警察署で泊めてもらった話 前編

これは、私がフェリーに一人で乗った翌年のお盆の話。要は20代半ばで、若気の至りのような行動も取っている。
その盆休みは、連休を利用して帰省することにした。そう、原付で、だ。最短ルートを通ってノンストップで行っても片道10時間以上は掛かることが分かっていたにもかかわらず、である。お盆休みといえば帰省ラッシュだ。私は交通量の少ない夜間に移動することにした。それが失敗の始まりだった。

その頃には何度も遠出を経験しており、県境までの道も見知っていた。そこで、普段通らない道を選択する。目的地は遠いので、多少回り道したところで走行距離はさほど変わらないだろう、そんな目論見だった。真夜中なので景色はよく分からなかったが、初めて通る道は新鮮だ。その最中、原付の様子が変になる。エンジンは掛かっているが、アクセルの役割である右のハンドルを回してもうんともすんとも言わない。一度エンジンを切って掛け直してみても変わらなかった。時刻は夜11時頃。少し押し歩きをするとセルフのガソリンスタンドが見付かったが、当然のように修理は受け付けてもらえなかった。

諦めて、そのまま押し歩きを続ける。2km程進むと、対向車線側に警察署があった。土地勘も無かったので、尋ねてみることにした。
「原付が故障してしまったんですが、この近くで宿泊できるところはありませんか?」
しかし、そこはあまり大きい町ではなく、心当たりは無いという。教えてもらったお礼を言い、その場を後にする。もう日付が変わろうとしていた。