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健診の腎機能が正常でも将来透析になる方がいます!

こんにちは。腎臓内科医のDr.クロシバです。

前回は“腎臓は血液のゴミ処理工場”という言葉を皮切りに、腎臓が多才で重要な臓器であること、腎臓が悪くなると透析(人工的に老廃物を取り除く治療)が必要ということを説明させていただきました。

「透析」という言葉はそれなりに知名度があり、つらい治療だと聞いている方は多いと思いますが、大半の方は自分とは無関係と考えているのではないでしょうか。

今回は、「健康診断で腎機能の数値が正常でも、あなたは将来透析になるかもしれませんよ」という、脅しのような現実のお話しをしたいと思います。

生来健康だった「はず」のAさん

Aさんはどこにでもいる普通の男性です。
40歳の健康診断で尿蛋白が初めて陽性になりましたが、採血の腎臓の数値は正常範囲内だったので、精密検査は受けませんでした。

75歳頃、高血圧で通院していたかかりつけの内科で、突然「腎臓が悪いから大きな病院の腎臓内科を紹介します」と言われました。
症状は何もありませんでしたが、腎臓内科の外来では「将来透析になる可能性が高い」と言われ、食事療法薬物療法が行なわれました。

しかし、腎機能はその後もどんどん悪くなり、80歳手前で透析を受けなければならなくなってしまいました。

Aさんは私が作った架空の患者さんですが、よく似た経過の患者さんを私はたくさん診てきました。
いったいなぜこのようなことになってしまったのでしょうか?

腎臓の機能は加齢とともに低下する

まずは、Aさんの腎臓が年齢によってどのように変化していたのか、お見せします(図1)。

図1 透析になってしまったAさんの腎機能の経過

尿蛋白が初めて陽性になった40歳の時点では、腎機能は確かに正常範囲内でした。
ところが、Aさんの中には腎臓病が隠れていて少しずつ進行していました。

健康な人でも腎機能は加齢とともに低下しますが、腎臓病の人はより早く低下していきます。

Aさんは65歳頃の腎臓の数値がかなり悪くなった時点で腎臓内科へ紹介されましたが、ゆっくり悪くなった腎機能を回復させる治療法はないため、既に手遅れの状態でした。

Aさんが40歳の時点で腎臓内科を受診していたら?

では、Aさんが尿検査で引っかかった40歳の時点で腎臓内科を受診していたら、どうなっていたでしょうか?(図2)

図2 40歳で腎臓内科を受診したAさんの腎機能の経過

腎臓内科で隠れていた原因(腎臓病)が判明し、治療で腎機能は回復しなかったものの低下速度が緩やかになり、透析には至らず天寿を全うしていたでしょう。

腎機能が正常でも尿検査(尿蛋白、尿潜血)が異常なら精査を!

私の外来には、現実進行形で手遅れの状態(将来の透析が避けられない状態)の患者さんが紹介状を持ってやってきます。

「腎臓病は早期治療で進行を遅らせることができ、将来の透析を回避することもできる」

この事実を腎臓専門医として痛感していながら、私はこれまで紹介されてくる患者さんを待っているだけでした。
この現状を打破するために、私は新しい形の腎臓内科クリニックの開業準備を進めつつ、ささやかながら情報発信を始めました。

将来透析になる腎臓病を隠し持っている方は、尿検査が異常(尿蛋白か尿潜血が陽性)になっていることが多いので、採血の腎機能が正常範囲内でも精査をぜひ受けていただきたいと思います。

次回は、腎臓内科の外来ではどんな検査をしているのか、お話しさせていただこうと思います。
恐る恐る受診される方が多いのですが、特別に痛い検査やつらい検査はないことを知っていただき、一人でも多くの方に受診していただきたいです。

おまけ

慢性腎臓病の啓発サイトです。
アンバサダーに元宝塚の檀れいさんが就任されました。
腎臓病に興味を持たれた方は、ぜひご覧ください。

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