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演技に必要な想像力の鍛え方

 東京で演技講師をしている秋江智文です。今回のテーマは「想像力は筋肉だ。」です。これは作家のN・ゲイマンの言葉です。想像力は演技といった身体表現だけでなく、コミュニケーションや日常生活などに必要なものです。もっといえば物を一つ買うことだけにも想像力を働かせることができます。

「見えるもの」と「見えないもの」と「つなげるもの」

 以前書いた記事で、演技には観客から「見えるもの」と「見えないもの」があり、俳優の訓練は主にこの二つを「つなげるもの」を伸ばす必要があると書きました。表現者は、自分の内側にあるアイディアや感情やイメージといった「見えないもの」を、表情や仕草といった「見えるもの」にして観客に伝える場合、五感や想像力などの「つなげるもの」必要となります。

 その「つなげるもの」の中で重要なものの一つは想像力です。演技の80%は想像力によってできているといわれているほどです。舞台では、場所を説明してくれる大道具や小道具はとても限られます。俳優は具体的な状況や天候を想像で補わなくていけませんし、相手役との親や恋人といった関係性や、自分の演じる役を想像力で見つけ出さなくてはなりません。想像することで、感情や表情といったものが自然と生まれます。晴れた天気を想像することで、自然と幸福感がうまれ笑顔が生まれます。相手が恋敵だと想像することで、おのずと嫉妬心が生まれやしかめっ面になったりします。

五感でイメージを感じる

 想像はおぼろげに思い浮かべる程度のものではなく、想像したものを五感で感じ取れるほどでなくては演技になりません。パントマイムでコーヒーを飲むときでも、匂い、味の苦み、温かさを感じられるほどでなければ、感情が動きません。想像を五感で感じられるようになると、自然と表情やしぐさが生まれ、いわゆる演技が生まれます。
 一応補足ですが、想像するというと、視覚的な形や色ばかりだと思われがちですが、音やにおいや味も想像することができます。

イメージは具体的にすること

 想像はできるだけ詳細にすることが重要です。それは脳みそがあいまいで抽象的な表現がうまく処理できないだからです。例えば「良い天気」を想像するのと、「太陽が照りつけた、雲一つない真っ青な空」を想像するのでは、後者の方が見えるイメージがはっきりするはずです。つまり想像する時にはなんとなくではなく、細かく具体的にする必要があります。

 体感でき、なおかつ具体的に想像することは難しいと思われるかもしれません。けれど想像力は毎日使っていればどんどん明確で五感に訴えかけるものになります。まさにN・ゲイマンが言ったように「想像力は筋肉」なのです。
 では想像力を鍛えるための簡単なエクササイズを紹介しましょう。

⑴ CANDLE(ろうそく)


目的:想像したものを五感で感じる。集中力を高める。
時間:5~10分程度
目を開けた状態で行います。目の前に火のついていないろうそくを想像します。長さや太さはもちろん、匂いや感触まで想像しましょう。
そしてマッチやライターを想像してろうそくに火をつけます。どれくらい明るくなったのか?なにか匂いはあるのか?意識的に五感を使ってみましょう。
想像の火に手を近づけてみます。自分の想像した火によって暖かさは感じられますか?もう少し細かく感じてみると、火のまわりのどの箇所が一番熱く感じられるか確かめてみてください。手のひらを火の上にかざすときと、火の側面に手をかざすときでは熱の感じ方が違います。

⑵ Season (季節)


目的:想像したものに変化を加える。
時間:5~10分程度

目を閉じたまま、花や木など植物を想像します。色、におい、大きさなど五感で想像したものを感じましょう。
月日がながれ、季節の変遷とともにその植物が徐々に枯れていく姿を見てみましょう。そして、今度は枯れた枝から徐々に芽が息吹いたり、新緑が出てくる様子を観察しましょう。最後はスタートした時に戻っていきます。
 エクササイズで重要なことは焦らないことです。いきなり変化させるのではなく、できるだけ途中の変化もどうなっているのか、見られるようになりましょう。

⑶ Shower


目的:動きながら想像をしたものを保つ。快適なもの、不快なものも両方想像できるようになる。
時間:5分程度

 身体を使って行います。シャワー室をイメージします。その中にはシャワーと二つの蛇口とがあります。2つの蛇口は、一つをひねればお湯が、もう一つをひねると冷たい水が出てきます。
シャワー室に入って、まずはお湯を浴びてみます。まるで体を洗うように体を動かしお湯のシャワーを浴びます。体の色々な箇所にお湯を当ててみてください。このエクササイズを行うと受講生は思わず「あ~」と声が漏らす人がいますが、これはイメージを五感で感じられていることを示しますのでとても良いことです。


 そして次は冷たい水を浴びます。この時に多くの人が悲鳴を上げたり、どうにかしてイメージしたシャワー室の隅にいき、水を浴びないようにしたりします。これは冷たさに対して、無条件でマインドをシャットダウンしてしまっていることを示します。悲鳴や拒否することは、一見反応が大きくて面白いように見えるかもしれませんが、ただ感じることを拒否しているだけです。しっかりと水に当たってください。徐々に冷たい水のイメージに慣れていくはずです。
 
難しい話かもしれませんが、ネガティブなイメージ(殺人、暴風、暴力、汚物など)に対してマインドを閉ざすことは俳優としてはNGです。理由は、役はそのネガティブな状況に相対しているからです。役者としてネガティブなイメージを取り入れてください。そうしたときにはじめて抗ったり、立ち向かっりする演技ができるのです。

 上記の想像力を鍛えるエクササイズは定期的に行うようにしてください。徐々にですが、確かな効果が生まれるはずです。
 想像力は演技の要です。世の中には様々な演技の方法論がありますが、絶対に想像力は使います。そして何より想像力によって独創的かつ豊かな演技につながっていきます。


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