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20年間AIを追ってみて思う、ChatGPTやその他生成AIの進化と影響

AIとの出会い

今はAI全盛の時代ですが、思えば私は20年くらいずっとAIに関わって生きているように思います。
最初に明確にAIについて意識したのは、「脳とコンピュータはどう違うか」という本を読んだ時です。

現代では当時とだいぶ状況が変わったので今はもっと良い入門書があると思いますが、この本は当時の私にも非常にわかりやすく脳とコンピュータの特徴を説明したものでした。

私は記憶している範囲では、以下のようなことが書いてありました。

  • 脳はシナプスを介したニューロン同士、コンピュータは素子同士で情報のやり取りが行われる。

  • 脳もコンピュータも情報が伝わるか伝わらないかという2値(0と1)のデジタル情報に基づいている点で共通している

  • ニューロンは1秒に数百回程度の0/1の信号を送るのが限界だが、コンピュータの素子は秒間に億単位の信号をやり取りできる

  • ニューロンは1つのニューロンが数千のニューロンと結合するが、素子は二次元上にあるので直接つながる相手はずっと少ない

脳とコンピュータは構造的にも機能的にも、似ている部分もあれば、ずいぶん違う部分もあります。
今やコンピュータも流暢に言葉を操り、絵を生み出し、チェスや将棋をプレイします。
しかし、コンピュータは人間とは違う手順を用いて知的活動を行っているようです。
例えば簡単な足し算の間違い、ノイズのような塗りの絵、膨大な計算に基づく指し筋といったものは人間とコンピュータの違いを示唆しています。
こうした違いはありつつも、大局的には人間とコンピュータの境界は曖昧になりつつあります

この記事では、私が理解している範囲でざっくり歴史を振り返りつつ、ChatGPTやその他の生成型AIが人間にもたらす影響について考察したいと思います。
その中で、これまでのAIの進化の過程や、今後のAI技術の発展がどのように私たちの生活に影響を与えるのかについても考えてみましょう。

AIの起源とざっくりした歴史

AIが初めて提唱されたのは1956年のダートマス会議と言われています。
現在から80年近く前になるわけですが、その頃はあくまで理論上の存在でした。
そこからも順風満帆ということはなく、時代が進む中でAIの実現性について悲観的に考えられた「冬の時代」を何度も繰り返してきました。

実際、私が自身の進路を考えていた時期ですとAI分野はどちらかというと悲観的に捉えられていた時期だったと思います。
実際、私の大学では違う分野(生命科学)に進み、院から副専門として情報科学を学びました。
現代のようなAIが成立するためには大量の電子データ、ハードウェア(特にGPU)の性能向上が欠かせず、その辺りは時代の到来を待たざるを得なかった部分があります。

データとハードウェアのボトルネックが解消され、それに伴ってアルゴリズムも発達し、2010年代頃から深層学習(ディープラーニング)を用いた研究が加速しました。
そこからは本当にあっという間で、今の状況に繋がってくるわけですね。

生成AIの進歩の速度

画像を作ったり文章を書いたりするAIを生成AI (Generative AI) と呼びます。
画像生成AIは2022年の夏ごろにMidjourneyをきっかけに爆発的に流行りました。
この技術の萌芽は2014年に以下の論文で報告されています。

これはGenerative Adversarial Network (GAN) と呼ばれる技術で、この論文では以下のような画像の生成に成功しています。

4つの図それぞれにおける黄色い部分がAIの作った画像で、それ以外は学習した画像です。学習した画像に限りなく近く、それでいて異なる画像を生成できたことを示しています。

これが2014年の世界最先端の研究です。
私がこれを見た時、科学的には極めて興味深いと感じましたが、今のように社会的なインパクトがあるものだとは思いませんでした。

今度はテキスト生成AIに目を移してみましょう。
2000年頃にマルコフ連鎖というアルゴリズムを使ったbotが使われ始めましたが、まだまだオモチャのようなものでした。
Twitterの「しゅうまい」もその一種ですね。
GANと同じくらいの時期にはテキスト生成分野でもLSTMのような深層学習手法も生まれましたが、短文でないと上手く機能しないなど実用にはまだまだ欠点がありました。

テキスト生成におけるブレイクスルーは2017年にGoogleの研究者が発表したTransformerという深層学習の手法で、それまでの自然言語処理の世界を一変させました。
実際、現在の大規模言語モデルは(おそらく)全てTransformerを用いており、いまや人間に限りなく近い品質の文章が生み出されるようになりました。
なお、以下がTransformerの論文です。


