漱石病気

カンボジアを旅行中の後醍醐先生に「夏目漱石に関するエッセイを」と依頼したところ原稿が届いたのでそのまま転載いたします。

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吉本ばななのお父さん、すなわち吉本隆明が書いた「夏目漱石を読む」は漱石研究を熱心にやりたい方々にぜひお薦めしたい本である。

漱石は東大の教授として活躍する場が与えられているのに関わらずわざわざ四国・松山の中学の、英語教師として赴任する。これは当時、かなり世を驚かせた事件だったようだ。吉本隆明の言葉を借りれば「大企業の重役だった人が地方の中小企業の平社員になった」というぐらい驚くべきこと。

なんでまた漱石はそのような選択をしたのか。吉本は、漱石の精神状態が非常に悪かったから、と分析する。事実、漱石の実兄は漱石の奇行、妄言に度々悩まされる。松山行きは漱石の、一種の逃避行動のようなものであろう。

松山中学では校長より高い給料を貰っていたという。今では考えられないことである。英文学者としての漱石がいかに高い評価を得ていたかがよく分かる逸話である。松山中学の先生たちは、中央から学界のスターがやってきた、みたいな受け止め方だったんじゃないだろうか。

漱石は松山での暮らしから着想を得て「坊っちゃん」を著す。多くの日本人に愛された作品だ。ユーモアたっぷり、明るい作品であるが書いていた本人は精神的にかなり追い詰められていたわけである。そういった背景を頭にいれて再びこの作品を読めば、また違った味わいを得ることが可能かもしれない。

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