書評【昭和平成ボクシングを語ろう】井上尚弥を破るのはやはりあの「歴史の漢」か?!
白井義男から井上尚弥まで——。
新刊「昭和平成ボクシングを語ろう」では、鼎談形式で一気に日本の歴代世界チャンプを振り返っています。
語るのは、畑山隆則氏、原功氏、二宮清純氏の御三方。
原さんと二宮さんは、ボクシングライターとしての知識見識は言わずもなが、意外や畑山氏が歴代チャンプについての造詣が深いです。
おそらく、現役当時にいろんな映像や文献を見まくって勉強していたのでしょう。
中でも、柴田国明の脱力した打ち方を参考にしていた、というのは意外でした。
他にも、歴代の名選手を時系列で語っていき……2人の選手を別格と挙げています。
そう、ファイティング原田と井上尚弥です。
特に、原田はラッシュ戦法のイメージに隠れがちな、器用さやアウトボクシングのうまさを指摘しています。
しかも、それらを自分で考えてスタイルを進化させてきた、ボクシングIQの高さも。
当時、全世界で8人しか世界チャンピオンがいなかった時代に、無敵ジョフレに2度勝ち、事実上は今なら6階級制覇(フライ〜フェザー)している功績は、まさに元祖モンスター、こちらが真の歴史の漢(おとこ)だと思います。
そして、本書では仮想「原田vs井上」も話題にしており、やはりみなさん井上有利の予想でした。
ディフェンスやカウンター、コンビネーションなど、ボクシング技術は進化し続けるものだし、井上はスピード&パワーがズバ抜けた万能型で、まだ負けた姿を見せたこともない神話性もある。
しかし、個人的には井上を破るボクサーは、原田のようなスタイルではないかと思っています(あるいは、ルーベン・オリバレスのようなスタイル)。
原田の強靭な精神力に旺盛なスタミナ、ヒット&アウェイ、そして意外な距離感の良さ、細かく多角的なエンドレス連打。
井上を破るには、いかに彼にストレスを感じさせるかが鍵だと思っています。
原田の狛鼠のようなヒット&アウェイで、井上に射程を絞らせず、打ち終わりにチョコチョコと連打をまとめる。
尽きぬ連打に井上はロープ側でガードを固め誘い込むが、左フックをふるった時にはすでに原田はそこにいない。
井上がビッグパンチに頼り、原田がリズムを掴んでいけば、そのうち原田の不思議に当たるオーバーハンドライトで井上の顔が捻じ曲がるかもしれません。
不用意に近づいた際に、原田の右アッパーが炸裂し、井上がたたらを踏んで後退するかもしれません。
後半以降、スタミナ勝負になればさらに原田有利です。試合が15ラウンド制ならば尚のこと。心身のスタミナを失った井上の疲弊した表情とは対照的に、生き生きとステップと連打を続ける原田……。
かつてジョフレを破った時のような、僅差の判定で原田が歴史的勝利を挙げる……。
私はファイティング原田の世代はありませんし、井上尚弥の試合を何度も生観戦するほどのファンです。
しかし、かつてフォアマンがホリフィールドに大善戦した時、20年の隔たりがあっても変わらないボクシングの「重み」に感服したものです。
原田と井上。
50年のボクシングの歴史の中で、変わったものと変わらないもの、得てきたものと失ったもの。
これは単なる最強対決ではなく、そういった対峙の見れる仮想試合になると思います。
昭和・平成、そして令和のボクシング。
井上の歴代日本王者ナンバーワンの称号の前に立ちはだかる最後の砦は、やはり【狂った風車】ファイティング原田しかいないでしょう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?