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俳優のためのパフォーマンスを上げる緊張改善の方法

 緊張改善というのは俳優訓練においてそこまで重要視されません。表現力や発声といったアウトプットにどうしても目が行きがちで、どうしてもそれを妨げているものに意識が向かないのかもしれません。しかしレッスンで緊張改善のワークをやった後、受講生はその重要性に気がつき、演技も向上します。

 先日たまたまリュックベッソン監督「レオン」を観ていましたが、主演のジャンレノのクローズアップになった彼の表情には、緊張を感じさせず、まるで感情や思考が薄いベールの向こうに透けて見えるようです。こうしたリラックスしているけど、人を動かす演技は様々な映画や舞台で発見できると思います。


緊張すると五感が働かない

 緊張することにより起こる問題の一つは、五感がうまく働かないことです。緊張していると飲んでいるお茶の味がわからなかったり、音楽が聴けなかったらりします。ひどい人となると、人前に立つだけで、相手の話が入ってこず、震えてしまい、覚えているはずの段取りを忘れたり、読んでいる文字もわからなくなったり、頭が真っ白になったりします。これでは本来自分の持っている能力や稽古の成果を引き出すことができません。
 まずレッスンでは緊張した状態が五感にどれだけ影響を与えるのかを知るためのワークを行います。寝転がったり椅子に座ったりして、リラックスした状態になってもらい、「チョコレートの味」、「春の風」、「好きな動物の触り心地」、「大切な人の笑顔」をイメージしてもらい、「音楽」は実際に私が流します。

 次は身体を硬直させた状態になってもらいます。そしてその状態で先ほどに同様の5つを行ってもらいます。
 受講生の感想は、リラックスしている状態では「五感に集中できた。」、「おもわず笑顔になった。」、「音楽が染み入ってきた。」などがあります。そして緊張状態では「気が散ってできなかった。」、「やることがわかっていたが集中できなかった。」などがあります。
 緊張している状態では明らかに私たちの五感に影響を与え、結果として他者やイメージから影響を受けづらくなります。これでは演技に大きな影響を与えてしまいます。

知らぬまに抱える習慣的な緊張

 私たちには知らぬ間に緊張を抱えています。人前に出たときや、発言を求められたとき、仕事に追われているときなど、知らないうちに肩や腰に力が入ってしまいます。そしてただ友達と話をしているときでさえも、緊張を抱えている場合があります。

 原因は自意識だったり、トラウマだったり、苦手意識だったり理由は様々です。

 問題なのはそういった演技の妨げになっている緊張がクセとなって起こっており、私たち俳優のパフォーマンスに知らず知らずのうちに影響を及ぼしてしまっていることです。

リラクゼーションに関しての勘違い

 そこで覚えてほしいのはリラクセーションということです。もちろんこれは緊張をとるということですが、これは決して完全な脱力状態になれということではありません。当たり前ですが、立っていられない状態では演技なんてできません。

 ここでいうリラクゼーションは「演技に不必要な緊張をとる」ことです。立っているだけでもある程度の緊張が必要ですし、五感を使うだけでも緊張をともないます。リラクゼーションは、普段知らず知らずのうちにはいる緊張に気づき、不要な緊張を抜くことなのです。

緊張改善の基本は、まず気づくこと

 
 緊張改善の基本は身体のどこで緊張が起こるのかを知ることから始めます。首、肩、あご、こめかみ、腰、背中など人によって緊張する部分は様々です。またいつ、どこで、誰の前に緊張するのかを知っておくのも重要でしょう。そうすることで緊張への対処もできますし、心構えもできます。

 以前受講生の一人が緊張改善のためにストレッチを行っていると言っていましたが、ストレッチは、直接的に緊張改善につながるとは思えません。こわばって硬くなった筋肉をほぐす目的では必要かもしれませんが、心理的に咄嗟におこる緊張状態には対応できないと思います。

緊張を抜く方法

 もちろん心理的な面から緊張改善のアプローチがありますが、今回は身体的に緊張を取る方法をお伝えします。

 どこに緊張が走っているのかがわかったら、今度は緊張を抜きます。緊張に意識を向け少し間をとって深呼吸をすると弛緩していきます。
 またもう一つ緊張を改善するコツは、一度改めて力を入れて緊張させ、一気に弛緩されものです。肩が緊張しているとすると、一旦肩を上げるように思いっきり力を入れて、脱力をすると一気に緊張が抜けます。

エクササイズ


① Notice your tension in your body(自分の緊張に気がつく)
 目的:自分の緊張に気がつき、リラックスした状態を知る。
 時間:5分程度

 できればペアになって行ってほしいエクササイズです。 

 一人が床にあおむけで寝転がります。
 目は閉じて両腕は体の横に、足は少し開いた状態です。呼吸は楽にしておいてください。
 そしてもう一人の人が体の部位を一つずつ弛緩していくために、横になっている人に声掛けをしていきます。(もし一人であれば自分で一つ一つ間を取りながらその部位に意識を丁寧に払いながらの弛緩を行います。)
 「首がリラックスします。」「こめかみがリラックスします。」「目の奥がリラックスします。」「肩がリラックスします。」全身行ってみてください。一つずつの箇所に10秒ほどかけてじっくり行います。

 思いがけないところに緊張があることに気づくとおもいます。
 このエクササイズの後は、受講生から「目の奥に緊張があるなんて思わなかった。」「すごく落ち着いた。」「普段こんなに緊張があるとはわからなかった。」など多くの気付き教えてくれます。
 
② Pay attention to movements(動きに意識を向ける)
 目的:日常的にどれだけ緊張があるのか気がつく。自分で緊張を抜く感覚を知る。
 時間:5分程度

 少し重量のあるもの(椅子、5~6冊の本、植木鉢など)をある場所から3メートル離れた場所に運びます。

 運んでいる途中で動きを止めてみて、どこか不必要な緊張ないか、体を観察してみてください。大した重量のものを持っているわけでもないのに、多くの人は過剰に力を入れています。もしそこに気が付けたら余分な緊張をぬき、運ぶためのだけに必要な緊張をキープしてください。

 繰り返し行ううちに、動きをするときにリラックスした状態だけど、どの程度緊張が必要なのかわかるようになるでしょう。
 いったんこの感覚を覚えてしまえば、普段から自分の体を観察して緊張を抜くことが習慣化できるようになります。

 緊張改善でもっともおすすめなのはアレクサンダーテクニークです。ぜひ緊張があまりに激しい場合は、アレクサンダーテクニークのレッスンに通ってみてください。


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