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#6 蛇が崩れる

「どちらまでですか?」
「蛇崩までお願いします」
「ジャ、ジャクズレ?」

2012.10.27

目黒区の交差点は、とても珍しい名称や趣深い地名が多い。蛇崩(じゃくずれ)、油面(あぶらめん)、田道(でんどう)、後地(うしろじ)、等々。

なかでもぼくの一番のお気に入りの交差点が蛇崩の交差点だ。初めてお客さんからその地名を聞いたとき 「ど、どこですかそれ?」 と、わざとお道化て失笑をかったことがある。初めての地名を聞いたときには知ったかぶりなどせずに、自らお道化を演じるのもひとつの有効な手段なのだ。でも相手を見極めなければほんとの道化師になってしまうが。

蛇崩にはいろんな行き方がある。いちばん簡単なのは、山手道りの青葉台一丁目の交差点から野沢道りに入り、道なりに進んでいくと三宿道りと交差する少し手前にその交差点がある。車二台がギリギリにすれ違えるくらいの狭い道だ。ゆるやかな坂道が、蛇崩の交差点にさしかかるとゆっくりと右にカーブし、左下からは中目黒から伸びたまっすぐな道と、左斜めからも中途半端な道が交差する。右方向には狭い路地が伸びており、けっこう複雑な交差点なのだ。その名のとうり、かなり不気味で静かで不思議な雰囲気を醸しだしている。

「蛇崩」という名の由来を調べてみた。昔この地で洪水があり崩れた崖から大蛇が出てきたとか、その洪水の水の流れがくねりながら渦巻く様が蛇と似ていたとか、その他にもいろんな説があるそうだ。いずれにせよ、水量の多い川があり、崩れるほどの崖があり、かなりの辺境地であったのは間違いない。

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「油面」の由来は、この一帯がかつて菜の花の栽培畑になっていて、そこから採れる油をお寺の灯明用として奉納していたため、税が免除された。「油免」→「油面」になったそう。

「田道」は読んで字のごとく田んぼの道・・と思いきや、江戸時代に音読みが流行し「たみち」が「でんどう」になった。

まあ、これらの説のどこまでが事実でどこまでが作り話かとかは、あくまでも自分自身の想像力の問題で、そのイメージの向こう側を見ながらいろいろな交差点を通過していくのもまた乙なものなのです。

「どちらまでですか?」
「宇奈根までね」
「ウ、ウナネ?」
今日もお道化てみせる。


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