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定額働かせ放題

いかにもセンスのあるネーミングだ。学校教員への『給与特措法』を揶揄するフレーズらしい。残業代込みで月額4%を上乗せしているが、調査の結果、本来の残業代を補完するには20%程度必要とのこと。大雑把にまとめると、過労死ラインを超えて残業している教員が多く、精神疾患等で離職するケースが年々増えているにも関わらず、法律的には「残業はなかった」ことになっていると。

この書籍にはそのあたりの背景が詳細に記述されている。精神的に追い込まれる教員の具体例がややセンシティブで、読めば読むほど、教員志望者が減るのではないかと危惧したが、著者はそれを承知の上で、改革が進まない現状を危惧し、改善の必要性を訴え、改革案を説いている。そう言った点では良書だと思う。

具体的な改革案は、①特措法を廃止し、残業代を払わなければならない状況を作り出し、管理職が責務を果たさざるを得ない状況を構築すること、②少子化が進む中であっても、学校教員を増やすこと、の2点。

そこに通底する理念としては、「やらなくても良い業務が多すぎて、授業準備に専念できず、教育の質が落ちている」ということ。なるほど。近年いじめ、不登校、モンスターペアレント、家庭の貧困など、人間関係に関する悩みや不安が高じていることに加え、以前の学習指導要領には含まれていなかった科目(英語、プログラミング等)が増え、部活の指導もあり、『本業が疎かになっている』という視点に焦点が当てられている。授業がすべてと言い切ることに躊躇いはあるが、業務時間の大半を占める授業に専念できないことによる心労は十二分に理解できる。教師同士が疲弊してしまっているため、相互に頼れない状況が現状を悪化させているのもよくわかる。

だとすればこれは、教員個々の工夫・努力で補える問題ではなく、教育行政(文部科学省、教育委員会、管理職)が喫緊に解決すべき課題だ。文部科学省は財務省の圧力に屈せず、膨大な残業代を払うための予算を確保する。教育委員会は、給食費の管理など、直接教職に関係しない業務の外部委託を図り、残業報告の改竄を調べ上げ、業務効率化のできない管理職を外す。

教員を志す人のほとんどは、児童・生徒に対して無償の愛を捧げている。その犠牲の上に成り立つ日本の教育制度を抜本的に見直す時期に来た。昨今、教育のブラック化を揶揄する報道やドラマ制作が目立ち、教員志望者減に拍車をかけている向きもある。報道するなとまでは言わないが、国の将来を担う児童・生徒の健やかな育成を願うのなら、彼らを支える教員への支援を忘れてはいけない。給与体系の改善は必要だが、その前に、無償の愛をしっかり承認し、教職が聖職であることに国民の目を向けさせることこそ、メディアの使命ではないだろうか?

いずれにしても、正直ものがバカを見る世の中をつくってはいかん。裏金や選挙妨害等の議論に終始している場合ではない。長期的な視点に立ち、教職の素晴らしさを共有し、それを具現化できる養成機関や教員への補助を怠らない教育行政であって欲しい。

#読書が好き
#定額働かせ放題
#何が教師を壊すのか

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