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運と巡り合わせ 後編

実は、この話よりも前にもパンクしたことがあったのだが、その時は困ってオロオロとしていたら、たまたま通りがかったロードバイク乗りがパンク修理をしてくれたのだ。その道も海沿いではあったが、比較的ロードバイク乗りを見掛ける。しかし、この時通っていた道では全くロードバイク乗りを見掛けなかった。これでは自分自身で直すしかない。

記憶とスマホで調べた情報を頼りに、四苦八苦しながらパンク修理を順調に進める。しかし、困ったことが1つあった。私の持っていた簡易空気入れは、簡易とあるように本当に簡易的なもので、一度に入れられる空気が物凄く少なく、実用的ではなかったのだ。だからといって他に方法は無い。きちんとした空気入れを持っていなかったことに後悔しつつも作業を続けていると、1台の車が止まった。
女性が運転席から出てきて、声を掛けられる。自転車なんて全然通らない道だ、何かトラブルがあったのか気にかけてくれたようだった。状況を説明すると、なんと、その女性の息子がロードバイクに乗っており、偶然にも車にロードバイク用の空気入れを積んでいたとのことだった。偶然にしては出来すぎだが、事実は小説よりも奇なりとも言う。この奇跡に感謝するしかない。
空気入れを借り、簡易空気入れでは全然入らなかった空気が簡単に入っていく。世間話をしながら数分もしないうちにパンク修理は完了した。心からお礼を言い、その女性を見送って私は帰り道を進む。

百里を行くものは九十を半ばとすとは言ったもので、最後の10%~15%の道のりが1番キツかったと思う。休憩してしまうともう動けない気がしたので、気力を振り絞りロードバイクを漕いだ。帰宅したのは20時を過ぎてのことだった。

この時以来、ロードバイクでの遠出はしていない。機械の苦手な私には、輪行(ロードバイクのタイヤを外して袋に入れ、電車などの公共交通機関を利用すること)という選択肢も不安だし、またパンクしたらと思うとなかなか踏ん切りがつかないのだ。
しかし、私はあの女性にはとても感謝している。バイクで出掛ける時に、困ったロードバイク乗りが居たら声を掛けたいと思うが、そのような場面には出会えないでいる。トラブルが無いのは良いことだ。