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お母さんの人生

「最近お母さんの様子がおかしいんだ。」
と父からLINEがきた。
滅多にそういうことを私に話してこない父からの連絡。
あぁやっぱりそうか、とドキドキする心を抑えるのに
少し時間を費やした。

コロナが始まって、母は家から出なくなった。
友達とご飯を食べに行くことも、
電車に乗って自分の兄弟に会いに行くことも、
近所の人との長話さえあまりしなくなった。
行くところは近所のスーパーのみ。
話す人は同居している父と叔母。
あと私が預けている猫。

そんなことが半年ほど続いた頃から、
同じ会話を繰り返すようになり、
ちょっとキレやすくなったり、
部屋が片付けられなくなったり。
『。。。もしかして』
と思いながらも、私は私で自分のことで忙しく、
母と向き合うことをしていなかった。
お母さん、やっぱり認知症が始まっちゃったのかな。
そう考えた瞬間から私は不安という幻想にかられるようになった。

私は根回しをした。
母のかかりつけ医に相談し、先生から脳の萎縮具合を診るための
MRIを勧めてくれるようにお願いしに行き、
そこで補聴器をつけるように勧められると、
耳鼻科に行って何とかうまく母が補聴器をつけてくれるよう
説得してくださいとお願いした。

一見「いいお嬢さんね〜」と言われがちなことなのかもしれない。
私もお母さんのためとか言いながらやっていたのだが、
本当にそうだったのかなと今は思う。
将来自分が困らないようにじゃない?
そう思ったら、そのすべて根回ししていることが気持ち悪くなった。

結果から言うと、全く認知症ではなかった。
MRIの結果も問題なく、認知症のテストも高得点でクリアした。
だとしたら、あの認知症に似た症状は何なんだろう。

そんな時友人から
「お母さん、鬱なんじゃない?」
と言われ、はっとした。
コロナが怖くて家から出なくなり、
家族以外の人と接することがなくなり、
ずっと閉じこもっているから体を動かすことも
少なくなり、日光を浴びる時間も少なくなっているはず。

あぁそっか、お母さん認知症じゃなくて鬱なのかも。
コロナの影響ってこんなところにも出てくるのか。。。
陽性者も大変だろうけど、こんなふうに影響受けてる人も
いっぱいいるんだろうなぁ。
こりゃ大変だ。
と思いながら、コロナ禍の鬱や老人性の鬱について少し調べてみた。

ググってみると書いてあることはどれも同じような内容。
「好きなことをしましょう」
「興味のあることをやってみましょう」

お母さんだってそれができていれば、おうち時間も何も問題なかったはずだ。
だが、私の親世代の人たちはきっとみんなそうだと思うのだけれど、
ずっと我慢して生きてきたのだ。
親のため、子供のため、家族のため。
そうやって自分が本当にやりたいことに蓋をして、
見て見ぬ振りしながら生きてきた人たちに、
今さら「さぁ好きなことをして人生を生きましょう!」
って言ってもできないのだ。

お母さんがゆっくりとコーヒーを飲みながら本を読んでいるとか
そういえば1回も見たことがない。
毎日毎日家事と仕事と子育てで、自分の時間なんて全くなかったんだろうな。
と大人になった今少し申し訳なく思う。

そんな母の口癖は
「私の人生って何だったんだろう」
だった。

それを聞くたびに、いつも私は
「だったら好きに生きればいいのに」
そう思っていた。
何でそうしないんだろう。
何でそう生きないで、文句ばかり言っているんだろう。
私はこんな我慢ばかりの人生なんて送りたくない、
そう思っていた。

母には今まで自分の人生を犠牲にさせてしまった分、
これからは自分の時間を大切にして、
自分の好きなことをして過ごしてもらいたい。
本当にそう思うけれど、
こればっかりは本人がやろうという気になってくれないと
どうにもならない。

とりあえず、コロナが早く終息して
みんなが生き生きと生活できる日が戻ってきますように。

そしたらお母さんが行きたいところ、
どこにでも連れてってあげよう。
お母さんに笑顔が戻ってくることを祈って。。。







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