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【決定的証言】Vulfpeckはライブリハーサルをしていなかった【ついに発見】
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、46回目の連載となる。では、講義をはじめよう。
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Vulfpeck(ヴォルフペック)はリハーサルをやっていないのではないか。
これは以前から、海外ファンの間で噂になっていた事柄である。
例えば、有名なAncienne Belgique(アンシェンヌ・ベルジック)でのライブや、
LOCKIN'でのライブ、
果てはMadison Square Gardenのライブに至るまで、
実はぜんぜんライブのための練習をしていないのではないか?
と言われていたのだ。
実はこの疑惑は、過去のJack(バンドリーダー)のインタビューに端を発したものである。
【インタビュワー:他のバンドメンバーと異なる都市に住んでいることのメリットは何でしょうか?
Jack:私たちは一緒にいるときはとても効率的で,すべての時間をレコーディングや演奏に費やしている。リハーサルなしで本番のパフォーマンスができるんだ。これはある意味,昔のやり方に回帰している。私の好きな曲(筆者注:モータウンなど,黄金期のリズム・セクションが参加した作品)のほとんどは,その方法で録音されたものなんだ。"ヒット・セッション"と呼ばれるもので,楽器を持ってスタジオに行き,曲を覚えて,その日のうちに録音するというものだ。デヴィッド・T・ウォーカーやジャクソン5,アル・グリーンなどの曲もそうだった。私たちの年間スケジュールの中にリハーサルをする時間はないので,この方法を継続していきたい。】
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画像出典:Vulfpeck Live at Madison Square Garden
これを読むと、少なくとも、レコーディングでは全くリハーサルを行っていない、というのが分かる。
しかし、ライブではどうなのか?このインタビューを読む限りでは、おそらくライブもそうなのだろう。
しかし、確証がなかった。
「ライブもリハーサルしていない」と明言されていないからだ。
ただ、各ライブの演出がほぼ固定され、いつも同じ演出になっていることや、転調した先のキーを誰も把握していないなど、リハーサルをやっていたらありえないようなミスが起こることなどから、
「おそらくライブもリハーサルはしていないのだろう」と言われ続けてきた。
そして、Jackはそこに対して口を開くことはなかった。
しかし――ついに私は見つけたのである。
彼の証言を。
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Cory : Vulfpeckは一度もリハーサルをしたことがありません。僕たちはマディソン・スクエア・ガーデンでもリハーサルをやらなかったし、他の場所でも、何年間もリハーサルをやっていません。
そう、Vulfpeckのギタリスト、Cory Wong(コーリー・ウォン)が、自分のインタビューでその秘密を語っていたのだ!
――それでは以下、Coryのインタビューをご覧いただきたい。少々長いが、非常に重要なことが語られているため、全文必読である。
Cory : そしてライブで起こるマジックについてですが、Jackがそのエネルギーを維持するために好んでいる方法は、リハーサルをしないことです。Vulfpeckは一度もリハーサルをしたことがありません。僕たちはマディソン・スクエア・ガーデンでもリハーサルをやらなかったし、他の場所でも、何年間もリハーサルをやっていません。
(筆者注:ゲストの)Dave KozとChris Thileがマディソン・スクエア・ガーデンで「Smile Meditation」という曲に参加した時も、リハーサルをしませんでした。Chrisはサウンドチェックをしなかったし、マディソン・スクエア・ガーデンのステージでも、彼はどこに自分の楽器を繋げばいいのか知らなかったんです。ステージ上には、ケーブルが付いた1/4インチのダイレクトボックスがありました。PAスタッフは、「あれが君のケーブルだから、あそこに行って、あれにつないでくれ」と言うだけです。(笑)
大人数のスタッフがいるわけではなく、僕たちは必要最低限のことをしているだけなんです。僕も自分の楽器はすべて自分で準備しています。楽しいですよ。それが僕らのやり方なんです。リハーサルをしないので、ライブのエネルギーが保たれるし、僕たちはしっかりと準備してきたという自信もあります。(中略)
そう、たまにサウンドチェックをやることもあります。「一度も」リハーサルをしたことがないというのはちょっと嘘ですね。
インタビュワー:私は、サウンドチェックはリハーサルに含めないと思います。(笑)
Cory : 確かにそうかもしれませんね!(笑) まぁ、少しはそういったこともありました。でも、それでライブのマジックが保たれているんです。そして、時には「ジャンピング・ポイント」もあります。Jackはブリトニー・スピアーズやガース・ブルックスのマイクのように、トレーニングのジム・リーダーが付けるようなマイクを顔に着けています。そして、彼は(筆者注:ライブ中に次にどうすべきかを皆に伝えるために)大声を出すんです。すると突然、「ジャンピング・ポイント(筆者注:予期しない展開)」が生まれ、楽しくなってくるんです。
数年前、Bernard Purdieに4日間ライブに参加してもらったことがありますが、その時も面白かったですよ。Jackは、「私は彼に一切何も言うつもりはないし、事前に曲や譜面を送るつもりもない」って感じでした。Bernard Purdieは、おそらく世界中のどのドラマーよりも素晴らしい直感を持っています。だから、彼にステージに上がってくれるように伝えるだけです。
そうしたら、彼はVulfpeckの曲を一曲も知らずにやってきました。彼は自分が何を叩くのか、まったく分かっていなかったと思います。ただ、ドラムを叩くことだけしか知らなかったはずです。彼はドープでシックなピンストライプのスーツを着て現れた!上品な格好でした。そして彼がステージに上がって、ドラム椅子に座ったのですが、まったく緊張していません。どうする、どうする?
