どこよりも詳しいCory Wong // 祝・初来日!フジロック2023来日バンド徹底解説
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、45回目の連載となる。では、講義をはじめよう。
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さて――当マガジンでは、過去にもCory Wongについて、詳細に解説してきた。
今回はそこから派生して、ついに実現するCory Wongのフジロック初来日――その来日バンドについて徹底解説していこう。
まず、Cory Wongって何者?
まず、Cory Wong(コーリー・ウォン)について、改めて紹介するところからスタートしておきたい。彼については、私の過去記事で非常に詳細に記してきたが――ここでは簡単に解説しておくと、
ファンクのカッティングが世界トップクラス
主にファンク / フュージョンを演奏する
プリンスのバンドメンバーを率いている
このあたりが特徴になるかと思われる。
1の「ファンクのカッティング」とは、ダンサブルな曲でギターが「チャカチャカ」もしくは「ワウワウ」と鳴っている音をイメージしていただければ良いだろう。
これはダンスミュージック――ファンクのような生演奏のダンスミュージックには欠かせない要素で、Coryは特にその腕前に優れているのである。
(Coryのカッティングの実力は、こちらの動画が非常に分かりやすい👇)
2の「主にファンク / フュージョンを演奏する」に関しては、こちらのアルバムを聴いていただくのが良いと思う。現在最新作で、内容的にもそれらがバランス良く演奏された名盤だ。
3の「プリンスのバンドメンバーを率いている」については、記事の後半にて触れさせていただこう。
Cory Wongは1985年3月、ニューヨークで生まれ、ミネソタ州ミネアポリスで育った。ミネアポリスのマクナリー・スミス音楽大学でパット・マルティーノなどに師事。大学でジャズを学んだ後、2016年からファンク・ギタリストとしてソロ名義で活動をスタート。
(ソロ名義で最初のアルバム、2016年👇)
Coryは2016年からVulfpeck(ヴォルフペック)、2018年からThe Fearless Flyers(フィアレス・フライヤーズ)というファンクバンドにも参加しており、そこでも素晴らしいカッティングを披露している。
また、Tom Misch、Louis Coleなどとも親交がある。
さらに大御所にも認められる実力者であり、Larry Carlton、Victor Wooten、Metropole Orkestなどとも共演を果たしてきた。
現在、多くのプレイヤー、そして音楽ファンが名前を口にする、大注目のギタリスト――それが、Cory Wongなのである。
来日バンド概要
それでは、バンドの解説に移っていこう。
Coryは2017年に自らの名前を冠したバンド「Cory Wong and The Green Screen Band」を結成。そこからは何度かバンドの名前を変えつつも、中身やメンバーは基本的には同一のバンドを続けている。現在のバンド名は、「Cory & the Wongnotes」。今回の来日も、そのバンドによるものだ。
来日メンバーは以下の通りである。
総勢8名。
実はCory Wongバンドは、フルバンドではリズム隊にパーカッションや6管、さらにゲストにヴォーカル2~3名など、非常に大人数で構成されている。
今回の来日ではヴォーカル&パーカッション無し、管も4管と、いくぶんスリムな編成。だが、核となるメンバーはもちろん参加しており、彼らのサウンドを聴くには十分だと言えるだろう。
👆こちらの動画が、今回の来日バンドとほぼ同一の編成、メンバーになっている。ライブ全体の予習にはこちらの動画が最適だろう。
この曲は予習しておこう
さて、ではここからは、よくライブで演奏されている曲について紹介していきたい。
・Dean Town
こちらはもともとVulfpeckの曲。初演時からCoryが参加しており、その縁でCoryバンドでもここ数年、常に演奏されてきた。主にアンコールで演奏されている。
Vulfpeckでは小人数、シンプルなミニマルファンクになっているが、Coryのバージョンは管楽器が入り豪華なサウンドになっているのが特徴。テーマのメロディのベースラインを大合唱するのがお決まりになっているので、ここを覚えておくとより楽しめるに違いない。
・Home
こちらはECMのスムースジャズ、フュージョンをオマージュした楽曲で、チルなサウンドになっている。
ライブでは中盤に演奏されるのが定番となっており、美しいメロディから、怒涛のギターソロがスタートする流れは圧巻。
この曲は、原曲を収めたアルバムがグラミー賞にノミネートもしており、Coryにとってはキャリアの中でも重要な位置を占める曲となっている。
ちなみに、この曲が演奏されない場合は、代わりに「Medetations」という曲が演奏されるのが定番。
・Lunchtime
2019年のCoryのオリジナル曲。シンプルなファンク、途中でベースがフィーチャーされるのが定番。👆の初演時には、今回の来日でも参加するソニーTがベースを弾いている。
この曲は必ず演奏されるわけではないが、演奏率は高い。最近のライブでは、あえて全員ミニ楽器に持ち替えて演奏したり、テレビ出演の際は異常なまでのハイスピードで演奏したりもしていた。
これ以外にも、
・Radio Shack (Cory Wong & Vulfpeck)
・Flyers Direct (The Fearless Flyers)
・Assassin (The Fearless Flyers)
などの曲がよく演奏される。これらはどれもファンクで、原曲はCoryが参加しているバンドの曲だが、Coryはそれをオリジナルのアレンジで再編し、独自に演奏しているのである。
(もちろんこれは、オリジナル曲が少ない、というわけではない。あくまでファンサービスということで、参加バンドの曲を多めに演奏しているのだ。逆にオリジナル曲は多すぎて、「定番曲」を絞るのが難しいため、あえてこの記事ではあまり紹介をしていない)
メンバー詳細
さて、もちろん何も知らなくてもいいのだが、せっかくなので――
Cory Wongバンドにはいったいどういうメンバーが揃っているのか?
