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『日常と非日常を行き来する』参加者レポート(9)

レポート作成者:坂本彩音

10月21日(土)
この日私はうさぎストライプの大池蓉子さん(通称おっけさん)のワークショップに参加した。
今年の5月にこまばアゴラ劇場で上演していた「あたらしい朝」を観に行った。劇団名は以前から知っていたものの、うさぎストライプの作品を観たのはそれが初めてだった。何気ない夫婦のドライブシーンから、いつの間にか一緒に夢の中を彷徨っているような、まさに今回のワークショップのタイトル通り”日常と非日常を行き来する”観劇体験をし、最後にはあまりの温かさと切なさに少し泣いてしまったのを覚えている。
何より出演者の皆様がとってもチャーミングで、観ながらどんどん登場人物全員のことを好きになる。俳優がそんな演技ができるような、いい作品作りができる稽古場なんだろうなということが、一つ作品を観ただけで伝わってくるのが印象的だった。


少し雨が降りそうな曇り空の中、方向音痴な私は会場がわからず、時間がギリギリになってしまい焦りながらキョロキョロと歩いていると、「もしかしてドラマチック界隈参加者の方ですか?」と温かな笑顔の女性が声をかけてくださった。
久しぶりに初めましての人しかいない場所に行くことに少し緊張し、不安から直前まで気持ちが重くなっていたが、その一声でふっと和らぎ、なんとなくこの後のワークショップがいい時間になる予感がした。

会場がある地下に降りていくとかまどキッチンの佃さんがいらっしゃって、名前を伝える前に「坂本さんですか?」と訊かれた。もう私以外の参加者は全員揃っていたようだった。

中に入ると椅子が円形に置かれていて、何人かは既に知り合い同士なのか、みんな楽しげに話している様子だった。
荷物を置き空いてる席につく。
まず、佃さんと石崎さんのお二人からドラマチック界隈とはなんぞや?という説明と、ワークショップを行うに当たっての注意点(ハラスメント対策や感染予防についてや記録写真について等)を説明していただき、では早速始めていきましょう、うさぎストライプの大池蓉子さんです、と紹介されたのがあの会場付近で声をかけてくださった温かな笑顔のお姉さんだった。こうして「おっけと呼んでください〜」という挨拶からゆるりとワークショップが始まって行った。

まずは自己紹介を兼ねたワークショップを行った。
読んでほしい名前のあとに、簡単な自己紹介(長くなりすぎないのがコツ)をする。
例えば
〇〇です、東京都出身です。
〇〇です、今朝パンをたべました。
等。
それを三周ほど回す。
するとだんだんとそれぞれの人となりが露わになってくる。
(長くなりすぎないのがコツ)と書いたように、
短く自分の一部を伝えることで、聴いている側に”こんな人なのかな”という想像を膨らませるのがポイント。

三周回した後、今度は名前の後に嘘の自己紹介を言って回す。
〇〇です、毎朝植物に水をあげてます。
〇〇です、運動神経がとてもいいです。
等。
明らかな嘘を言ってもいいし、嘘か本当かわからないラインを攻めてもいい。
既に三周分のそれぞれへのこんな人なのかな?という想像が膨らんだ状態できく嘘の情報は、それがどれほど本人から切り離された嘘なのかを察して笑えたり、あ、ちょっとそういうことしてそう、そういう風に普段見られるんだろうな〜という想像ができて笑えたり、嘘の情報なのに、よりその人の違う面を知れるのが面白かった。(そしてこれだけでも既に”日常と非日常を行き来する体験”の入り口だったなと振り返って思う。)


それから、お題をもとに、思いついたものを誰かに指を指して伝えて手渡していき、言葉のルートを作るというワークをやった。
円形になって立ち、
「動物」
がテーマだったら
思いついた動物を自分以外の誰かに指を差して
渡す。次の人はまだ動物の名前を言ってない人へまた思いついた動物を指を差して渡す。
すると動物がテーマの単語のルートが一つできあがる。
自分が誰になんの単語を渡したかを覚えるために同じルートを何度か繰り返す。
覚えたな、となったら今度は別のテーマで、別の人に単語を渡し、別のルートを作る。
それを今回は”動物・教科・東京23区・数字”の四種類つくり、
今度はその覚えたそれぞれのルートを同時に回していく。
ここからは今、なんの単語のルートが回っているのかわかりやすいように、相手に単語を渡すときに人形を使って投げる。(例えば教科の単語の時はたぬきのぬいぐるみが回ってきて、数字のテーマの時はフラミンゴのぬいぐるみが回ってくるなど)
まずは動物のルートを回す。
別のルートの一番最初の単語の人は、その動物のルートが回っている最中にタイミングを見計らい、新たに自分から始まるルートを回し始める。
最終的に四つのルートが同時に流れている状態を作る。(四つの人形が様々な単語とともにぐるぐると投げられている図になる。)
非常に頭を使うワークショップだった。
青年団の特色である、同時多発会話劇の疑似体験だった。


