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『Cory Wong解体新書』どこよりも詳しいCory Wongまとめ――全経歴・奏法・来日バンド解説(1)vulfpeck、プリンスバンドとの出会い

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、6回目の連載になる。では、講義をはじめよう。


※Cory Wong初来日に向けて、2023年6月19日、大幅に加筆修正を行いました。最新の情報に更新してあります。

(👆Vulfpeckの解説本をバンド公認、完全無料で出版しました)



ミニマルファンクバンド、Vulfpeck(ヴォルフペック)のギターは、Cory Wong(コーリー・ウォン)というギタリストが担っている。

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画像出典:VULFPECK /// Live at Madison Square Garden

Vulfpeckの正式メンバーはJack、Theo、Joe、Woodyの4人であり、Cory WongはVulfpeckファミリーという立ち位置だが、ほとんどの曲でギターを弾き、ツアーにも必ず参加しているCory Wongは、Vulfpeckに無くてはならない存在だ。

※正式メンバーが4人のみで、他のサポートメンバーが正式メンバーにならないのはなぜか?に関してはこちら。👇

今回の記事ではまず彼のサウンドについて触れたあと、彼の経歴を追いかけ、どうやって現在のような素晴らしいギタリストになったか、などを紹介していきたい。



Cory Wongのプレイスタイル

ご存知の方はここは読み飛ばしていただいて構わないが――Coryについてそもそもよく知らない、という方は、是非ここから入っていただきたい。

Cory Wongはミネソタ州ミネアポリス出身のギタリストである。

現在、自らのバンドを率い、2023年のフジロックへの出演を決め、さらにVulfpeck、The Fearless Flyersなどでもギターを弾き、ラリー・カールトンや、ヴィクター・ウッテンなどとも共演する、世界的に知名度のあるプレイヤー。

そんなCory Wongは、「現代最高のリズム・ギタリスト」だ。

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画像出典:VULFPECK /// Live at Madison Square Garden

「リズム・ギタリスト」とは何か?

従来のギタースタイルは、「リード・ギター」と呼ばれる。ロックバンドのギタリストを思い浮かべてくれればいい。それに対して、ファンクバンドでひたすらカッティングでバンドを支えるギタリストが「リズム・ギタリスト」である。

「リード・ギター」は、和音によるハーモニーと、メロディ、与えられたソロスペースでのソロを弾くことでバンドの演奏に華を添える。しかしCoryを始めとした「リズム・ギタリスト」は、正確無比なリズムと、その中に潜む驚異的なメロディセンスによって、「和音カッテイングだけで耳に残るメロディが聴こえてくる」ようなプレイができる。

つまり、Coryはリード・ギターの要素(メロディ)と、リズム・ギターの要素を両方併せ持っているのだ。


このスタイルを、彼は自分で「リード・リズム」と呼んでいる。

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画像出典:コリー・ウォン(Vulfpeck)が教える“リード・リズム”のアイディア
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画像出典:コリー・ウォン(Vulfpeck)が教える“リード・リズム”のアイディア
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画像出典:コリー・ウォン(Vulfpeck)が教える“リード・リズム”のアイディア


「リード・リズム」のスタイルは、古くはChicのナイル・ロジャース、Earth, Wind & Fireのアル・マッケイがスタートさせ、そして1970年代末~1980年代に、マイケル・ジャクソンの「Off The Wall」「Thriller」「Bad」という名盤において活躍した二人のギタリスト――デヴィッド・ウィリアムス、ポール・ジャクソン・Jr.が推し進めた、ブラックミュージックに欠かすことが出来ないプレイスタイルだった。日本でも、山下達郎などがその路線のプレイヤーである。

僕のギターの最大のインスピレーションは、デヴィッド・ウィリアムスとマイケル・ジャクソンとの共演だ。90年代初期か80年代後半の彼のインタビューを見たことがあるんだけど、その中で彼はこう言っているんだ。「私がしたことの一つは、リズムギターをバンドの前面に押し出したことです。」それを見て僕は思った、「なんてこった!これこそ僕がやりたかったスタイルじゃないか!」

