見出し画像

【エッセイ】自分はデザインと出逢って良かったのかどうか―― 中編

 ――例えば、グラフィックデザインってなんですかと聞かれたとする。

 ほとんどの人はポスターとか紙面媒体で表現されるあれでしょ、と言うだろう。それは間違っていない。
 アニメーションデザインってなんですかと聞かれたとする。ほとんど人は絵を動かすあれでしょ、と言うだろう。それも間違っていない。

 では、デザインとはなんですかと聞かれたとする。

 ほとんど人はグラフィックとかウェブとかでしょ、と言うだろう。それは答えになっていない。なぜなら、それは業種であって、自分は業種を聞いているのではないからである。


 次に、この質問を専門家に聞いたとする――

 すると専門家はデザインとは設計だと必ず言うだろう。その通りである。

 デザインは設計である。獏念とした頭の中のイメージを形にして、それを設計して社会に提供することがデザイナーの職責だからである。
 社会という明確なクライアントが必ずいることがポイント。しかし、自分はデザインの和訳を聞いているのではない。


 社会をより良くするためにデザインという概念は生まれた。と思っている。
 では社会とは具体的になんなのか。それを考えてみよう。

 ほとんどの人は公共の製品や環境と言うだろう。そうだと思う。社会をわかりやすく言いかえれば、社会性である。ファッションデザインという職種がある。あなたの今着ている服も社会性である。

 ウェブデザインという職種がある。ネットを見ていればアクセスしやすいようにリンクが配置されてある。気がついていないと思うけれど、そういう配慮がされてある。これをユーザビリティという。これも社会性である。

 グラフィックデザインという職種、駅でポスターを見ていれば、その内容は社会性である。社会のために情報を発信しているのだから当然である。

 このことを理解できていれば、例えばグラフィックデザイン。
 写真に文字をのせてあるだけのポスターに社会性がないことが理解できると思う。なぜないのか? グラフィックデザインにおいての社会性とは、社会に対してメッセージを伝達することだからである。
 自分の誕生日のプレゼントに、なにかしらの意味やメッセージが込められていることを発見できたら、どれだけうれしいか。そういうのと同じ感覚だと思ってもらっていい。

 かつての自分の専門はグラフィックだったけれど、アニメーションを学んでいた時にも同じことを教わった。




 社会にどういうメッセージを伝えたいかを考えなければいけないと数ヵ月かけて教えこまされた。

 最初はどういうメッセージを込めればいいかわからなかった。世界平和とかそういう大きな概念を考えてみたけれど、ある時、別の先生からこれじゃ文部省推薦をねらっているみたいにみえると言われた。

 メッセージというのは、もっと身近で現代社会と直接的な関係があって、みんながそのメッセージによって問題意識をもつことができるようなものでなければならない。


 大学に在学中の時、先生達と話をする機会があって、その時にデザインは設計だという話になって、自分へ指導されたことがあった。

 しかし、自分はそれだけじゃないと反論したことがある。先生の一人はきょとんとしてしまった。

 自分が言いたかったことはなんだったのかを書いておく。
 設計というのは根本的には頭の中でするものである。設計図を描くには、まず頭の中で設計を創造したり思考したりしなければはじまらない。
 その設計を考える時、基本となる頭の中のプログラム『OS』はなんなのだろうと自分は考えた。デザインの対象が社会であるならば、その両者をつなぐ媒体はなんなのだろうと自分は考えた。

 ずっと考えた結果、思想と社会貢献というキーワードに最終的に辿り着いた。

 例えば家をデザインするのにも時代や文化によって違う家が完成する。その違いはどこから来るのかといえば、子供のころから経験してきた記憶である。だと思う。
 人間は記憶から思考する。記憶から判断するからである。日本人が経験して記憶してきたものと、西欧人が経験して記憶してきたものは違う。違うからデザインも違ってくる。だいいち社会が違う。社会が違うからデザインも違ってくる。

 社会をより良くするためにデザインがあるのであれば、そのより良くとは具体的に何をどうしたいのか。みんなが喜んでくれて笑顔になってくれること。それはつまりは主観的な満足でしかない。
 社会を主観の立場からより良くしたいにすぎない。左利きの人のための自動改札機は存在しない。社会で左利きの人は少数派であって、少数派のためのデザインは結局は淘汰されている。

 デザイナーはなんだかんだ言っても、主観的に社会に貢献することしかできないと思う。

 それは現実的にそうなっている。


続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?