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役作り、自分との「同じ」でなく「違い」を見つける

※毎週木曜日に行っているマイケルチェーホフ演技テクニックのレギュラークラスの振り返りです。

 役者がする仕事の1つと言えば「役作り」。役作りの目的には、役の考え方、視点、状況、身体的特徴を理解し表現できるようにすることにある。先週のクラスではこの役作りを行ってダイアローグに取り組んだ。

 私が高校で演劇をしていた時、先輩に役作りには二種類あると言われたことがある。それは「自分に役を近づける」か、「自分が役に近づく」かである。あまりにざっくりしている感じはするが、言いたいことは今なら大体理解できる。

自分に役を近づける

「自分に役を近づける」というのは、等身大の自分自身や過去の出来事を使って役と役者を同一のとしてみなし、役そのものを自分に近づけてしまうやり方。例えば役が親と軋轢がある場合に、自分の親との不仲な関係性を使ったり、役が恋焦がれている人に対して自分の恋人の感情を使ったりする。

 こうして普段の自分の同じ要素を使うことで、役の感情や視点を引き出すことができる。

自分が役に近づく

 「自分が役に近づく」というのは、役と自分とは違うものだと考え、役そのものを想像して、その視点や身体的特徴を身につけるやり方。例えば、綺麗好きな役を演じる際、シミやしわ一つない服を着ていることを想像するとどうであろうか?武士を演じる際に、自分より3倍も筋肉があるとするとどうでしょうか?虐待する母を演じる際、台本にも書いていないその母も虐待されていたと想像したらどうでしょうか?おそらくそのイメージによって感情が変わったり、仕草まで変化したりするではないだろうか。

 どうしてもこれは洗練された想像力や、イメージを身体に変換する表現力が必要になってくる。

自分を使うことの限界

 有名な話であるが、アメリカの俳優ダスティン・ホフマンが「マラソンマン」の撮影の際、共演者のイギリス名優であったローレンスオリヴィエに、あるシーンのホフマン氏の役ベーブはどうであったかを尋ねられたことがあった。そのシーンでベーブは72時間睡眠いないということだったので、ホフマン氏本人も丸三日間睡眠を摂っていなかったことを伝えた。それを聞いたオリヴィエ氏は「おぉ、坊や、なんで演技をしないんだい?」と言ったそうだ。
 これは「役を自分に近づけて」演技をすることの一つ例である。役が極限の状態の時に、自分のトラウマや身体を酷使し極限の状態になる必要があるのか?

想像の力を信じる

 ではどうやって役を生み出していくのか。私は想像力が大変有効だと思う。想像力はどんなものでも作り出す。20mの巨人だって、妖精だって、殺人者だって作り出す。まるで子どもが一瞬でお姫様やヒーローになってしまうようなものである。あの想像の純粋な力を使いたい。
 けれど撮影や舞台で、自由に想像力を使うのは稽古がいる。それは対象物を想像する力と、その想像力を信じられることが必要になる。
 

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