そうしたら、突然Jackが「ブンツク カッツ カッツ ツクカン! 1! 2! 3!」って叫び出したんです!(笑) それで僕たちも慌てて演奏を始めて、Purdieも叩き始めた。Jackが示したグルーヴとカウントで、皆がスタートしたんです。そして何が起こったか? 僕たちは本能のままに演奏することができました。これこそ、魔法以外の何物でもありません。すべてが生物の直感に従った演奏だったのです。どうやって演奏すればいいのか? 彼は常に耳を澄ましていて、結果的に、僕たちはそのマジックを全て手に入れることができました。
こういったやり方は本来であればハイリスク・ハイリターンです。でもBernard Purdieが叩いているなら、これはハイリスクではありません。Chris Thileも、地球上で最も偉大なマンドリン奏者です。ハイリスクではないですよね。
だから、マジックが起きるのはいつも、僕たちが「何が起こるかわからない」と思っている時なんです。これは本当に面白いやり方なのですが、誰もがこのやり方を楽しめるわけではありません。すごく不安に感じる人もいるでしょう。それも分かります。
いかがだっただろうか?これは非常に重要なインタビューだったと思う。
まず、Coryが明言しているのは、
①Jackのアイデアで、例えライブでもリハーサルを行っていない
②たまにサウンドチェックをするぐらいだが、少なくともMadison Square Gardenのライブでは、それすら行われなかった
ということだ。
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Madison Square Garden、あれだけの完璧なライブが、一回もリハーサルをやらず、サウンドチェックもなしで行われていたなんて!
もしあなたのバンドが生まれて初めてMadison Square Garden(世界一有名なアリーナスタジアム)でライブをすることになったら、どうするだろうか。一世一代の晴れ舞台、これまでで最大のステージ。失敗は許されない、そのためにできることは何だ?
普通なら全体のバンド練習であり、普通なら入念なサウンドチェックだろう。誰かが間違えたり、音が出なかったらどうするんだ???
しかし、そこでリハーサルなし、サウンドチェックなしを選び取るのが、Jack Strattonなのである。彼は恐れない。
Woody : ジャックは多くの人の心に響くような様々な物事を体現していて,また多くの人が持っている恐怖心を持たず,より高いリスクを取ることができる,特定の性格の人間だったと思います。ジャックは私にスティーブ・ジョブズを思い起こさせます……彼はiPhoneは作っていませんけどね。
ちなみに、先ほどのインタビューでは世界的なマンドリン・プレイヤー、Chris Thileについても面白い話が挙がっていた。
(筆者注:ゲストの)Dave KozとChris Thileがマディソン・スクエア・ガーデンで「Smile Meditation」という曲に参加した時も、リハーサルをしませんでした。Chrisはサウンドチェックをしなかったし、マディソン・スクエア・ガーデンのステージでも、彼はどこに自分の楽器を繋げばいいのか知らなかったんです。
ステージ上には、ケーブルが付いた1/4インチのダイレクトボックスがありました。PAスタッフは、「あれが君のケーブルだから、あそこに行って、あれにつないでくれ」と言うだけです。(笑)
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画像出典:Vulfpeck Live at Madison Square Garden
これは、ライブの映像にちゃんとその瞬間、ケーブルを繋ぐ瞬間が残されている。サウンドチェックを行っていないのに、まったく動じておらず、一瞬でケーブルを見つけてさっと繋いでしまうのはさすがと言わざるを得ない。
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話を戻そう。Coryの証言でさらに重要なのは、
③リハーサルやサウンドチェックを行わないことで、ライブにマジックが起こる
ということである。
そしてライブで起こるマジックについてですが、Jackがそのエネルギーを維持するために好んでいる方法は、リハーサルをしないことです。(中略)マジックが起きるのはいつも、僕たちが「何が起こるかわからない」と思っている時なんです。
そう、Jackは理由なくリハーサルやサウンドチェックをやらないわけではない。それによってライブに魔法がかかり、皆が自分の殻を破る演奏をすることに期待しているのである。
Vulfpeckのライブはいつも、メンバーが全員とても楽しそうで、また、予期しない「何か」が起こりそうなワクワクに満ちている。ずっと、それが疑問だった。なぜVulfのライブは特別なのか?
