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記事一覧
【BL小説】聖家族のレプリカ 第2話
園庭では、先ほどのシスターが子どもらを見送っていた。
奏と手をつないで出てきた僕を、小柄なシスターが見上げながら話しかけた。
老いたシスターの優しい笑顔は、落雁みたいだ。
「お父さん、なんだか雰囲気、変わりましたね」
「はあ、そうでしょうか」
シスターにはお見通しなのだろうか。いや、もはや、にじみ出るどころか、あふれる疲れはどうにも隠せないのだろう。
「じゃあ、奏ちゃん、また、明日ね」
やさしいシ
【BL小説】聖家族のレプリカ 第3話
「さあ、今日はどの絵本を読む?」
火花散る交渉の末に、やっと歯みがきを終えてソファーにひっくりかえっている奏に声をかけた。
案外おとなしく寝室に向かおうとソファを降りた奏が何かを探している。
嫌な予感がした。
奏は僕を見上げた。
「クウちゃんは?」
あのサルのぬいぐるみだ。
クウちゃんは一緒にベッドに入るし、幼稚園にも連れて行く。
本当はそんな不必要なおもちゃは持って行ってはいけない。朝、幼稚園の
【BL小説】聖家族のレプリカ 第4話
歯科には、患者さんのためのBGMとしてクラシックが流れている。
金曜日のスタッフルームは静まりかえり、美しいメロディだけが表面的なこの平穏の象徴として聞こえている。
今朝、野添先生のデスクには付箋の貼られたレポートがあった。
レポート自体は部長が指示して作らせたものだった。そして、黄色い付箋には部長の字で“まとまりがない。何が言いたいのかわかりません。長いだけで中身がない。やる気の問題”と赤いペン
【BL小説】聖家族のレプリカ 第5話
「おかえりぃぃ!」
ドアを開けると、空腹中枢を覚醒させるカレーの香りが広がっている。
ヒッコリーのエプロンをしめたキオが僕らを出迎えた。
出張から戻っても、しばらくクライアントとやりとりでいそがしかったのが、ようやく一段落ついていた。
「おかえり!」
「キオパパ、これ、プレゼント」
奏は公園で集めたドングリとオシロイバナの種をキオに渡した。
僕は「パパ」で、キオは「キオパパ」だ。
「おお!ありがと
【BL小説】聖家族のレプリカ 第6話
今日は歯科に流れるクラシックは教会音楽らしい。荘厳なメロディが響いている。
CT画像をチェックしている野添先生が、眼鏡をとり、目頭をもんだ。
「先生、お疲れですか?今日は昼までじゃなかったですか?」
ニウさんが声をかけた。
「うん。そうなんです」
「ゆっくり休んでくださいね」
僕が担当する午前最後の患者さんは、先日公園で出会った動木(とどろき)さんだった。
「よろしくお願いします」と丁寧にあいさつ
【BL小説】聖家族のレプリカ 第7話 最終章
「どうして、あたしに歯がないのか聞かなかったの?考えもしなかった?それが、お気遣いなのかしら?」
バックミラーの中のそいつは、喋りだした。
「あたしのうちは、ごはんがアイスクリームだったの。
親は家にいなかった。時々帰ってきて、冷蔵庫にいっぱい、アイスクリームを入れて出て行った。腐らないもんね。
朝も昼も夜も、ずっとアイスクリーム。
おやつにはマーガリンを食べた。あの入れ物の中にスプーンが突っ込ま