そして、僕のもう一つの大きなインスピレーションは、マイケル・ジャクソンの曲でも演奏していたポール・ジャクソン・Jrだよ。ティーンエイジャーの頃、『Paul Jackson Jr: The Science Of Rhythm Guitar』という古いDVDを持っていたのを覚えている。そこでポールはこう語っている。「誰も彼もがリード・プレイヤーになりたいと思って頑張っているのに、現役のミュージシャンであれば、90%の時間をリード練習に、10%の時間をリズム練習に使っているということを誰も気付いていない――しかし、これは現実に起こっている事象を、完全にひっくり返している。なぜなら、皆が実際にやっている演奏の95パーセントはリズムで、5パーセントがリードなんだから。」僕はこの話にも、とても共感した。

だからその二人から、パーカッシブなリズムギターがフックになって聞こえるよう、よりキャッチーに、メロディックにすることを学んだ。そして、「リズムギターは同時にリード楽器にはなれない」というジレンマを解決するための方法を見つけたんだ。

出典:“Everybody wants to be a lead player, but if you’re a working musician, 95 per cent of it is rhythm”: Cory Wong

👇今のインタビューでCoryが挙げているDVDはこちら。


では、そんなCoryのリズム・ギタリストとしての魅力を非常によく表している音源を紹介しよう。The Fearless Flyersのミニマルファンクだ。

画面のいちばん左がCoryだが、彼の弾いている音は、常に耳から離れない。耳に残りやすいメロディ、そのフックの繰り返し。

しかし単純な「テーマ」ではなく、あくまでリズムギターとしてのカッティングの範囲でそれを行っている。単純なワンコードでのカッティングでも細かい工夫を施して、それが音に埋もれず、かつメロディとして耳に残るような演奏を、常に行っているのだ。


またこの動画で、彼は自分のサウンドの秘訣を紹介している。

ここで語られていることは、まず、長年アコースティックギターを弾き続けたことで得た、柔らかく正確な右手首の動きが非常に役立っているということ。

そして、16分音符で常に右手首を大きく、柔らかく上下に動かし続けることで生み出せる、「実音とシェイカーのようなパーカッシブな音の組み合わせ」が重要だということ。

また、高校生のときに在籍したマーチングバンドのドラムラインで、グルーヴが大幅に鍛えられたこと。複数のフレーズが動的に積み重なるように意識することで、いかにひとりひとりの単なるリズムセクションが、「一つのパート」に昇華するかを意識していること。などである。


さらにこちらの動画では、エフェクターのコンプレッサーWampler Pedals Ego Compressor)が彼のサウンドに欠かせないことが自ら解説されている。
コンプレッサー無しと有り、両方を弾いてくれているが、「有り」にした瞬間に、完全にいつものCoryのサウンドに変化するのが分かるだろう。

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画像出典:Cory Wong of Vulfpeck on Drives, Compressors & Stratocasters | Reverb Interview


Coryのギターは70年代後半から、80年代にかけてのポスト・ディスコ的なグルーヴや、マイケル・ジャクソンの曲におけるリズムギターのフィーリングを兼ね備えており、まさに時代が彼のギターを必要としていると言える。

では、彼の経歴に入っていこう。


Cory Wongの活動初期(~2013年)

Cory Wongコーリー・ウォン)は、ニューヨーク州ポキプシーで生まれ、ミネソタ州フリドリーで育った。(出典:Q&A: Cory Wong Is Here to Stay

父の影響で音楽に興味を持ち、9歳でピアノのレッスンを始めたが、しだいにその興味はロックに移っていく。

次にベースを持ち、それもギターになり、パンクバンドを結成するようになった。当時は1990年代であり、オルタネイティブ・ロック全盛期。彼はレッチリ、プライマス、フー・ファイターズ、ウィーザー、グリーン・デイ、ブリンク182などに深く影響を受けた。そして高校生のころには、ギターの種類はフェンダーのストラトキャスターになり、以降はそれを自分の楽器として愛し続けている。

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画像出典:Mary Spender Interviews Cory Wong (on Vulfpeck, Fearless Flyers, Playing Madison Square Garden)

What first got you into music?
My dad. He was listening to Weather Report, Zeppelin, Keith Jarrett all around the house when I was a kid. It's what got me into deep music. And of course, pop. I'm a 90's alt-rock kid - stuff I just love like Weezer, Foo Fighters. I love so much of that music.

