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演技は人から学べない、演技は自分の体から学ぶ

 演技は人からは学べません。演技はクラシックバレエ、日本舞踊、狂言などとは違って型ややり方がありません。そうした伝統的な表現には、初心者のレベルともなれば、その技術には明確な間違いがあります。
けれど演技は他の役者や先輩を真似てみても、何か不自然で表面的な表現になってしまいます。また先輩や演技講師から、言い回しや動き方を教えられても、そこに自分なりの意味を見つけないと、中身のない表現になってしまいます。
 先人の多くの演技講師や俳優たちが、いかにして感情がわき、またお客さんからも信じられる生き生きとした演技にするために、多くのメソッドを作ってきました。けれどどのメソッドも、これをやったらあなたは名優になれるというのではなく、どのメソッドもより自分の体と語らい、演技と向かい合うのか、台本に書かれた役をどうやって自分のものになるかということです。これやったら万事OKというのは、私は知りません。だって、結局演じるのは、メソッドではなく自分です。メソッドは道具であり、使う主体はいつも芸術家である自分です。

演技って何なのか?

 演技は生きた人間を描きます。普段私たちが台本や動きが縛られていないように、映像や舞台でも生きた人間の在り方を求めます。「まさに今、ここで人が、誰かに向けて行動している」のが演技です。生の音楽バンドのライブで心が震えるのは、目の前で表現が生まれるからです。演技もそうしたライブ感のあるものなのです。

何で他者から学べないのか?

 「学ぶ」の語源は、「真似ぶ(まねぶ)」であり、模倣を通して人は新しい技術や知識を得るものと考えてきました。子どもはこうした模倣を通して、技術や社会性を得ます。私も空手、日舞、バレエなどを行ってきたので、真似る大切さは大いに理解します。ていうか、真似ることができない俳優は、演出を受けられないでしょと思っているくらいです。正確に真似ることも、役者として重要な技術です。
 それでも演技は他者から学べません。なぜなら学んだことは、全て過去のものだからです。他の役者がやってきた言い回し、動き方を真似て、準備したものを発表することが演技ではありません。演技というのはライブであり、即興的に生まれてくるものなのです。

「アイディア、戦略、作戦、プラン、意図は演じられない。プランは持つことはできる、しかし行動を演じなければならない。つまり、観客に信じてもらおうと思ったら、シーンの相手役から受け取ったものにただちに反応しなければならない。」ヒューオゴーマン

 上記は、アメリカの演技講師ヒューオゴーマン氏の本からの引用です。
 真似たもの、準備したもの、パターンになったものは、ここでは演技ということではありません。シーンの相手役に注意を向けて、その人のやることに対する反応から、自分の行動が生まれるのです。

自分の体から学ぶ

 先生や指導者などから学ぶというのは、一般的な学校で行われているやり方です。明確なゴールや答えに向って、その道筋を教えてもらう。この学びの手法は、多くの人にとって当たり前です。けれど普通の学校とは違い、演技には明確な答えはなく、また自分の正解だと思っていることが他の俳優の正解にはなりません。傍から演技をみて、こうすればもっと良くなるのにと思っても、心も体も違う役者にとっては、他人のやり方は自分のものになりえません。

体の中の無意識から学ぶ

 あらゆる表現の可能性は自分の内に眠っています。無意識の領域には、普段の私たちでは考えられないような、人格あり、表現があり、可能性があります。たまに表現をしていて、自分に驚くときがあると思います。それはそうした無意識の領域につながり、普段の自分だと思っている顕在意識の領域を超えたからです。
 俳優は自分の体どうやったら演技の中で変化するのかを、自分の体から学ばなくてはなりません。自分の体は、自分にしかわかりません。日ごろから、俳優は自分に正直になり、心の声を聞く訓練をする必要があります。もしかしたらただでさえ周りの意見に耳を傾けすぎる日本の俳優は、わがままと言われるくらいでいいかもしれません。

演技レッスンで何をするのか?


 
 多くの演技メソッドと言われるものは、自分の能力を引き出したり、高めたりしてくれるものです。例えばマイズナーテクニックは他者とのやり取りについて多くの理解が得られます。スタニスラフスキーシステムは、演技という漠然としたものに、分かり易い筋道をつくってくれます。そうした演技メソッドで、自分の演技に対して新たな気づきが得られるわけです。そうして自分の表現が広く、深くなっていきます。

演技の学びでは、正直になっていい


 世の中には演技指導として自分のやり方に当てはめてしまう演出家や演技講師がいます。何か違うと感じていても、普通に学校を卒業した演技初心者にとって演技講師の言うことが絶対になります。まだ世の中には監督、講師、先輩という立場を利用して、俳優を傷つける人がいます。
 演技の学びにおいては、自分に正直になって大丈夫です。分からないと思えば聞けばいいし、無理だと思ったら一旦休めばいい。挑戦できると思えば、自分の枠を超えてみてもいいでしょう。
 
 

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