ここを知っておくと、今回のステージがより楽しめるはず。ここからは、メンバーの内容にフォーカスを当てていきたい。
結論から言うと、Coryバンドは大きく3つのミュージシャンに分けることができる。つまり、以下のような形だ。
①Coryの大学の友人
②プリンスバンドのメンバー
③最近加入したツアーメンバー
Vulfpeck、Ginger Rootなど、最近のバンドは学生時代の友人関係をそのまま音楽に持ち込み、成功しているケースが目立つ。そしてもちろんCoryもそのケースに当てはまっている――だけでなく、さらにプリンスの音楽を作り上げてきた歴戦のプロを加入させ、友人&レジェンド達のハイブリッド・バンドを築いているのである。
では、順にひとりひとりを見ていこう。
①Coryの大学の友人
◆Petar Janjic(ピーター・ジャンジック):ドラム
派手なメガネが特徴的な、Coryの大学時代の友人。大学卒業後、Coryと一緒にForeign Motionというバンドを結成。このバンドは2015~2016年頃に解散したが、メンバーや音楽性はそのままCoryのソロバンドに引き継がれ、現在の来日にまで繋がっている。
Coryと同じく、マクナリー・スミス音楽大学ではジャズを演奏。現代ジャズからロック、ファンクまで幅広く演奏し、Coryとは阿吽の呼吸でバンドのグルーヴを支えている。
非常に明るいキャラで、Coryとは大の仲良し。よくCoryの自宅スタジオで撮影される動画にも一緒に出演している。
◆Kevin Gastonguay(ケヴィン・ギャストングウェイ):キーボード
最近はいつもニット帽を被っている、Coryの大学時代の友人。Petar Janjicと同じく、Foreign Motionのメンバーだった。バンド解散後も、そのままCoryのソロバンドに継続して参加し続け、現在に至る。
彼もジャズだけでなくファンク、ポップスなどさまざまなジャンルに精通し、常に的確な演奏でCoryのバンドを支えている。
ちなみに過去には帽子を脱いだスタイルも披露しており、もしかしたら暑すぎるフジロックではこちらの姿になっているかもしれない。
この2名、大学の友人が参加し続けているというのは、どれだけCoryを支えていることであろうか。ステージ上でも、オフの動画でも、彼らとの会話は非常に気さくなものになっており、仕事と遊びの両立のようなバランスが、彼らによって成立しているとも言えなくもない。
②プリンスバンドのメンバー
Coryのバンドには、過去のプリンスバンド、具体的は90年代に参加していたメンバーが複数人在籍している。
今回の来日に参加しているのは、以下のメンバーだ。
◆Sonny Thompson(ソニーT):ベース
ソニー・トンプソン。通称、ソニーT。2016年からCoryと共演を続けている。
おそらく現在、プリンスのバンドメンバーで、もっとも活躍している人物。1991~96年に、プリンスの伝説的なバックバンド「NPG」に参加。「Diamonds And Pearls」(1991)、「Sexy M.F.」(1992)など、名だたる名曲でベースを弾いてきた。
ソニーTは鉄壁のグルーヴを誇り、さらにソロになると自らのフレーズを歌いながら弾いたりもする。👇
それだけでなく非常にユーモア溢れる人物でもあり、音楽業界の大先輩としてCoryバンドを大いに盛り上げている。プレイでも人間的にも、Coryが全幅の信頼を寄せるのが、ソニーTなのである。
◆Michael Nelson(マイケル・ネルソン):トロンボーン
Michael Nelsonは、プリンスのホーン隊「The Hornheads(ホーンヘッズ)」のリーダー。The Hornheadsではプレイヤーだけでなく、プリンスのホーンアレンジメントも担当。そして2017年以降は、Coryバンドの全ての管アレンジを一手に担っている。
もちろん彼は、プリンス以外にも多くのレジェンド級のアーティストのレコーディングに参加している。
彼の仕事が非常に分かりやすいのがこの動画。こういったアレンジを全て担当しているのだ。👇
The Hornheadsについては、公式サイトに書かれている情報が正確なのでここに引用しておきたい。
Coryバンドはそのすべての曲に非常に丁寧なホーンアレンジメントが成されているが、それは彼が参加しているからなのである。今回も4管を率いてCoryバンドで来日、その手腕に注目が集まっている。
◆Kenni Holmen(ケニー・ホルメン):サックス
