球団ヒストリー8.温度差
当時のことを、チームの大黒柱だった投手、竹山徹さんはこう語る。
「企業チームに所属していた経験がある3人(宮田仁志さん、竹山徹さん、磯辺一樹さん)は、練習の厳しさをよく知っていました。
企業チームだと、野球をやること自体が仕事になる。お金をもらいながらプレーできるんです。もちろんその分のプレッシャーは伴いますが。
でも、クラブチームは違う。仕事をしながら、むしろ部費を支払いながら野球をする。仕事で疲れた体にムチ打って、車を運転して球場に行き、練習に参加する。それはもう、想いが強くないとできない」
つまり不真面目な選手が多かったのでは断じてなく、みんな一様に想いは強かった!
ただ社会人野球という世界の厳しさを肌で知っている選手と、まだそれを体感していない選手との温度差があった、ということ。
そう。まだ体感していなかった。
欽ちゃん球団との試合は、あくまでイベント。公式戦ではない。
学生野球でいうところの、他校との交流戦のようなものなのかもしれない。
そこには独特の華やかさや楽しさはあるけれど、公式戦の緊張感はない。
試合をして、他のクラブチームや企業チームの様子を知り、雰囲気を体感することで、少しずつ感じていくことしかできなかった。
「正式に登録したということは、企業チームとの対戦もあるということ。
企業チームというのは、クラブチームに負けることを絶対に嫌がるんです。給料をもらって野球しているから会社を背負っているわけだし、仕事を休んで試合に出てる。負けたら職場では『お前らなにやってんの?』という目で見られるんですよ。
そのプレッシャーを知ってて自分たちのチームを見ていると、ホワイトウエーブが強くなることも、チームが存在し続けることも、正直無理かもと思った」
そう語るのは、こののち宮田さんからバトンを受けて2代目キャプテンを務めることになる磯辺一樹さん。
磯辺さんはかつて、同じ九州地区の企業チームに所属していた。仮に九州2次予選まで進むと、そのチームと対戦する可能性がある。当時は試合云々の前に、このチームの雰囲気を「まだ見られたくない」と感じてもいたそうだ。
と、この言葉、実はここに書くことに迷いがあった。少し冷たく受け取られる可能性もある、と思ったから。
この言葉から私が感じたのは、チーム愛と現実の間での葛藤。そこを埋めるべく、企業チーム出身の3人が背中を見せていくことになる。
プレーできる環境を整えた運営側と現場の温度差、
社会人野球の厳しさを肌で知っている選手と、学生野球や草野球の匂いの残る選手との温度差。
ホワイトウェーブの船出は、その温度差との闘いでもあったのかも…とお話を聞いていて思ったのでした。
ただ、とても印象的だったのは竹山さんの「みんな、『硬式野球できるの楽しいね』と思ってたんじゃないかな」という言葉。
少し歳を重ねた野球少年ばかりが集まった、鹿児島ホワイトウェーブ。
その根っこに強くあるのは、とにかくみんな「硬式野球が好きだ」ということだったんだろう。みんな、硬球を握れることの喜びを感じていたんだろうな。
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