見出し画像

光免疫療法

最近、「光免疫療法」という、光を当てることで癌(がん)を治すことができる治療法がTV等で紹介されているようです。画期的な最新の治療法のように思われますが、いったいどのようなものなのでしょうか。


癌の標準治療

現在、癌(がん)といわれる悪性腫瘍に対して、一般的には手術、放射線療法、化学療法という3つの治療法が主に実施されます。これに加えて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しい治療薬も用いられますが、これらも広義の化学療法といえます。
この3つの治療法は、これまで長年にわたって非常に多くの臨床研究や試験を経て、有効性が証明された治療法であり、標準治療とも呼ばれています。
しかし、これらの治療法は有効である反面、正常な細胞(組織、臓器、身体)にも障害を与える(=副作用)ため、癌治療というのは患者にとって非常に大きな負担になります。


光免疫療法

それに対して、近年開発された「光免疫療法」は、これまでの標準治療とは大きく異なり副作用が少ない治療法として注目されています。
光免疫療法は、別名、NIR-PIT(near-infrared photoimmunotherapy)、近赤外光免疫療法、アルミノックス治療などとも言われます。
これは、光に反応する薬を投与し、その薬が癌細胞に結合して集まったところでレーザー光(波長690nmの近赤外線)を当てる、という治療法になります。

現在、日本では「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部癌」に対する治療として2020年9月に承認され、手術や化学療法などを行って治療効果が不十分だった患者を対象として施行されています。
頭頸部癌というのは、具体的には口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、甲状腺癌など頭から首にかけての癌です。これは一定の効果が認められた治療法であり、保険診療として治療を受けることが可能です。
しかし、この治療が行えるのは、標準治療が効かなかった癌に対してであり、そのような進行癌の場合は進行を遅らせることはできても完治させることは極めて難しいのが現状です。

光免疫療法の仕組み

癌細胞表面の抗原に結合する抗体に、光に反応する光活性化物質(IR700)を結合させた薬があります。この薬を点滴すると、24時間程度で癌細胞に結合して集まります。そこにレーザー(近赤外光)を照射すると、光活性化物質が反応を起こして、癌細胞の細胞膜を傷害して死滅させてくれます
一方で、薬がほとんど結合しない正常細胞にはレーザー光を当てても無害であり、癌細胞を選択的に死滅させることができます。つまり、正常組織へのダメージを最小限に抑えることが可能となります。

さらには、患者自身の免疫反応を活性化させる効果があると言われています。光免疫療法により癌細胞を破壊すると、がん細胞の中の物質(癌抗原)が周囲にばら撒かれます。周りの免疫細胞がこれを取込み、癌細胞に対する免疫が活性化させ、患者自身の免疫システムが癌細胞に対して攻撃する、という仕組みです。これによりレーザー照射では生き残った癌細胞も攻撃されます。

副作用

副作用が少ないとはいえ、全くないわけではなく、
適用部位の痛み(20%以上)
舌の腫脹(13.9%)
癌が死滅することによる腫瘍出血(5.6%)
咽頭浮腫(5.6%)
皮疹
光線過敏症(強い光が皮膚に当たると皮膚が赤くなる)
などがあげられます。

以上をまとめると、
光免疫療法は、薬を点滴してレーザー光を当てるという比較的簡単な方法で、頭や首の癌に対して一定の効果が期待できる新しい治療法ということでした。
今後、研究が進めば、頭頚部癌以外の病気にも適応が拡大されるかもしれません。


注意点

調べたところ、クリニックで自由診療の光免疫療法を行っているところが幾つかあるようです。そのクリニックのHPには、「ICGリポソーム(癌細胞に蓄積する物質)に低反応レベルレーザー光線を当てる」、と書かれていました。
上記の光免疫療法によく似ていますが、こちらは有効性が十分に証明されていない治療法であり、そのため薬も治療法も国から保険承認されていません
色々と調べてみましたが、獣医学の分野で似たテーマの研究はありましたが、ヒトに対する臨床試験の論文は見つけられませんでした。
保険適用外の自由診療であり、治療費は全額自己負担で非常に高額になります。そして繰り返しますが、有効性は証明されておらず、むしろそのような薬を投与するのは有害であるともいえます。注意してください。

*光免疫療法を検討している方は、高度な専門施設で相談をしてください。この治療法は、大学病院等の耳鼻咽喉科や頭頚部外科など、施行できる病院は限られており、クリニックや診療所レベルでは実施していません。


TIPS!

光免疫療法は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の小林久隆が研究し、楽天メディカル社の後押しにより、薬が開発されました。楽天はこんな事業もしているのですね。
そして、頭頚部癌患者を対象として、
2015年   米国で第Ⅰ相試験が開始
2018年3月 日本でも国立がん研究センター東病院で第Ⅰ相試験が開始
2020年9月 日本の厚生労働省により光免疫療法で使われる新薬アキャルックス点滴静注が承認(一般名:セツキシマブサロタロカンナトリウム)
となりました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?