記者:音楽を始めたきっかけは?
Cory:父の影響です。子供の頃、父は家中でウェザー・レポート、ツェッペリン、キース・ジャレットを聴いていました。それがきっかけで深く音楽にハマったんだ。もちろんポップスもね。僕は90年代のオルタナ・ロック・キッズで、ウィーザーやフー・ファイターズなどの音楽が大好きなんだ。

出典:Interview: Cory Wong

記者:ベースからギターに転向した理由は?

Cory:学校で、2人の友人が僕と一緒にバンドをやると言い出したんです。そのうちの1人は、お父さんが家にドラムセットを持っていて、もう1人はお父さんが家にベースを持っていた。彼らから「ギターは買えないから、ベース2本でバンドをやろうよ」って言われました。でも僕は「それじゃダメだろう」って感じだった。「わかったよ、ギターを買うよ」って。僕はそれくらい(筆者注:パンク)バンドをやりたかったんです。ベースからギターに転向して、ずっとそのままです。そして僕は今でも「クローゼット・ベース・プレイヤー」ですよ。ベースを弾くのが大好きなんです。

記者:ベースを弾くことで、ギタリストとしてのリズム感にも影響があったのでしょうか?

Cory:『Blood Sugar Sex Magic』(Red Hot Chili Peppers 1991年)の採譜本を買って、ベースとギターで全曲を前から後ろまで覚えました。そうすることで、各パートがどのように組み合わされ、どのように機能しているのかを知ることがでたんです。

ギターにのめり込んだのは、『One Hot Minute』(Red Hot Chili Peppers 1995年)が発売されたときです。『One Hot Minute』も、ギターとベースのパートをすべて覚えました。とっても面白かったです。デイヴ・ナヴァロのギターへのアプローチ方法は、ジョン・フルシアンテとは全く違いますが、どちらもうまくいっているんです。それからバンド内でも、ギタリストの違いやアプローチの違いによって、サウンドにどのような影響が出るかを理解することができました。

他にも、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのアルバム『Evil Empire』の楽譜集を買いました。トム・モレロの音に惚れ込んだんです。「譜面を買って読めば、あの曲が弾けるようになるんだ……」って感じでした。

出典:“Everybody wants to be a lead player, but if you’re a working musician, 95 per cent of it is rhythm”: Cory Wong

So I got a Strat, and here we are, it just feels like home. When I play a Strat, it just feels like my voice. I love other guitars, but the Strat is just home.

Cory:ストラトを手に入れてからは、ストラトはまるで僕の家のようです。ストラトを弾くと、自分の声のように感じる。他のギターも好きだけど、ストラトは特別です。

出典:“Everybody wants to be a lead player, but if you’re a working musician, 95 per cent of it is rhythm”: Cory Wong


また同時に、多くのブラックミュージックに触れ、さらにミネアポリス出身のミュージシャンとして当然のように、深くプリンスに影響を受けた。

Who are your influences?
They come from the realm of Prince, Earth, Wind & Fire, and Michael Jackson. I grew up in Minneapolis. Prince was everywhere, and being a funk guitar player, that was a good thing. I'm a huge Béla Fleck and the Flecktones fan - still the best concert I've ever seen. And of course, Scofield, Frisell, and Metheny.

記者:影響を受けた人は?

