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檸檬、それは新しい風🍋:国語教師のオンライン講義を受けてみた。

8月2日。夏のお昼間は、涼しい部屋で読書に限る。
オンライン読書会<京都朱雀町喫茶室BOOK CLUB>にて、梶井基次郎「檸檬」の読解をこころみた話。


学びのプラットフォーム「MIRAI」

学びのプラットフォーム「MIRAI」って、知ってるぅ?
待って勧誘じゃない。何も売りつけたりしないからページ閉じないで~。

MIRAIは立命館大学が運営している、誰でも講義を受けられるサイト。歴史や統計学など、その時々でいろんな講義が開催されている。

目に留まったのは今回の「【オンライン読書会】京都朱雀町喫茶室 BOOK CLUB」。
現役国語教師が考案し授業でも使っている「読み深めカード」なるものを使って、色々な作品を読み解いていこう、という内容らしい。
しかもラインナップの中に、梶井基次郎『檸檬』があるじゃないか!!

去年のにこにこ朗読配信で梶井基次郎にハマり、『Kの昇天―或はKの溺死』、『泥濘』、『冬の日』を連続で朗読して最高のひとときを過ごした。
最後の『冬の日』朗読後は勝手に「影の三部作」とか名付け、ビール片手にエヘエヘと自分の感想を喋ってたのだけど…正直、もっともっと読みを深められるはず…とも思った作品だった。
そんな梶井基次郎。『檸檬』、そして「読み深めカード」を通して、今後の楽しみも増えるかな~と期待を抱いて受講してみたよ。
しかもお値段、2時間で800円と良心的!

👆ここで毎月朗読してる📚

読み深めカード

「読み深めカード」は講義をしてくださった犬飼先生自身が考案したものらしい。立命館守山中学・高等学校で国語教師をしている方です。

犬飼龍馬先生に講義してもらったよ

国語の授業って、「あなたはどう考えますか?」って訊かれたから答えてるのに微妙な反応をされ、「正しい答え」に誘導されるのが嫌ってことない?どう考えるかに正解もなにも無くないか、という。テストなんか作者も正解できない…という説もあるし。
国語の読解問題、作者自身が解いたら満点取れるのか!? :: デイリーポータルZ (dailyportalz.jp)

だから「内容を教える」ではなく「考えの取っ掛かりを与える」っていう方向性が素敵だなと思った。
ちなみに学校の授業ではカードバトル的に使ったりもするようだ。どのように?!それもまた面白そう。

檸檬は丸善を爆破できるか?

講義はZOOM開催。
最初に先生の講義(読み深めカードの説明や例題)があり、何人かで音読をした後、いくつかのグループに分かれる。
グループごとに読み深めカードを3枚選んだら、各々カードに沿って読解を深め、しばらくしたら集まって話し合う。グループごとに出た意見を発表して、最後に先生の読解を聴いて終わる。といった流れ。

私のいたグループは、「対比して考える」「心情の変化を考える」「象徴から考える」というカードを選んだ。
ここからネタバレなので未読の方はぜひ読んでみてね。そして一緒に考えよう♬


ちなみに私は読み深めカードを使う前、こんな風に考えていた。

・生活が安定していた頃は夢中になっていた丸善だが、今の主人公はその立場からはみだしてしまった。居た堪れなさ、悲しみ。
・享受するには財力や体力が必要な<限定的な美>である丸善に対し、檸檬は受け手を選ばない<原始的・本質的な美>である。
・檸檬という本質的な美は、丸善という一部の者にのみ許された美よりも力強いはずだ。丸善が象徴している限定的な世界を、爆弾のように打ち砕く力を持っている。

うーん、マ、それなりに対比や象徴を使って読めているかなあ👺♬
しかし読み深めカードを選んだあとで、同じグループになった二人の方と読んでいくと、新しい発見がいくつもあった。

序盤は「京都を出て」壊れかかった街へ行きたいと思っていた主人公が、ラストでは丸善を爆破することを考えながら歩いていく=現実から逃げるのではなく、逆に現実に一石を投じる。前向きに歩を進められるようになった。<対比><心情の変化>

