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あまりに深すぎるJack Strattonの世界[4] 別人格!?「Mushy Krongold」とは誰なのか?Jackが語るコメディーへの熱い想い

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、12回目の連載になる。では、講義をはじめよう。

(👆Vulfpeckの解説本をバンド公認、完全無料で出版しました。今回の記事の内容については、こちらの本でさらに詳しく解説を行っています)




前回に引き続いて、Vulfpeck(ヴォルフペック)のリーダー、Jack Strattonのサイドプロジェクトを解説していこう。

今回はその中でも、もっとも謎が深いものを紹介したい。初期の「DJ Paradiddle」なども面白いものだったが、ある意味、今回紹介するものが最もJackの本質を示していると言える。

※「DJ Paradiddle」については前回の私の記事で紹介している。


今回のサイドプロジェクトは、Jackの「別人格」とも呼ばれる「Mushy Krongold(ムシー・クロンゴールド)」 である。どうか、この衝撃的な動画をご覧いただきたい。

ショファーという、雄羊の角から作られるユダヤ人の伝統的な楽器を吹く動画なのだが、40分ほとんど同じ音を吹き続けている。

ちなみに、ふつうはこうやって吹くらしい。

先の動画で、Jackは40分間まったく息継ぎをせずに吹き続けている

もちろん、そんなことできるわけがない。これは動画編集によるループであり、つまり、ただのジョークだということになる。しかし絵面と音がシュールすぎて、コメント欄は絶賛の嵐。


動画の自己紹介では「Mushy Krongold」だと名乗っているが、完全に顔がJack Strattonである。同一人物であることは間違いないし、隠す気も1mmも感じられない。

このような、Jack演じる、「ちょっと変わった音楽マニア」、それが「Mushy Krongold」 なのだ。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=WX-qX4u7IyE

Mushyはゆっくりと、低血圧に、どこか内気な喋り方や動き方をする。そして演奏する音楽もかなり奇妙で、マニアックなものばかりだ。これらも全てJackが作ったキャラ設定で、この謎のプロジェクトを楽しんでいるのが伝わってくる。

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Mushyの起源に関しては、Jackは以下のように語っている。

It’s clearly inspired by The Jerky Boys character Sol Rosenberg who would do prank calls. A roommate and I would do prank calls to pass the time at Michigan. We developed this breathier Sol Rosenberg—a bit higher in the range and not as aggressive. I was talking to my dad about names for the character. He came up with the name Krongold and I had Mushy and I just thought, ‘Oh, the name Mushy Krongold is just poetry.’ I started doing the sketch videos as Mushy. If you look really hard, there’s a failed Kickstarter page for Mushy somewhere out there. It was a little half-baked of an idea, but the idea was that Mushy was going to do these fake documentaries around Cleveland. It’s kind of in his character to have a horribly failed Kickstarter when you think about it. But, it’s all part of the art piece. I’m going to do some more Mushy soon. We had him doing the meditation at the end of [Thrill of the Arts]. He’s kind of going JewBu—kind of Jewish Buddhist. So, we’ll see where that goes from there.

Jack : The Jerky Boys(いたずら電話をするネタで有名な、アメリカのコメディグループ)のキャラクターであるSol Rosenberg(不安定な性格で早口に喋る、ユダヤ人の青年。電話の相手を困らせる)にヒントを得ています。

ルームメイトと私は、ミシガン大学で時間をつぶすためにいたずら電話をしていました。私たちが開発したのは、もう少し声が高く、それほど攻撃的ではなくて、ゆっくり喋るSol Rosenbergです。

このキャラクターの名前について、父と話していました。父はKrongoldという名前を思いつき、私はMushyという名前を思いつきました。私はMushyとしてスケッチビデオを始めました。探してみると、MushyがKickstarterを失敗したページがどこかにあります。

ちょっと中途半端なアイデアでしたが、そのアイデアとは、Mushyがクリーブランド周辺で偽のドキュメンタリーを撮影するというものでした。考えてみれば、Kickstarterでひどい失敗をするのは、彼らしいとも言えます。でも、これもアート作品の一部なんです。近いうちに、もっとMushyっぽいことをするつもりです。「Thrill of the Arts(2015)」の最後に、彼に瞑想をさせました。彼はJewBu、つまりユダヤ教の仏教徒のようなものです。これからどうなっていくのか見ものですね。(引用:https://anotherartsblog.com/2017/08/27/an-interview-with-vulfpecks-jack-stratton/