コリー:プリンス、アース、ウィンド&ファイアー、マイケル・ジャクソンです。僕はミネアポリスで育ったんだ。プリンスはどこにでもいたし、ファンク・ギタリストとしてはそれは良いことだった。また、僕はベラ・フレック&フレックトーンズの大ファンで、それが今まで見た中で最高のコンサートだった。もちろん、ジョン・スコフィールド、ビル・フリーゼル、パット・メセニーも大ファンだよ。

出典:Interview: Cory Wong


前述したように、ポール・ジャクソンJr.や、デヴィッド・ウィリアムズというギタリストにも強く影響を受けている。しかし彼が20代前半で演奏していたスタイルは、実は現代ジャズだった。


最初はミネソタ大学で科学を専攻していたが、ミュージシャンになるためにミネアポリスのマクナリー・スミス音楽大学に通い、パット・マルティーノ、クリストファー・パークニング、アンドレス・プラド、チャーリー・バナコスらの指導を受け、マスタークラスを受講した。


卒業後はミネアポリス・セントポールのジャズライブハウスに通いつめ、そこから複数の仕事を掴み、音楽のキャリアをスタートさせている。

また、地元のインディペンデントレーベルSecret Stash Recordsを共同設立。2008年には当時、ミネアポリスの有名ジャズライブハウス「The Artists' Quarter」の火曜レギュラーバンドだった「Cory Wong Quartet」で、アルバム「Even, Uneven」をリリース。2010年には「Becoming」をリリースした。このころは完璧に現代ジャズの演奏をしている。「コリー・ジャズ時代」である。

(参考:https://coryjwong.wordpress.com/ 売れる前の、Coryの初期自作HP。まだ残っているのが素晴らしい。ファンは一見の価値あり ※2020年10月追記 現在はサイトがクローズしてしまった)

2012年には『Quartet / Quintet』をリリース。また同時期(2013年)に、Peter Kogan(ds)のジャズ作品にも参加している。

また、2013年にはマクナリー・スミス音楽大学時代の友人たちと、Foreign Motionというバンドを結成。こちらも、現代ジャズのバンドだった。



「ミネアポリス・ファンク・スクール」へ(2013年)

しかしCoryはジャズ以外にも様々な仕事を受けていたため、彼の名前は徐々に他の世界にも広がっていた。そしてここから、彼は現在に通じる、R&B、ファンクプレイヤーとしての才能を花開かせていく。


まず、ゴスペルシンガーのRobert Robinsonに認められ、彼のクリスマスツアーに帯同。このツアー中、有名シンガーソングライターのLarry Longがゲストで登場したことで、Larryに認められ、今度はLarryのライブに参加することとなった。(参照:https://www.youtube.com/watch?v=qmNEhOKfZ9A

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画像出典:How To *Musician* EPISODE 2 : How To Get The Gig : How To Lose The Gig
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画像出典:How To *Musician* EPISODE 2 : How To Get The Gig : How To Lose The Gig


そして、Larryのツアーにドラマーとして参加していたのが、プリンスのバックバンドでも活躍していた、マイケル・ブランド(Michael Bland)だったのである。

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画像出典:How To *Musician* EPISODE 2 : How To Get The Gig : How To Lose The Gig


ここでマイケル・ブランドと接点を持ったCoryはピックアップされ、ソニー・T(b)など、急速にプリンスのバンドメンバーと親しくなっていく。これが2013年のことだ。

プリンスのバンドとは――つまり、かの有名な、NPG(ニュー・パワー・ジェネレーション)のことである。(👇マイケル・ブランド、ソニー・T参加曲)

そしてCoryはマイケル・ブランドと、ソニー・T、そしてNPGのホーンセクションの「ホーンヘッズ」に認められ、一緒に仕事をするようになる。

これが彼のキャリアのなかで、最初の大きな転換点となった。


記者:信じられない。あなたは1980年代後半から1990年代初頭にかけてプリンスの有名なステージバンドであるニュー・パワー・ジェネレーションのマイケル・ブランドとソニー・トンプソン、そしてニュー・パワー・ジェネレーションのホーンセクションであるホーンヘッズと一緒に仕事をしていましたよね。彼らとの関係、出会い、そして彼らがこのアルバムにもたらした要素を教えてください。