Kenni Holmenは、黒い帽子がトレードマーク。先ほどから紹介しているThe Hornheadsのメンバーでもあり、ソプラノ/テナーサックス、フルートを担当。こちらも、2017年以降Coryと共演を続けている。
👆にもあるように、非常の多くの有名アーティスト、そしてプリンスと共演してきた人物なのである。
ソニーT同様にユーモア溢れる人物で、Coryバンドを和やかな雰囲気にしている。プレイはとにかく正確、かつ変幻自在。
ライブではステージ前まで出てきてソロを吹くことも多く、パフォーマンスも素晴らしい。今回の来日でも巧みなソロを聴かせてくれるだろう。
往年のプリンスを支え続けた名プレイヤーであるソニーT、Michael Nelson、Kenni Holmenの3名を生で観れるというだけでも、今回のCoryバンド来日には大きな価値がある。彼らの参加は、それほどに重要な出来事なのだ。
③最近加入したツアーメンバー
Coryバンドは2021年から「Cory and The Wongnotes」と名乗り、レコーディング、ツアーを行ってきた。ここから紹介するのは、これら2021~2022年のタイミングでバンドに参加したメンバーだ。
とはいえ、参加期間が短いからといって彼らを見くびってはいけない。どちらも素晴らしいプレイヤーであることが判明している。
◆Jay Webb(ジェイ・ウェブ):トランペット
Jay Webbは2021年からCoryバンドに参加。もともとバンドのトランペッターはThe HornheadsのSteve Strandが担っていたが、最近ではJayが多くのレコーディングやライブでトランペットを吹いている。
👆ここにもあるように、非常に優秀なプレイヤーである。👇の動画でもホーンセクション・リーダーを務めているのが映っているが、非常に大きな仕事を長年務めている、プロ中のプロである。
Jayは前に出てくるタイプのプレイヤーではないが、トランペットはファンク・ホーンに欠かせない存在。今回の来日でも、4管というスリムなホーンセクションを的確に支えてくれることだろう。
◆Jake Botts(ジェイク・ボッツ):サックス
Jake Bottsは、2022年からCoryバンドに参加したメンバー。バンドの中ではおそらく最年少、また最後に参加したメンバーである。
JakeはCoryバンドでは主にバリトン・サックスを担当。ホーンセクションを底から支え、時にKenniと一緒に前に出てきて熱いバトルを繰り広げている。
彼はCoryバンドにピックアップされ、その若さを発揮してホーンセクションをフレッシュに支えている。大先輩であるThe Hornheadsとの共演は、今後の彼のキャリアの中でも重要なものになっていくだろう。
以上7名が、今回Coryバンドで来日するメンバーだ。ここまで読んでいただけたなら、次にバンドを観るときは、少し違った視点で観ることができるだろう。
さらにCoryを知りたい人は……
では記事の最後に、さらに詳しい情報や動画などの紹介をして終わりにしたいと思う。
繰り返しになるが、Coryについては私の書いた過去記事で非常に詳しく書き記してきた。👇
『Cory Wong解体新書』どこよりも詳しいCory Wongまとめ――経歴・奏法・音源(1)vulfpeck、プリンスバンドとの出会い
『Cory Wong解体新書』どこよりも詳しいCory Wong――経歴・奏法・参加音源紹介(2)ソロ名義、ゲスト参加まとめ
生い立ち、全経歴、奏法、音源などについて調べて書いてあるので、是非こちらも読んでいただきたい。
そして、このあたりの動画・音源もオススメだ。
👆こちらは先日行われた、Victor Wootenとのツアー。ライブがフルで放送され、アーカイブが残されている。総勢フルバンドでの演奏を楽しむことができるので、非常に見応えがある。
👆生前のプリンスが居城にしていたスタジオ、「ペイズリーパーク」でレコーディングされたスタジオライブ。もちろんソニーTなど、当時実際にプリンスバンドの一員としてペイズリーパークで仕事をしたミュージシャンがゴロゴロ参加しているため、Coryのアルバムの中でも歴史的価値の高い一枚となっている。内容も素晴らしく、非の打ち所がない。
それでは、また次の記事でお会いしよう。ここまで読んでいただいて、本当にありがとう。Coryの来日があなたにとっても最高の体験になれば、これに勝る幸せはない。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
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