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連載小説『モンパイ』 #8(全10話)

それにしても、この高校の生徒はみな同じ見た目をしているな、と思う。

制服を誰一人着崩すことなく、髪型について言えば、男子は前髪が目にかからない長さ、女子は後ろで結ぶかショートヘア。

もちろん全員黒髪だ。

校則が比較的厳しいというのは聞いているが、こうも揃っていると何だか気味が悪い。

まるで軍隊だ。

頭髪検査という大人に押し付けられたルールなどはね返してしまえば良いのに。

子どもだからマナーを守れないと舐められているのだ。

君たちはそれで良いのか。

権威に屈するなよ。

もっと抵抗しないとダメじゃないか。


ふと、道路脇に立つ一人の男性が目に入った。

年齢は三十代前半といったところだろうか。

チノパンにグレーのジャケット、その下には小綺麗な白Yシャツを着て、こまめにスマホをチェックしては辺りを見回している。

どうやら誰かを待っているようだ。


一体誰を待っているのだろう。


想像を開始するには、疑問が一つでもあれば十分だ。

一度気になり出したら、疑問は次から次へと浮かんでくる。


待ち合わせの相手は男性だろうか、女性だろうか。

ビジネスパートナーだろうか、それとも恋人だろうか。

いや、いい年の大人が平日の朝っぱらから恋人と待ち合わせをするなんてどうかしてる。

きっと仕事の同僚とか、取引相手とかだろう。


そもそも彼はどんな性格をしているのだろう。

一見、人当たりの良さげな体育会系の爽やかお兄さんという印象を受ける。

きっと学生時代はテニスサークルかフットサルサークルでブイブイ言わせていたことだろう。

でも他人の性格なんて見た目からじゃわからない。


本当はクールで口数が極端に少ないタイプかもしれないし、逆に一旦口を開けば身体中の酸素を使い切るまで喋り倒さないと窒息死するタイプかもしれない。

モテそうだからと言っても、恋愛に興味がない草食系かもしれないし、反対に、周囲にいる女性に片っ端から手を出す肉食クズ男かもしれない。

そもそも恋愛対象が女性じゃないかもしれないし、ロリコンかもしれないし、SMやスカトロに興奮する性癖かもしれない。

「彼」が「男性」であると判断していること自体、大いなる決め付けでしかないのかもしれない。


見た目だけでは何も判断できない。

でもそれは同時に、想像の自由を担保する。


彼にも、HIRAI GAKUENに通う生徒たちと同じように、高校生の時代がきっとあったのだろう。

部活には所属していたのだろうか。

生徒会には入っていたのだろうか。

文系だったのだろうか、それとも理系だったのだろうか。

共学だったのだろうか。

学ランを着ていたのだろうか。

修学旅行ではどこへ行ったのだろうか。

遅刻常習者だったのだろうか、それとも皆勤賞だったのだろうか。

文化祭はエンジョイしたのだろうか。

体育祭では活躍したのだろうか。


彼の高校生活は、楽しかっただろうか。


彼の高校生活は、充実していただろうか。


母親はどんな人なのだろう。

父親はどんな人なのだろう。

反抗期はあっただろうか。

兄弟姉妹はいるだろうか。

家族との仲は良いだろうか。

家族の前ではどのような人格なのだろうか。

友人の前では?


彼のことを何も知らない。

だから、想像の中の彼は、何者にでもなれる。


人はそうやって、他人の像を創り上げていく。


それはまさしく想像の産物。

本人の預かり知らぬところで、架空のイメージが一人歩きをする。

そんな身勝手なイメージが、この世界には溢れている。

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