コリー: あり得ないことだよね。彼らと定期的に演奏できて、日常的に接触できるなんて信じられなかった。僕はミネアポリスで演奏していて、シーンで生き残るために歯を食いしばっていたんだけど――マイケルは僕を認めてくれて、Doctor Mambo’s Combo(NPGの元になっているバンド)と一緒に、Bunker’s Jam(同バンドが20年以上演奏しているイベント)に参加させてくれたんだ。Bunker’s JamはR&Bナイトのようなものだったので――そこで演奏するために、マイケルが基本的な1963年から1978年までのR&Bソウルのレパートリーを全て教えてくれたんだ。毎週日曜日と月曜日には、それらの曲を全部覚えなければならなかった。

(中略)ホーンヘッズの時は、街中で何度かギグをやっていたんだけど、最終的にはバンドに入れてもらえることになったんだ。それに、僕らは本当に仲が良かったから、音楽的にも個人的にも心を開いてくれた。これは音楽シーンに限らず人生の様々な面で言えることなんだけど、一度シーンの中に入ってしまえば、ずっとその中にいることになる。だから、ミネアポリスの音楽シーンでは、みんなほとんどの部分で仲が良くて、「食物連鎖の中」で自分が上に行くようになると、より緊密な関係になっていくんだ。音楽的にもかなり高いレベルで彼らと繋がっていると、個人的なことがうまくいって、例えばマイケル・ブランドが「おい、俺は今レコードを作ってるんだ。ここにギターを入れてくれ 」と言ってくる。ホーンヘッズとは、マイケル、ソニーと同様に素晴らしい関係を築いているよ。経験や年齢に縛られることなく、一度家族の一員になれば、信じられないような感覚になるんだ。

出典:GRATEFUL WEB INTERVIEW WITH CORY WONG

ギター・マガジン2018年11月号のインタビューによれば、このBunker’s Jamのイベントには、生前のプリンスも見に来ていて、なんと演奏に参加していったこともあるという。

そもそもここはプリンスお抱えのミュージシャンのセッション箱として業界では有名な場所となっており、ツアーでミネアポリスに来たミュージシャンは、こぞってBunker'sにやってきた。John Mayer、Jimmy Vaughan、Victor Wooten、Roy Hargroveなど、錚々たる有名ミュージシャンを受け入れるセッションイベントだったのである。

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画像出典:How To *Musician* EPISODE 2 : How To Get The Gig : How To Lose The Gig

Bunker’sの曲リストは250曲以上あったと言うが、必死でそれを覚え、Coryはプリンスのバンドメンバーからの信頼を勝ち得ていった。ここでの「曲を覚える」とは、もちろん、完璧な暗譜のことだ。

最初はサブ・ギタリストとしての仕事が与えられていたが、メインギタリストのBilly Franzeが肩に大けがを負ったことで、Coryがメインギタリストに昇格することになったのである。(参照:https://www.youtube.com/watch?v=qmNEhOKfZ9A


こうして、彼は2013年にミネアポリスの音楽界隈、とくにプリンスの音楽「ミネアポリスファンク」を作り上げるミュージシャン達に認められたことで、まさに「ミネアポリス・ファンク・スクール」とでもいうべきものに入門し、そのグルーヴを鍛え上げていくことになった。

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画像出典:How To *Musician* EPISODE 2 : How To Get The Gig : How To Lose The Gig


そして、この「Bunker’s Jam」のステージを見に、あの男たちもやってきたのである。


Vulfpeckとの出会い(2013年~)

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画像出典:Chris Hahn, https://www.flickr.com/photos/newmodernscience/34798210942/

僕だけが唯一ミシガン大学には通わなかったんだ(笑)。彼らは大学で出会ってこのバンドを始めただろ?で、僕が参加するきっかけになったのはさっき言ったプリンスも観に来てくれたハウスバンドでのギグなんだよ。そこにヴルフペックのみんなが観に来てくれてね。

出典:ギター・マガジン2018年11月号

I wanted to talk Vulfpeck and your relationship with the band. Now you weren’t an original member. However you’ve known the guys since pretty much the beginning, and I understand you met the guys when they were on tour playing a gig at Bunker's in Minneapolis?