その謎が今回、ひとつ解けたと私は考えている。それは、リハーサルをやらないことによって生まれる、メンバーが感じる期待と不安。そんなワクワクドキドキの感情が、メンバーから客席にも伝わり、それによって我々も「いま、この瞬間に何かが生まれている。新しいものが生まれている」と感じるのではないだろうか。
数年前、Bernard Purdieに4日間ライブに参加してもらったことがありますが、その時も面白かったですよ。Jackは、「私は彼に一切何も言うつもりはないし、事前に曲や譜面を送るつもりもない」って感じでした。Bernard Purdieは、おそらく世界中のどのドラマーよりも素晴らしい直感を持っています。だから、彼にステージに上がってくれるように伝えるだけです。
そうしたら、彼はVulfpeckの曲を一曲も知らずにやってきました。彼は自分が何を叩くのか、まったく分かっていなかったと思います。ただ、ドラムを叩くことだけしか知らなかったはずです。
世界的に有名なドラマー、Bernard Purdieがゲスト参加したときにVulfpeckの曲をまったく聴いてこなかった、これも通常ではありえないことだ。4日間も一緒にライブをするという時点で、それではショーが成立しない。
だが、それをショーとして成り立たせ、さらに魔法をかけてしまうのがJack Strattonなのである。
そうしたら、突然Jackが「ブンツク カッツ カッツ ツクカン! 1! 2! 3!」って叫び出したんです!(笑) それで僕たちも慌てて演奏を始めて、Purdieも叩き始めた。Jackが示したグルーヴとカウントで、皆がスタートしたんです。そして何が起こったか? 僕たちは本能のままに演奏することができました。これこそ、魔法以外の何物でもありません。
(👆この動画の最初では、実際にJackのグルーヴとカウント提示で曲がスタートしている)
Bernard Purdieだけでなく、Vulfpeckのメンバーも、超人的な楽器スキルを持った一流のミュージシャンたちだ。そういった人たちを一同に集め、彼らの力を最大限に引き出すためにはどうしたらいいのか?
そのためにJackが考えたのが、「リハーサルをやらない」という方法なのだろう。もちろんその時間が無い、というのもひとつの理由だが、その「時間が無い」をネガティブに捉えず、逆に「だったらリハーサルをやらないで、ライブに魔法をかけよう」と勇気を持って行動できるのが、Jack Strattonなのだ。
例え、それがMadison Square Gardenのステージでも――。
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勇者。
――これを勇者と呼ばずして、何と呼ぼう?
勇者(ゆうしゃ、ようしゃ[1])とは、勇気のある者のこと[1]。同義語・類義語に勇士(ゆうし、ゆうじ、ようし:男性、武士など)[1][2]、勇夫(ゆうふ:男性)、勇婦(ゆうふ:女性)などがある。
しばしば英雄と同一視され、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとしている者に対する敬意を表す呼称として用いられる。
Jackの旅は続く。今週末には、世界的に有名なフェス、BonarooでVulfpeckのライブが行われる。
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なんと、このステージでJackは、ステージ上でファンの結婚式を執り行う、という企画を立ち上げた。メンバーが牧師になり、愛し合う二人を祝福する、というのだ。
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しかし、断言しよう。今回も、Jackは一切のリハーサルをしないだろう。今回の結婚式に関しても、まったく打ち合わせることなく、衣装やセリフの準備だけで済ませてしまうことだろう。
まったくありえない、考えられない、失敗したらどうするんだ――。
そんな言葉は、Jackには関係ない。
断言しよう。きっとその結婚式も、ふたりにとって最高の想い出になる。誰も何が起こるか分からない、しかし、「何か素晴らしいことが起きるかもしれない」。
そして、
それを実際に起こし、魔法をかけてしまえるのが、
Jack Strattonと、Vulfpeckというバンドなのだから。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
![](https://assets.st-note.com/img/1686556018582-c2OB0VPPXG.png)
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
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ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」
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