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トランス脂肪酸の正しい理解

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
健康を意識すると目にする「トランス脂肪酸は体に悪い」と言う情報。
実際のところどうなのか?と言うご質問を頂きましたのでまとめてみました。

【トランス脂肪酸とは】

基本的に脂肪は動物や植物の体内では、中性脂肪とも呼ばれるトリグリセリドと言う形で存在しています。トリグリセリドとは、脂肪酸3分子とグリセリン1分子が結合したものです。
そして脂肪酸は、炭素と水素からなる鎖とカルボキシ基(-COOH)からできています。
脂肪酸の中で、炭素鎖の一部に二重結合をもつものを「不飽和脂肪酸」と呼びます。簡単に説明すると、この不飽和脂肪酸のうち、二重結合の部分で炭素鎖が折れ曲がる形のものがシス型、炭素鎖が折れ曲がらずに全体としてまっすぐな鎖形のものがトランス型と呼ばれます。
自然界ではシス型の脂肪酸がほとんどですが、牛や羊などの反芻動物では、胃内の微生物による発酵過程で、トランス型不飽和脂肪酸が微量に作られることが知られています。

【トランス脂肪酸は何故体に悪いとされるのか】

なぜ「トランス脂肪酸」は体に悪いとされるのでしょうか? 2003年にWHOが、「トランス脂肪酸がLDLコレステロールを増やし動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞などの心臓病のリスクを高める」と報告したのですが、このとき特に注意喚起された食品が、不飽和脂肪酸が多く含まれる植物油脂を水素添加して飽和脂肪酸を多く含む様にした、マーガリンやショートニングなどの加工油脂でした。これらの加工油脂は、水素添加過程でトランス脂肪酸が生じるため、健康への悪影響が懸念されるというわけです。

【何故わざわざ水素添加するのか】

そもそもなんでわざわざ植物油脂をコストをかけて加工してマーガリンやショートニングを作るのか?と思う方もいるでしょう。コレは1970年代に米国で「動物性油脂の摂り過ぎが血管系疾患の原因だ」と言う主張により、「動物性油脂を植物性油脂に置き換えれば健康に良い」と言うことから、植物油脂を加工して、バターの代替品としてマーガリン、ラード(豚脂)の代替品としてショートニングが開発されたと言う経緯があります。元々は「健康的な代替食品」として開発されたと言う訳です。皮肉ですよね。

ともあれ2003年のWHOの報告以降、マーガリンやショートニングを材料とする菓子類やパンなどについても、動脈硬化を進行させ脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす可能性がある、と言う心配が広がりました。

【トランス脂肪酸の危険性と含有量の真実】

では、マーガリンやショートニングに含まれるトランス脂肪酸は、本当に危険なのでしょうか。動脈硬化だけでなく肥満やアレルギー性疾患についても関連が認められていますが、糖尿病、がん、胆石、脳卒中、認知症などについての関連は結論が出ていません。

そして最近のマーガリンやショートニングに含まれるトランス脂肪酸は、製造業者の加工技術の進歩により、以前より減少しています。
内閣府食品安全委員会の報告によると、マーガリン製品一食分(10g)に含まれるトランス脂肪酸の量は、2006-2007年には約0.9gでしたが、2014-2015年には約0.1gになっています。ショートニング製品も10g中約1.2gだったのが約0.1gになっています。

ちなみにバターにも平均約2%程度(10g中0.2g)はトランス脂肪酸が含まれますし、ラードは約5%(10g中0.5g)トランス脂肪酸を含むとも言われていますので、「最近のマーガリンやショートニングは、バターやラードよりもトランス脂肪酸は少ない」と言えます。健康的かどうかはまた別ですけどね。

ここから考えると、世界最高の油とも言われるインドで良く使われるバターを精製した「ギー(澄ましバター)」には、少なくとも約2%のトランス脂肪酸が含まれているはずですが、多くのギーの広告には「トランス脂肪酸は含まれません」と書かれています。
「人工加工で発生するトランス脂肪酸は含まれません」と言う意味だとは思うのですが、不思議ですよね。とは言え、自然に含まれるトランス脂肪酸については、体に悪影響を与える可能性は低いとも言われていますので、良いのかも知れません。人工トランス脂肪酸と天然トランス脂肪酸の何が違うのかは分かりませんが。

また、植物油や魚油を精製する工程で、好ましくない臭い成分を軽減させる目的で200℃以上の高温で処理される場合があり、その際に含まれているシス型不飽和脂肪酸からトランス脂肪酸ができることがあります。ですから臭いを抑えた精製植物油にも微量のトランス脂肪酸が含まれます。
ちなみに、家庭で調理する場合、低温から中温(160-180℃)ではトランス脂肪酸はほとんど生成されません。

水素添加により不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸にすること自体が、不自然な人工的加工だと言うのは理解できますが、飽和脂肪酸は動物性食品には含まれていますし、トランス脂肪酸も自然な食品や一部の植物油製品にもある程度は含まれているので、「トランス脂肪酸はプラスチック」の様な表現は正確では無いですよね。
トランス脂肪酸が少ない最近のショートニングやマーガリンより、自然なバターやラードなどを使う時の方が、トランス脂肪酸に気をつけないといけないですね。

【トランス脂肪酸摂取量の目安】

WHOでは「トランス脂肪酸の摂取量を、総摂取エネルギーの1%相当量より少なくする」と言う目標が設定されています。
乳製品など動物性食材を多く使ったり、脱臭された精製植物油脂を使った揚げ物などを食べる欧米食では、どうしてもトランス脂肪酸が多くなりがちですが、日本人の標準的な食生活(約1900kcal/日)に当てはめると、「1日当たりのトランス脂肪酸摂取量は2g未満に抑える」という目標になります。
平均的な日本人のトランス脂肪酸の摂取は1日約0.3%(約0.6g)程度と考えられており、この目標値を超えることはありません。

【動脈硬化について】

そもそも動脈硬化の進行は「トランス脂肪酸の摂取」だけが原因ではありません。実際、米国や日本で何十年もトランス脂肪酸を減らす、と言う努力がされていますが、残念ながら動脈硬化の患者さんは増えています。

現代医療では動脈硬化が進む最大の原因は「加齢・老化」とされています。それ以外に、男性であること(女性の場合は閉経後)、喫煙、肥満、メタボリックシンドローム、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、高血圧などが危険因子とされており、動脈硬化に一度なってしまうと血管を元通りに戻すことはできない上に、治す薬も無いとされています。

医学会では治療法として認められていませんが、動脈硬化を改善させたと報告されている食事法などもいくつかあったりします。ザックリ共通点を言えば、「飽和脂肪酸を多く含む動物性食品は摂り過ぎない」「ω3不飽和脂肪酸を多く含む魚や植物を意識的に摂る」「糖質は控えめにする」「食べる量はほどほどに」と言う感じでしょうか。

人工的なトランス脂肪酸を避けることも大切ですが、自然な食材にもトランス脂肪酸は含まれていることを理解した上で、食事量が必要以上に多くなり過ぎない様に、そして「トランス脂肪酸の摂取量を総摂取エネルギーの1%未満」にする様に気をつければ、そこまで怖がることは無い様に思います。

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