いつも序盤のシーンってすごく重要よね

檸檬を買ったあと丸善に入るときは足取りが「ずかずか」だったのが、出ていくときは「すたすた」になっている。檸檬を置くことにより、心は軽くなった。<心情の変化>

なんと現役高校生の方の意見!すごい。

檸檬を握ることで「不吉な塊」が弛んでいった。そこから檸檬はただの果物ではなく幸福の象徴となり、憂鬱の象徴であった丸善をも壊していく。<象徴>

触覚や香りの描写も鋭く印象に残る

おもしろ~い。カードがあるから、初対面の方ともポイントを押さえた意見交換ができた。
楽しくやりとりしてると時間もあっという間で、最後の30分となってしまう。発表タイム。


他のカードを選んだチームの意見もすごく良かった。
例えば「当時の社会を調査」というカードを選んだチームからは「作品が発表された1925年は第一次世界大戦後の混沌とした時代で、治安維持法と普通選挙法が成立した年」と教えてもらった。
また、「売柑者之言」という言葉が出てくるのだけど、それは「外は美しいが中は腐っていて『鼻を撲つ』」という意味らしい。それなのに、このフレーズを思って主人公は元気になっているのは歪んでいるのかな、という意見も。

私は何度も何度もその果実を鼻に持っていっては嗅いでみた。それの産地だというカリフォルニヤが想像に上ってくる。漢文で習った「売柑者之言」の中に書いてあった「鼻を撲つ」という言葉がきれぎれに浮かんでくる。そしてふかぶかと胸いっぱいに匂やかな空気を吸い込めば、ついぞ胸いっぱいに呼吸したこ とのなかった私の身体や顔には温かい血のほとぼりが昇ってきてなんだか身内に元気が目覚めてきたのだった。…

梶井基次郎『檸檬』

そして、カリフォルニヤは何を象徴しているのだろう?という疑問が出る。
丸善について「ロココ趣味」という描写も登場するが、これは同じ「洋風」への憧れなんだろうか?そんなことを話し合う。

最後に満を持して、先生の読解を聴いて幕。

当時は第一次世界大戦の後。この戦争によってヨーロッパは衰退していき、アメリカが伸びていった、そんな時代。
「ロココ趣味」を含む丸善の中。「ヨーロッパの画本」を積んだ上に、「カリフォルニヤ」からやってきた檸檬を置く。
それはヨーロッパ的な従来のエリート世界からはみだしてしまった自分に対する憂鬱を、「これから来る」であろうアメリカを象徴する檸檬によって打ち砕くということ。主人公の価値の軸をアップデートすることで、足取りも軽く丸善を出て、映画の看板の中を歩いていく。

うお~。出てた、出てたよ近い意見や疑問が。時代背景や、カリフォルニア。
こうしていろんな人と意見を交わしていると、「お手本の読解」を聞いたときにも拒否反応がない。全グループの意見をまとめて上手に料理された感じがあって、非常に面白かった。


おまけ

いつにも増して長い…ここまで読んでくれた方ありがとうございました。
最後にもうひとつ、面白い情報を共有させてください。
どうもこの『檸檬』、『瀬山の話』という未完の習作が土台にあるようで、
『瀬山の話』にはこんな一節があるようで。

ちょうど木に実った林檎の一つで私はあった。
虫が私を蝕んでゆくので他の林檎のように真紅な実りを待つ望みはなくなってしまった。
早晩私は腐って落ちなければならない。
しかしおちるにはまだ腐りがまわっていない、それまで私はだんだん苦しみを酷くうけながら待たねばならない。

梶井基次郎『瀬山の話』

これってもしかして、なぜ「売柑者之言」を思い出して元気が湧いてきたのか、という問題に迫るものではないかな?

あ~、奥深い。すべてを理解する日がくるとは思えないから、ずっと考えてしまう。永遠に味がする、これが名作ですか。
100年前に書かれた作品を今もなお咀嚼し続けている。人類は滅びの瞬間まできっと永遠に文学を味わい続けるだろう!今夜は、眠れないぜ~💣

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