GANから現在の画像生成AIまでは約8年、初期のTransformerからChatGPTまでは約6年で進歩したことになります。
その性能向上をたとえるなら、生成AIはファミコンからプレイステーション4への進化を10年足らずで実現したようなものだと言って良いかと思います。
ファミコンからプレイステーション4への進化には約30年かかりましたが、生成AIははるかに短い期間、わずか8年や6年で驚異的な進歩を遂げたということです。

この進歩の速度からして、次の10年の発展の度合いを想像することは困難を極めるでしょう。
「AIのレベルが人間を超える」というのも冗談ではないような気さえします。
開発に歯止めをかけようという運動や一部の国・地域での利用禁止といった動きもあるようですが、そうしたくなる気持ちも少しはわかりますね。
とはいえ、それを実現するのはなかなか難しいと思いますが……

AIは私たちに何をもたらすのか

見通せない未来について悩むのは避け、視点を変えて現状の私たちの足元を考えてみたいと思います。

以下は東京大学の副学長による文章です。要点がお手本のようにきれいにまとまっているので一読をおすすめします。

更にかいつまむならば、彼の指摘の中で以下の3点が特に重要でしょう。

  • 検索ではなく相談するシステム

  • まずは使ってみて理解し、今後に備えよ

  • 教育、研究、産業の多様な領域に影響する

これらの点について私も強く同意します。
中でも重要なのは最初のポイントです。要は「ChatGPTはGoogle検索とは全く違うものである」という点です。
私を含めた一部の人々はChatGPTに熱狂していますが、世の中には少し触ったけどすぐに辞めた人、有効な使い方をまだ見いだせていない人、まだ使ったことがない人もいます。
そうした人たちは恐らくまだこの点を理解できていないようにも思います。
実際のところ、私も最初にChatGPTを触った段階では同じような状態でした。
ChatGPTは完全に新しい存在であるがゆえに、理解が難しいという側面があるわけです。

ここで理解に重要なのは、ChatGPTはあくまで「相談相手」としての役割を果たしてくれる存在だということです。
「相談」という言葉が意味するのは、ChatGPTのようなAIは「考える」部分をサポートするのが本質的な強みであるということです。
たとえば小説のアイデア出しやプロットの作成といった内容だったり、他人に物事を教える際の項目の順番や優先度付けだったり、文章の推敲にも使えます。
反対に、「知っているかどうか」だけで解決する問題であれば検索に比べて特に優位性はありません。
おいしいラーメン屋を知りたければ、食べログでいいわけです。

たとえるなら、従来の検索システムを使うのは本や辞書で調べ物をするような行為に相当し、AIはスマートフォンのようにもっと広範な目的に使えるものだと言えるでしょう。
本も辞書も消えはしませんが、現在スマートフォンより本や辞書に時間を費やす人はかなり少数でしょう。
同じように人間の生活の圧倒的大部分はAIに費やされることになる、ということですね。

汎用人工知能を目指す人たち

そんなAI分野がそもそも何を目指しているかというと、ChatGPTを開発したOpenAIのCEOサム・アルトマンのインタビューに明確なビジョンが示されています。

この中で、「AGI」(汎用人工知能)という言葉が出てきます。
私はこれを聞いて絶句というか驚嘆と言うか……とにかく衝撃のあまり頭が停止してしまいました。

汎用人工知能というのはある種の「夢」として語られてきました。
たとえるなら「ONE PIECE」のひとつなぎの大秘宝、「アーサー王伝説」の聖杯といったようなものです。
それを現実の目標として位置づけ、そこに元Googleなどの世界トップの頭脳が集まって真剣に取り組んでいるというのは私にとって衝撃的な内容でした。

正直に言えば、つい数か月前まで私は汎用人工知能が実現するなんて有り得ないと思っていました
ONE PIECEでルフィの夢を笑うモブキャラのように、汎用人工知能を語る人についてもだいぶ冷めた反応をしていたと思います。
そうした強固な“常識”が徐々に揺らいできており、新たな現実が生まれつつあります。

時代の変化に居合わせるのは楽しいことですし、それによって自身が変わることもあるので、今後も引き続き付き合っていければと思っています。

おわりに

今回は世界最先端の話だけを取り上げましたが、GPTのようにはすごくないAIの開発は私自身過去に経験があり、その時代と今の違いなども機会があれば書いてみたいと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
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