👆元ネタの、Solo Rosenberg。「The Jerky Boys」がSoloになりきって電話し、相手を困らせる「いたずら電話」のネタ。確かにSoloはちょっと早口で、これを低血圧にしたらMushyになる。



さきほどの文中でJackが語っていたMushyによる「Kickstarterの失敗したページ」は、こちらだ。👇

https://www.kickstarter.com/projects/1461914303/mushy-dictates/description


これによると、Mushy "The Loxsmith" Krongoldが正式名称で、彼の自己紹介も書かれている。

Documentarian, storyteller, musician, neurotic; Mushy Krongold was born for the internet.
ドキュメンタリアン、ストーリーテラー、ミュージシャン、神経症。Mushy Krongoldはインターネットのために生まれました。

「Funklet」のクラウドファンクディングに成功したJackは、次は「Mushy Krongold」のプロジェクトでクラウドファンディングを行った。Mushyとして過去のR&Bレジェンドの元へ行き、パフォーマンスを録画して編集。それらをリターンとして配信する、というプロジェクトだったが、Jackが語っているように、失敗に終わった。

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画像出典:https://www.kickstarter.com/projects/1461914303/mushy-dictates/comments

コメント欄に父親のBert Strattonが投稿しているのが微笑ましい。これはバッカー(クラウドファンディングを支援したひと)しかコメントできない仕組みなので、Bert氏はアイデアを提供しただけでなく、わざわざ支援までしていることになる。よい親子関係だ。

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画像出典:https://www.kickstarter.com/projects/1461914303/mushy-dictates/comments


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Jackが語っているように、このキャラクターはコメディーの延長ということになるが、彼はこういった世界にも強い関心を持ち、自己表現を行っていることがわかる。コメディーへの想いは、別のインタビューでも語られている。

Allegla : では、コメディや映画の分野でのあなたのヒーローは?

Jack : Fred Armisenと、そのスタッフたち。そして編集者、監督のJonathan Krisel。あとDJ Douggpound…

Allegra : DJ Douggpoundは、ハリウッドで観ました。私は彼のこと知らなかったんだけど、最高だったわ。

Jack : それに、Johnny Pemberton、Brent Weinbachもだね。彼らの作品は本当に面白いんだ。そういえば…私がコメディに最初にハマったのはMel Brooksの「Spaceballs」(1987年公開のスター・ウォーズのパロディ映画。ジョージ・ルーカス公認)だった。その後、Christopher Guestの映画にハマっていったんだ。

Allegra : Kyle Mooneyが好きだという話も聞いたことがあるような気がします。

Jack : ああ、そうだね。(引用:https://www.youtube.com/watch?v=gWPB13_aSow)


👆Fred Armisen。立ち振る舞いはどこかJack風

👆DJ Douggpound。ここではDJを装ってネタを披露するスタイル

👆Kyle Mooney。こうしてみると、サタデー・ナイト・ライブ関係が多い。また、メガネ・朴訥、といった印象のナードなキャラクターを愛していることも分かる。それがJackの要望にも反映されているのだろう


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他にも、Mushyはたくさん動画をアップしており、またSpotifyに音源も上がっている。どれも抜群にヘンなので是非確認していただきたい。動画はこちらからプレイリストへ飛べる。👇



この動画は、1971年にリリースされたが日の目を見なかったMushy Krongoldの楽曲「Hey You」。

ということになっているが、音を聴く限り完全にベースはJoe Dartである。


この動画ではMushy Krongoldがシンセ、Jack Strattonがビデオ編集となっている。くどいようだが同一人物だ。


Mushy KrongoldはVulfpeck結成前から活動しており、Vulfpeckが軌道に乗っていくと次第にMushyでの作品発表は減っていった。今では活動は行われていない。

だが、このシュールなセンスがVulfpeckの活動の端々に表れているのはよく感じ取れる。「Funklet」「DJ Paradiddle」におけるグルーヴオタクの面、「Holy Trinities」で分かる先日たちからの影響、そしてこの「Mushy Krongold」のセンスが全て合わさって、Vulfpeckの世界が成り立っているのだ。



◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。


◇既刊情報◇

バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)


ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」


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