見出し画像

糖尿病や心疾患、妊婦健診――Google Healthが取り組む最近の研究を紹介――Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(51)

m3.comで掲載された執筆記事を公開します。医師の方は下記URLからお読みください。
糖尿病や心疾患、妊婦健診――Google Healthが取り組む最近の研究を紹介――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(51) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

今回は、Googleが提供するヘルスケアである、Google Healthの最新の開発状況についてご紹介します。

2022年3月24日、Google Healthが手掛けた「The Check up」というイベントにて、ヘルスケアに関連したAIの開発状況について報告されました[1]。

スマホカメラで心血管の健康を守り、視力を維持できる可能性も

Google Healthの初期のHealth AIプロジェクトの1つであるARDA(Automated Retinal Disease Assessment)は、糖尿病性網膜症のスクリーニングの一助となることを目的としています。

Google Healthは、現在毎日350人の患者をスクリーニングしており、これまでに10万人近い患者をスクリーニングしています。最近、タイの国家スクリーニング・プログラムとの前向き研究が完了しました。この研究を通じて、ARDAが正確で、より身近な眼科スクリーニングをサポートするために、複数の地域に安全に展開できることがさらに明らかになりました。また眼底の写真から、糖尿病性眼疾患に加え、高血糖やコレステロール値などの心血管危険因子を捉えられることをこれまでに報告しています。

Google Healthの最新の研究では、診療所にある既存の卓上カメラを使って撮影した目の写真、つまり眼底写真ではない普通の写真から糖尿病関連疾患を検出するという取り組みも行いました[2]。このような結果を踏まえて、Google Healthでは今後、スマートフォンのカメラで撮影した写真からも糖尿病などの疾患を検出できるかどうかを、失明予防のために遠隔医療検診などを提供する企業「EyePACS」や台湾・長庚記念病院(CGMH)などのパートナーと共に臨床研究していきたいと考えているとのことです。

この研究で興味深いのは、眼底の写真から眼疾患以外の心血管危険因子を捉えることができることです。また現在糖尿病性の眼疾患以外も検出することを試みているところも同様です。というのも、AIは機械学習によって特定の何かを検出したりすることは得意としていますが、複合的な検出というのは苦手な傾向にあるためです。実臨床に向けての研究結果が楽しみですね。

出典:https://blog.google/technology/health/check-up-ai-developments-2022/

スマートフォンで心音を記録し、翻訳する

Google Healthでは、モバイルセンサーと機械学習を組み合わせることで、健康指標を民主化し、人々に日々の健康と幸福について考えるきっかけを作る活動も行っています[3]。スマホのカメラで心拍数や呼吸数を計測できるGoogle社の機能は、iOS端末だけでなく、100機種以上のAndroid端末で利用できるようになりました。その研究成果はGoogle社の前向き観察研究論文として受理され、掲載されました。[4]

これに関して新しい研究分野をご紹介します。それは、スマホに内蔵されたマイクを胸に当てて心音を録音するというものです。現在は臨床試験の初期段階とのことですが、この研究によってスマホを身近な健康評価の新たなツールとして活用するきっかけになればというのが、Google社の願いです。

国内では、AMI社が遠隔聴診器「超聴診器」で心音や心雑音を検出する研究を行っていますが[5]、スマホというデバイスの簡便さがGoogle社の試みとして興味深く感じます。私は呼吸器内科医なので、難しいと考えられている肺音や肺雑音の研究も進むと、とてもいいなあと思います。

AIを応用して妊産婦の健康増進も目指す

さて、過去に行われてきた研究によると、超音波検査は妊婦健診に安全に使用でき、妊娠初期の問題発見に効果的であることがわかっています。しかし、低・中所得国では出産する親の半数以上が超音波検査を受けておらず、その一因として超音波検査の読影に関する専門知識が不足していることが挙げられています。Google の機械学習の専門知識はこれを解決し、両親と赤ちゃんにとってより良い結果を可能にすると思われます。

Google healthでは、医療従事者が超音波検査を実施し、評価を行うためにAIを使用することを検証する、基礎的でオープンアクセスな研究に取り組んでいます。米国シカゴの病院との提携により、これらのモデルをさらに開発し、さまざまな経験や技術のレベルにわたってより一般化できるようテストしています。母体と胎児の健康リスクについて、より自動化され正確に評価できるようになれば、障壁を減らし、人々が適切な環境でタイムリーなケアを受けられるようになることも期待できます。

妊婦健診に関連したデジタルヘルスでは、国内では慶應義塾大学がオンライン妊婦健診を実施しています。この取り組みは新型コロナ感染症対策を契機に広がりましたが、それだけではなく、将来的にはスマホを活用とした妊婦健診を実施することを目指しています。

今回はGoogle Healthが提供する最新のヘルスケアサービスについてご紹介しました。実にさまざまな試みが行われていることがわかります。高度なデバイスを用いるというよりもスマホのような身近なものに最新技術を落とし込んでうまく活用するような試みがなされていると感じました。

【参考】
[1] Google Health  The Check Up: our latest health AI developments
[2] Google AI blog  Detecting Signs of Disease from External Images of the Eye
[3] Google Health Take a pulse on health and wellness with your phone
[4] Prospective validation of smartphone-based heart rate and respiratory rate measurement algorithms | Communications Medicine (nature.com)
[5] AMI株式会社

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会 (tadashiiiryou.or.jp)の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?