★読書愛好会(27)

部長がいきなりチョコレートをくれたのでどうしたんですか?と聞いたら「君を思えば毎日バレンタインデー!」と言ってましたね。わずかに狂気を感じましたがそれも部長の魅力です。

1916年(大正五年)の夏に夏目漱石が新人作家の久米正雄、芥川龍之介宛に送った手紙を部活で紹介しました。

【勉強をしますか。何か書きますか。君方は新時代の作家になる積でしょう。僕も其積であなた方の将来を見ています。

どうぞ偉くなって下さい。然し無暗にあせっては不可(いけ)ません。ただ牛のように図々しく進んで行くのが大事です。
 
文壇にもっと心持の好い愉快な空気を輸入したいと思います。それから無暗にカタカナに平伏する癖をやめさせてやりたいと思います。是は両君とも御同感だろうと思います】

【牛になる事はどうしても必要です。吾々はとかく馬にはなりたがるが、牛には中々なり切れないです。僕のような老猾なものでも、只今牛と馬とつがって孕める事ある相の子位な程度のものです。

あせっては不可(いけま)せん。頭を悪くしては不可(いけま)せん。根気ずくでお出でなさい。

世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えて呉れません。

うんうん死ぬ迄押すのです。それ丈です。決して相手を拵(こし)らえてそれを押しちゃ不可せん。相手はいくらでも後から後からと出て来ます。そうして吾々を悩ませます。

牛は超然として押して行くのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。文士を押すのではありません】

これはなんだか凄い人生訓だと思いましたよ。僕は二十回ぐらいこの手紙を読みましたが何度読んでも励まされます。壁に貼ろうかな、これ。根気が大事と漱石は繰り返し強調しています。

馬ではなく牛になれと漱石は語っています。そしてつまらんライバルをこしらえるな、と。世の真実を前にして謙虚になれ、と言っているのかな、と解釈しました。

この教えに反して残念ながら芥川龍之介は馬のようにさっさと世を去りましたが彼が残した作品はこれから百年後も色褪せることなく残るでしょう。僕は芥川龍之介の頭脳をとても愛しています。

この先僕は幾多も挫折を繰り返すと思います。その時はこの手紙を読んで自分を励ましたいと思いました。牛になれ、諦めるな、根気よく押せ、と。

部長は僕の話をうんうんと頷いて聞きながらときおりメモをしていました。発表が終わった直後にスマホが震えたので確認したら部長からLINEが来ていて「リュウ君、大好き」と書いてありました。

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