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人生革命セミナーの闇 7章: セミナー勧誘のビジネス1

勧誘方法の伝授

田中一郎が自分の意思で決断を下し始めてから数週間が経過した。しかし、セミナーコミュニティからの誘いは止まることを知らなかった。ある日、田中は大西小悟から直接の電話を受けた。

「田中さん、久しぶりですね。最近の様子を聞いて少し心配しています」

田中は緊張しながら答えた。「あ、はい...」

「実は、あなたにぴったりの新しいプログラムがあるんです。セミナーの知識を活かして、他の人を助ける側になってみませんか?」

田中は驚いた。「他の人を...助ける?」

大西は熱心に説明を続けた。「そうです。あなたも誰かのセミナー参加のきっかけになれるんです。そして、その人が成功すれば、あなたにも報酬が入る仕組みです」

田中は戸惑いを隠せなかった。「でも、私にそんなことができるでしょうか...」

「大丈夫です。明日から始まる特別トレーニングで、全てお教えします」

結局、田中は大西の熱意に押され、トレーニングへの参加を約束してしまった。

翌日、田中は指定されたホテルの会議室に向かった。部屋に入ると、すでに20人ほどの参加者が集まっていた。

大西が壇上に立ち、話し始めた。

「皆さん、今日からあなた方は単なる参加者ではありません。人々の人生を変える『チェンジメーカー』になるのです」

参加者たちから拍手が起こる。

「では、勧誘の基本テクニックをお教えしましょう」

大西はホワイトボードに図を描きながら説明を始めた。

「まず、相手の痛みを見つけることが大切です。仕事の悩み、人間関係の問題、将来への不安...どんな小さなことでも構いません」

田中は必死でメモを取っていた。

「次に、その痛みを少し大げさに表現します。『このまま何も変えなければ、5年後、10年後はもっと悪化しているかもしれません』というように」

参加者たちが頷いている。

「そして最後に、セミナーという救いの手を差し伸べるのです。『でも大丈夫です。このセミナーがあなたの人生を変えてくれます』と」

田中は少し違和感を覚えた。「これって...manipulation:人を操作することじゃないのかな」

しかし、周りの参加者たちは熱心にメモを取っている。

昼食後、実践練習が始まった。参加者たちは2人1組になり、互いに勧誘の練習をする。

田中のパートナーは、セミナー歴の長い女性・山下さんだった。

「じゃあ、田中さんから始めてみてください」山下が言う。

田中は緊張しながら話し始めた。「あの...最近、仕事で悩んでいませんか?」

山下は冷静に答えた。「いいえ、特に悩みはありません」

田中は焦った。「え、でも...将来への不安とか...」

山下は首を傾げた。「そうですね、特にないです」

田中は言葉につまった。すると、山下が助け舟を出してくれた。

「田中さん、相手の答えを待っていてはダメです。こちらから積極的に『痛み』を作り出すんです」

「痛みを...作り出す?」

山下は熱心に説明した。「そうです。例えば、『今は気づいていないかもしれませんが、このまま何も変えなければ、5年後には取り残されているかもしれません』というように」

田中は困惑した。「でも、それって嘘をつくことになりませんか?」

山下は少し厳しい表情になった。「田中さん、これは嘘ではありません。可能性を指摘しているだけです。人々を幸せにするためには、時には厳しい現実を直視させる必要があるんです」

田中は黙ってしまった。

トレーニングが終わる頃、大西が参加者全員に向かって言った。

「皆さん、明日からは実践です。まずは身近な人から始めてみてください。家族、友人、同僚...誰でも構いません」

田中は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

家に帰る途中、田中は考え込んでいた。「本当にこれでいいのだろうか...」

その夜、田中は眠れずにいた。セミナーで学んだこと、そして今日のトレーニングの内容。全てが頭の中でぐるぐると回っている。

「人を助けるって...こういうことなのか?」

答えの出ない疑問を抱えたまま、田中は朝を迎えた。

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