CW: Yeah man the Bunker’s gig is where we met, and we just hit it off right away. They were digging on the band, and we went out for breakfast the next morning, they were just passing through town, and then that evolved, and I started hanging out with them when I was in LA and vice versa.

記者:ヴォルフペックとあなたの関係についてお聞きします。あなたはオリジナル・メンバーではないですよね。彼らがツアー中に、ミネアポリスのBunker'sで出会ったと聞いていますが?

コリー:ああ、Bunker'sで会って、すぐに意気投合したんだ。彼らはバンドに興味を持ってくれていて、翌朝朝食を食べに行ったんだけど、彼らはちょうど町を通りかかったところだったんだ。それで、僕がLAにいるときや、逆に彼らがミネアポリスにいるときに、一緒に演奏するようになったのさ。

出典:GRATEFUL WEB INTERVIEW WITH CORY WONG

コリー:(Bunker'sでライブをしていて)ある晩、男たちが入ってきた。彼らは明らかに僕と同じくらいの年齢で、若いミュージシャンのように見えた。僕は彼らを見て、「僕はなんでこの人たちを知らないんだろう?なんで僕らは友達じゃないんだ?いやいや、友達になるべきじゃないか」と思ったのさ。そしてセットが終わった時に、その中からTheoがやってきて――僕も彼も外交的な性格なんだけど――「おい、すごいな、なんてやつだ!」って言ってきた。僕も「ああ、君は半年前にCaleb Hawleyのバンドで演奏していたね。Theoっていうのか!」って意気投合した。Calebは僕らの共通の友人で、Theo達にBunker'sを観に行くように提案してくれていたんだ。そしてTheoが、「こっちはJack、Joe、そしてJoey Dosikで――」と、みんなを紹介してくれた。彼らは「次の日の午後2時まで出発しない」と言っていたので、そこから僕らは一緒に遊んで仲良くなったんだ。

出典:The Third Story / Cory Wong

ある夜、VulfpeckのJack、Joe、Theoが、ダレン・クリス(筆者中:Gleeで有名な歌手)のツアー中にミネアポリスに立ち寄った。彼らはBunker'sの噂を聞きつけて、ギグの後にBunker'sに行こうと決めたんだ。彼らはステージから見ると、同い年のミュージシャンのように見えたよ。

セットブレイクの時、僕のところにTheoがやってきて、「おい!なんてヤツだ、お前の演奏は最高だよ!」って言ってくれたんだ。
僕たちには共通の友人であるCaleb Hawleyがいて、一晩中遊んで友達になって、翌朝には朝食を食べに行った。そして、ミネアポリスとLAを往復する日々がスタートしたんだ。一緒にセッションをするようになって、JackはVulfpeckのアルバムとライブに僕を誘ってくれて、バンドの一部として僕を吸収してくれたのさ。

出典:How To *Musician* EPISODE 2 : How To Get The Gig : How To Lose The Gig
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画像出典:How To *Musician* EPISODE 2 : How To Get The Gig : How To Lose The Gig

このように、2013年のミネアポリスのBunker'sが、CoryとVulfpeckの最初の出会いとなった。同年末、彼らが一緒にジャムセッションを行っている動画が残されている。


ここからしばらくは、Coryは前述の大学時代の友人とのバンド、Foreign Motionで活動。

Foreign Motionは、Coryがプリンスのバックバンドミュージシャン達と交流を深めてファンクへ傾倒していったという変化を汲み取り、2013年の結成当時は現代ジャズだったが、2015年にはインスト・ファンクのバンドになっていた。

こちらのバンドはおそらく2015年で活動が停止。その翌年、2016年から、Coryは自らのバンドを立ち上げつつ、Vulfpeckに全面的に参加するようになっていく。

👆Coryが初参加したライブ。2016年6月22日。

Coryが初参加したアルバム「The Beautiful Game (2016)」👆では、自身の名を冠した「Cory Wong」という曲も特別に作られた。先ほども紹介した2013年のセッションを発展させた楽曲だ。

