてグッドなフィーリングをもたらすこと、それが僕のモチベーションでもある。”プレイヤー全員をまとめるジェルのような役割になれるだろうか?””シンガーとバンドの架け橋になれるだろうか?”っていうような考え方だね。僕はグルーヴが持つ個性を表現することを目指していて、ソロイストだったり、フロントマンになることには興味がないんだよ。(出典:ベースマガジン2019年10月号)

以上、Dr.ファンクシッテルーの講義にお付き合いいただき、ありがとう。

次回「どこよりも詳しいVulfpeck」マガジンは、「Vulfpeckビデオの作り方講座」だ。どのカメラを使い、どのソフトを使ってどう編集すれば、あのとても面白いMVが生まれるのか?実際に試してみたので、分かった範囲でまとめを作成してみた。是非、次回もお楽しみに!

トップ画像出典:https://fr.wikipedia.org/wiki/Joe_Dart


◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。


◇既刊情報◇

バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)


ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」


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