思い出の合唱曲

私には小学生の頃の思い出の合唱曲がある。
それは私が小学２年生のときのこと。私と姉弟はカセットテープレコーダーで遊んでいた。カセットテープとは、音声専用で容量の少ないDVD-RWのようなもので、既に目一杯録音された状態で録音すると、元々録音されていた部分から上書きして録音されていき、元々の録音は消されてしまう。遊び道具に乏しく、何でも遊び道具にしてしまう年頃だったので、その時はカセットテープレコーダーがおもちゃ代わりになっていたのだ。

一頻り遊び、私は当時好きだった合唱曲を聴きたくなった。その曲の入ったカセットテープを探す。目当てのカセットテープを見付け、レコーダーに掛ける。すると、私たちの話す声やはしゃぐ声がレコーダーからは聴こえてきた。一気に血の気が引く。そう、先程遊んでいたときに音声を吹き込んでいたカセットテープは、私のお気に入りの曲が録音されていたものだったのだ。私は大泣きした。それ以来、その合唱曲を聴く機会は失われ、いつしかその曲が好きだったことすら忘れてしまった。

かの日からもう20年以上が経つ。ふとこの時の出来事を思い出した。そうすると、その曲が気になって仕方ない。曲名だけは鮮明に覚えている。そう、「たんぽぽ」という曲名だった。「たんぽぽ　合唱曲」という検索ワードで目的の曲を探す。しかし、歌詞だけみてもメロディを思い出せない。今は便利なもので、動画共有サイトでその曲を聴くことができた。
「どんな花よりたんぽぽの　花をあなたに贈りましょう」
そうだ、こんなメロディでこんな歌詞だった。当時の思い出が鮮やかに色付いていく。私はこの曲のこの素朴さが好きだったのだ。
私は数十年ぶりに、またこの曲が好きになった。