こちらについては、曲のリリースについて面白い話があるので、よかったら別記事もご覧いただきたい。👇


さて、Coryが全面参加したアルバム、「The Beautiful Game」はいきなりR&Bアルバムチャートで10位に入り、Vulfpeckのキャリアでトップセールスを叩き出した。

Vulfpeckは一躍、世界で人気のファンクバンドとなり、CoryはベースのJoe Dartと同じく、バンドを牽引するスーパー・プレイヤーとして認識されるようになる。この「The Beautiful Game」への参加が、彼のキャリアの二度目の大きな転換点だったと言えるだろう。


Coryはその後も、Vulfpeckのすべてのアルバム、またライブに参加。メインのギタリストとしての地位を確立し、Vulfpeckの成功に大きく貢献し続けている。

Vulfpeckは2019年にマディソン・スクエア・ガーデンで単独公演を行い、チケットをソールドアウトさせたが、そこにはCoryの功績があったことは間違いないだろう。


The Fearless Flyers(2018年~)

また、同時にCoryはVulpeckのサイドプロジェクト、The Fearless Flyers(フィアレス・フライヤーズ)にも参加している。

メンバーはVulfpeckからJoe Dart(bs)、スナーキー・パピーからMark Lettieri(gt)、そしてドラマーのNate Smith(ds)だ。

こちらのバンドも非常に人気の高いファンク・バンドであり、2022年には世界のジャズフェスの頂点でもあるNorth Sea Jazz、そしてNewport Jazzにヘッドライナー級の扱いで出演した。

これはサンダーキャット、ノラ・ジョーンズなどと同等の扱い。バンドが、そして何よりCory自身が世界的に高く評価されていることが分かる。


The Fearless Flyersに関しては、私の別記事で詳しく特集しているので、よかったらそちらをご覧いただきたい。


2023年来日バンドについて

そして、Cory Wongは2023年のフジロックで来日が決定している。

もともとは2020年のフジロックでCoryの来日が決まっていたのだが、コロナ禍によってそれがキャンセルになってしまったため、今回、ようやく初来日が叶うのだ。

マディソン・スクエア・ガーデンをソールドアウトさせ今やファンクバンドの代表格となったVULFPECKのメンバーとして知られ、Fearless Flyersや数多くのコラボレーションを通じて、その独創的でタイトなプレイスタイルで知られているギタリスト。フェンダーからはストラトキャスターのシグネチャーモデルがリリースされ、トム・ミッシュらと共にギターマガジンの新3大ギタリストにも選出されたカッティングマスター。そんな現代を代表する最高のギター・ヒーローが遂にフジロックのステージに登場する!

出典:フジロック公式サイト アーティスト紹介ページ

こちらはCoryが現在活動している自己名義のバンドでの出演となる。メンバーは以下の通りだ。

Cory Wong - guitar
Kevin Gastonguay - keys
Petar Janjic - drums
Yohannes Tona - bass
Michael Nelson - trombone
Kenni Holmen - sax
Jay Webb - trumpet
Jake Botts - sax
Alex Bone - sax

このうち、Kevin GastonguayPetar Janjic、Yohannes Tonaの3名は、ここまで紹介してきたCoryの過去バンド、Foreign Motionのメンバーだ。彼らは大学の友人たちなのである。

そしてMichael NelsonKenni Holmenは、ホーンヘッズとして、プリンスと長年にわたって共演してきたミュージシャン。

つまり、今回の来日バンドは、大学からの長年の友人&プリンスのバックバンドメンバー、というCoryにとっては非常に理想的な内容になっているのである。

今回の来日バンドについては、別記事に詳細な解説を書かせていただいたので、よかったらそちらもご覧いただきたい。




では次回はこのまま引き続き、『Cory Wong解体新書』どこよりも詳しいCory Wong の2回目として、Coryのソロ活動にフォーカスした解説を行っていこう。

トップ画像出典:https://twitter.com/guitarmagazine1/status/1057238023618748416?lang=da


◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。


◇既刊情報◇

バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)


ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」


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