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自己紹介:マイケルチェーホフ演技テクニックの演技講師になった理由

 初めまして東京を拠点に活動している演技講師、演出家、役者の秋江智文と言います。中でも演技講師という活動をとても大切にしています。一言に演技といっても様々な手法やアプローチが存在します。私はその中でもマイケルチェーホフ演技テクニック(以下チェーホフテクニック)という手法を専門で教えています。
 このテクニックは20世紀を誇る役者であったマイケルチェーホフが考案した演技メソッドで、直接の教え子には「王様と私」のユル・ブリンナー、役者と監督として有名なクリント・イーストウッド、マラ・パワーズ、ゲイリー・クーパーなどがおり、チェーホフテクニックを学んだ俳優としてはジャック・ニコルソンやアンソニー・ホプキンズなどがおり、世界中の学校やスタジオで学ばれています。
 私はチェーホフテクニックをイギリスに留学して学び、ドイツ、クロアチア、台湾などで演技ワークショップを受講、著名な講師たちから数多くのオンラインレッスンを受講しました。2018年より国際的団体マイケルチェーホフヨーロッパ(MCE)から講師養成のメンバーとして教授方法も学んでいます。チェーホフテクニックを体系的に学べる場所をつくろうと、2018年に「マイケルチェーホフ東京」という団体を設立し、海外講師を毎年招聘したり、オンラインでレッスンを行なったりしました。
 そこで聞かれるのが、「なぜ演技講師になったのか?」そして「なぜチェーホフテクニックを選んだのか?」という質問です。
 理由は「俳優が、確かなテクニックをロジカルに、豊かで楽しくに学べ、自らの未来に羽ばたいてもらいたい」だからです。

正確な技術を学べる場所

 私は10代や20代前半とき名古屋や大阪で役者として活動をしました。いくつかの劇団を渡り歩き、様々なWSに参加しましたが、演技の基礎や技術を学べる場所は見つけることができませんでした。
 私の所属してた劇団は独自のやり方を持っていましたが、それは必ずしも俳優育成ではなくその劇団の作品に出演するための技術でした。また参加したWSの演技講師は現役の俳優が行い、自己流の演技法を受講生に教えているだけでした。そうしたWSはロジックに欠けて感覚的で、「これって何のため?」と感じることが度々ありました。演出家や監督が演技講師を務めるレッスンもありましたが、そこでは講師はテキストを配って、受講生が演技して、講師はダメ出しを行うだけで、「それってあなた(講師)の感想ですよね?」と感じることがほとんどでした。生涯役者としてやっていきたいと思っていたので、演技の基礎を学びたい願望がとても強くありましたが、自分が思い描くような場所はありませんでした。
 私は26歳のときにより確かな技術を求めてイギリスに留学しました。イギリスで学んだ演技についての考え方や技術は今でも私の中で生きていて土台となっています。
 しかし役者になりたいと思って留学するのは効率的ではないし、時間的にも金銭的にもかなり消耗します。
 そこで私は日本で海外でも学ばれているような確かなテクニックを届けたいと考えました。それも深く学べる専門的な場所です。そのためにチェーホフテクニックを定期的にレッスンを開催し、日々演技書や論文を翻訳して読書会やHPで公開し、著名な海外講師を招聘してきました。ここでならチェーホフテクニックをちゃんと学べる!あいつなら信頼できる!そんな風になれればと思ってやっています。

誤解と曲解からの脱却

 2017年から私が教え始める以前よりチェーホフテクニックは学ばれていました。日本に土壌にあうようにテクニックが改良されることは歓迎ですが、かなり曲解され学ばれていたようでした。
 以前別の講師からチェーホフテクニックを学んだ俳優から、「チェーホフテクニックは、心を解放させるために裸になるように強要するんだよね?」と言われたことがあります。そんなことをさせるなんて信じられませんでしたが、本来はそんなこと絶対にしません。また別の場所ではチェーホフテクニックを宗教のために使ったり、著作物やDVDだけみて教えている人がいたりと、かなり誤解されたり曲解されているようでした。
 さきも述べたようにチェーホフテクニックが改善や改良されているのであればいいのですが誤解や曲解が多く、結局教えたつもりでもチェーホフテクニックの名前を借りたその講師の自己流になってしまいます。演技のメソッドというのは一見簡単なように見え、誰でも教えられると思いますが、実はとても深く複雑でそんなことは本来できません。
 ヨーロッパやアメリカなど研究と実践が進んでいる内容をベースに、チェーホフが意図したことを正確に伝えてないと感じました。なのでマイケルチェーホフヨーロッパ(MCE)という団体で講師養成に参加して、俳優としてでなく講師として学んでいます。

演技の楽しさを学ぶ

 「楽しくなかったらチェーホフテクニックではない。」と言われるくらい、童心にかえるような楽しいものです。レッスンでは受講生は個性を発揮し大いに演技を楽しむことができます。
 しかしプロになるのに楽しんでいいのか?プロの世界は厳しいではないのか?と思うかもしれませんが、プロだからこそ演技を楽しむべきだと思います。楽しんでいる状態は、俳優だけでなくあらゆるパフォーマーとって、とてもいい状態です。その状態の俳優は集中力が高く、想像力も発揮され、余計な緊張も入っていません。緊張感のある場でも楽しめるというのは、意識をコントロールした技術です。周りに言われたことに従うように育った俳優にとって、演技を楽しめるテクニックは不可欠ではないかと思います。

学びの機会を奪わない

 「なぜ一つのテクニックだけしか教えないのか?」とも言われます。理由は、多くのことを教えすぎると学びの機会を奪うからです。もし私が俳優に合わせて多くのテクニックを渡してしまうと、俳優がどうやって技術を身につけて使うかを考える時間をうばってしまいます。短期的には様々な手法が学べて変化があると嬉しいでしょうが、長期的にみて俳優が創意工夫して演技を見つけ、身に着けていく過程でのみ生きた技術が得られるのだと思います。なのでできるだけシンプルに、純粋で、深く伝えられればと思っています

俳優が中心になる

 チェーホフテクニックの基本の考えは「俳優が中心である。」ということです。私は俳優を尊重するこの考え方が好きで、「自分で考え行動できる」ようするための俳優育成に最も適していると思います。
 また俳優として、自分の人生を生きる上でも大切だと思います。多くの俳優はその職業の性質上どうしても使われ消費される意識があります。けれど作品のすべての登場人物は、セリフの多さや役割に関係なく、自分の人生を生きています。どの役もその人生の中では主役なのだと思います。
 私はレッスンの受講生には自分の人生を生きて、自分で思い描く将来に羽ばたいてもらいたいと思っています。

最後に

 演技教育は映画、舞台、映像など日本のエンタメや芸術の土台です。ここをおろそかにしてはどんな才能も開花できません。俳優は日本の宝です。私は演技をしたいと思う人に、自分たちの将来のために、演技を体系的にロジカルに、そして楽しく学んでもらいたい思い、マイケルチェーホフ演技テクニックを教えています。


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