わたしは生きる

2〜3週間前、まだ夫に何も言われていないのに、私は"その日"が来たら消えようと考えていた。
1人で突っ走って自分を追い込んだ。
親になりたいと、私との子供に会いたいと思ってくれている人に、自分のわがままを押し付けて、残りの人生を消化不良にさせるのは絶対にダメだと思った。
一方で、わたしは離婚したくないし、夫に"バツ"をつけるわけにもいかないと本気で思っていた。
(今思うとただのわたしのわがままなので、矛盾がひどいのだが)

何度考えても自分が消えることが一番だという答えに行き着いた。
30代前半で、平均年収よりも稼げる夫は、子供を望む人と十分にやり直せるだろうと考えた。
わたしより何もかも優れている人間の可能性を、わたしが潰すのは絶対に"ナシ"だったのだ。

どうやって"その日"を迎えるか、何度かシミュレーションした。
手紙くらい残すべきだろうとか、家の棚の中身(大半がわたしのもの)は処分しないとダメだなとか、そんなことを考えた。
苦しまずに、というのはたぶん無理なので、なるべく人に迷惑をかけない形は何かを調べた。

そんな時に、芸能人の訃報があった。
理由は本人にしかわからない。もしかしたら、家族には最期に残したのかもしれない。
だとしても、本人と家族以外には、わからない。
ネットニュースではいろんな憶測が流れた。
家族や親友がメッセージを発信したが、本当のことは誰にもわからない。
その方のことは、ここでは便宜上「彼」と表記する。

わたしは彼ら家族が好きだった。
当初存在を知った時は、「なんじゃこりゃ?!」と思ったが、好きになった。
当時から、彼には違和感があったが、そんなことで人間性を判断するのはナンセンスだし、何より家族を大切にしているのであれば、外野が口出しすることではないと思った。

ただ昨年の夏に、正直ネガティブな感情を抱いてしまったのも事実。
それはわたしが女だからというのも大きいと思う。
でも結局、これも家族が納得しているのであれば、外野がわざわざ本人や家族に物申す必要はない。
もちろん賛否両論あるだろうし、どんな感情を抱くのも自由なので、いろんな考え方があることはそれでいいと思う。

話は少し脱線したが、わたしはその訃報に予想以上にひどく動揺した。
それは、彼の亡くなった理由どうこうではなく、残された側の人間の悲しみの深さを、こんなに無関係の他人ですらひしひしと感じたから。
残された家族の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうになった。
きっとその気持ちは言葉では言い表せない。
一生消化できることはないと思う。
わたしは「夫はきっと悲しんでくれるだろう」などと思っていたが、それは、一過性のものではないのだ。

誰かが、「彼の死を消費しないでほしい」と言っていた。
その通りだと思う。
それをネタに、何かを訴えるつもりはない。
ただ、今のわたしの気持ちを残しておく。
わたしは夫を残して消えることは絶対にやめる。
"その日"がもし来たら、夫とわたしが、それぞれ妥協しながら前に進める道を模索する。
わたしは生きる。

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