その後、3人グループに分かれて、
一部台詞が書かれていない、虫喰いクイズのような台本が渡された。
まずは全体で台本を回し読みし、
その後グループ内で話し合い、穴が空いているところを考えて埋める作業をする。
台詞は三つの穴空きがあり、
・何かをもらい、Aに協力することにした、の何かを何にするか
・Aに頼まれたこととは何か
・突然登場してきたCが何者であるか
の内容を埋めるものだった。

その考えた内容を、自分たちで演じるのかと思いきや他のグループに渡し、
他のグループが考えた脚本をもとに演出を考えて演じ発表する、というワークだった。
それぞれの班が考えた台詞の内容も「その手があったか」となる発見があったし、自分たちが考えた台詞を演じた班の発表を見て、こんな風に解釈したのか、と書いたときに思っていたイメージとは違うものが他の人のアイディアによって立ち上がっていたのが面白い体験だった。
事前に共有されていたワークショップの内容に
”作演出演者全てを体験する”と記載されていたが、まさに全ての立場を体験することができるワークだったと思う。

そして、その体験がいかに俳優にとって大切か、ということを改めて感じることができたのが、休憩を挟んだ後に行った最後のワークだった。
5人ずつで分かれて行った先ほどよりも少し長い台本が渡される。
宇宙人の女の子が宇宙に旅立ってしまうお話だ。
クラスメイトとのやり取りの後、その宇宙人の女の子が告白した先輩が教室にやってきて、告白の返事をしてもらう。
そこに先生がやってくる、という話の流れだった。
その先生とのやりとりが丸っと抜けており、先生も宇宙人であるということと、その後の先輩との別れのシーンにつなげるためのシーンを自分たちで考えてなければいけなかった。
数人で話し合い、短い時間の中で端的に伝えなければならない情報が伝わる台詞を考え、その後のシーンの流れを作り出すのは非常に難しかった。
なんとか時間内に台詞を決めて、今回は考えた内容を交換せず、自分たちで演出をつけて演じ、発表した。
このときに新たな発見があったのは、自分の役を作演出の視点から考えて作り演じる、ということができた感覚があったことだ。
これまではそのシーンの感情の流れや、書かれている言葉から役のイメージを拾っていくように演じていた(オーディションなど脚本を読み込む時間がない時は特に)が、
台詞や演出を考えたことでもっと大きな視点から役を捉えることができ、普段だったら言葉の流れに沿って演じてしまいそうなシーンも、こういう風に演じた方が後のシーンにこう活きてくる、というのがわかるような感覚があった。
それから発表の後にフィードバックをもらえる時間がとても豊かで、
俳優がアイディアをもってきて演じたことによって作演出の人が新たな視点を知ることができる、新たな景色が見えてくる、という体験もできたし、
俳優として演じる際にどんなふうにアイディアを持ち込んだらいいのかという感覚を少し掴めた気がしたし、考えて持ってきたアイディアがハマった時にどんな現象が起こるのか、ということを実際に知り、体験できたことが本当に大きな収穫だったと思う。
また作演出として自分で団体を持っている方や、様々な世代の俳優さんと新たに出会えることができたのも嬉しかった。

たったの三時間とは思えないほど濃く、実りのある時間になった。最初におっけさんに声をかけてもらったときに直感的に感じた予感はピシャリと当たった。
帰りは少し雨が降っていたけれど、行きに感じていた不安は完全に晴れ、満ち満ちた気持ちで帰宅した。
ドラマチック界隈暫しのお休み、とのことだがまた新たに開催してくださった際には、是非参加したいと思う。

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