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人生革命セミナーの闇 6章: 煽り立てるイベント1
溢れる情報と混乱
田中一郎がセミナーへの参加を控えると決意してから数日が経った。しかし、その決意とは裏腹に、彼のもとには次々と新たな情報が押し寄せていた。
ある朝、いつものようにスマートフォンを手に取った田中は、LINEやFacebookの通知の多さに驚いた。
「何だこれ...」
画面を開くと、セミナー関連のグループチャットが次々と更新されていた。
「皆様、明日から始まる3日間の集中合宿、楽しみにしていますね!」
「東京セミナーの申し込みは本日まで!お急ぎください!」
「大阪でのビジネス交流会、まだ席に余裕があります」
田中は眉をひそめた。「どれもこれも...」
さらに、個人的なメッセージも複数届いていた。
南由紀子からは、「田中さん、最近の様子が気になります。個別カウンセリングはいかがですか?」
大西小悟からは、「田中さん、次の特別セミナーであなたの人生が大きく変わります。ぜひ参加を」
友人になったはずの木村からも、「田中さん、一緒に新しいビジネスチャンスを掴みませんか?」
情報の洪水に、田中は頭を抱えた。
「どれに参加すればいいんだ...いや、そもそも参加する必要があるのか?」
混乱する田中に、さらに電話が鳴った。発信者は佐藤だった。
「もしもし、田中です」
「おはよう、田中さん。今週末の山形セミナー、一緒に行きませんか?」
田中は言葉に詰まった。「え?山形...?」
「そうそう。大西さんが特別講演をするんだって。これは見逃せないよ!」
田中は深いため息をついた。「佐藤さん、実は最近ちょっと...」
しかし、佐藤の熱意に押され、田中は曖昧な返事をしてしまった。
電話を切った後、田中は会社に向かった。しかし、頭の中は情報で一杯だった。
会社に着くと、同僚の山田が声をかけてきた。
「田中さん、聞いた?来月の社員旅行、キャンセルになったらしいよ」
田中は驚いた。「え?なんで?」
「会社の業績が悪いんだって。ボーナスも減らされるかもしれないって噂だよ」
その言葉に、田中は現実に引き戻された。「そうか...」
昼休み、田中は一人で弁当を食べながら、スマートフォンを眺めていた。すると、新たな通知が届いた。
「田中様、あなただけの特別オファーです。今なら半額で...」
思わずため息が漏れる。
「もう...どうすればいいんだ」
午後の仕事中も、田中の頭は混乱したままだった。報告書を書こうとしても、セミナーの日程や値段が頭をよぎる。
「集中しなきゃ...」
そう自分に言い聞かせながらも、なかなか仕事に集中できない。
帰宅後、田中はソファに倒れ込むように座った。テレビをつけると、偶然にも自己啓発に関する特集をやっていた。
「あなたの人生を変える方法、教えます!」
思わずチャンネルを変える田中。しかし、次のチャンネルでも似たような内容が...。
「もう、逃げ場がない...」
その夜、田中は眠れずにいた。頭の中で、様々な情報が渦を巻いている。
セミナー、ワークショップ、合宿、ビジネスチャンス...。それぞれが「人生を変える」と謳っている。
「本当に変わるのか?でも、変わらなきゃいけないのか?」
答えの出ない問いに、田中は苦しんでいた。
翌朝、目覚めると同時に、また新たな通知の嵐。
「今日限定!スペシャルウェビナーを開催します」
「明日から始まる7日間チャレンジ、参加者募集中!」
田中は、スマートフォンを枕元に置いたまま、天井を見つめた。
「このままじゃ...どうにかなっちゃう」
そう呟きながら、田中は深呼吸をした。そして、ゆっくりと起き上がると、スマートフォンを手に取った。
「よし...」
田中は、勇気を出して操作を始めた。通知をオフにし、いくつかのグループから退会する。
そして最後に、大西と南に短いメッセージを送った。
「しばらく、全てのイベントを休ませていただきます」
送信ボタンを押した瞬間、田中は少し肩の荷が下りたような気がした。
「これでちょっとは...落ち着けるかな」
そう思いながら、田中は久しぶりに穏やかな気持ちで朝食を取った。
しかし、これが全ての終わりではなく、新たな挑戦の始まりだということを、田中はまだ知らなかった。
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