「肉離れ」の理解と対策
こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
週末に少し前から参加させて頂いている知人主催のエアガンを使ったサバイバルゲームに参加して来ました。自分は全然素人レベルですけどね。
怪我の無い様に十分に安全に配慮して遊んではいたのですが、参加者の中に肉離れを起こしてしまった方がいまして、なった事の無い人から「肉離れってどんなの?」とか、捻挫と混同されてる方もいたりしたので、意外と知らない方が多いのかな?という事で、簡単にまとめてみました。ちなみに自分も実際になったことはありません。
あくまで理解の一助にして頂きたいので、この記事を参考にして整形外科受診の代わりとする様な使い方はしない様にお願い致します。
肉離れは、スポーツの現場でよく見かける怪我で、肉離れを理解しておくことが予防にもなりますし、いざと言う時の対処も理解しやすくなります。
【肉離れとは】
肉離れとは、「自分の筋力あるいは外から加わった力によって、筋肉が過剰に引き伸ばされ、筋組織が部分的または完全に断裂すること」を指し、専門的には「筋挫傷」と呼ばれます。
下肢のスポーツ外傷の代表例であり、特に陸上競技・サッカー・ラグビーなどに多いと言われていますが、競技に関係なくハムストリングス(フ大腿部の後ろ側の筋肉群)、下腿三頭筋(ふくらはぎ部の筋肉)、大腿四頭筋(大腿部前面の筋肉群)、股関節の内転筋に多いです。
とは言え、運動の種類によっては、大胸筋など胸の筋肉や、広背筋や大円筋など背中の筋肉にも起こりますし、アナボリックステロイドを使い異常に筋肉を発達させたアームレスラーが、腕相撲中に上腕部の筋肉に肉離れを起こす、と言うこともあったりします。
受傷機転により、
・短距離走の様な最大速度で走る際に強い筋収縮により起こる「スプリントタイプ」
・股関節の無理な屈曲わ膝感染の過伸展により起こる「ストレッチングタイプ」
に分類されたりもします。
外力により自然な可動域を超えて関節が捻られたり伸ばされたりして起こる捻挫は、主に関節周囲の靱帯の不完全断裂や完全断裂のことを指しますが、起きている病態としては肉離れと似ています。
ちなみに、捻挫が激しくなり関節面同士の接触が出来なくなると、脱臼と呼ばれます。
【肉離れの症状は?】
典型的な肉離れの場合、「ブチッ」と言う様な断裂音や衝撃を感じることもありますが、不完全断裂の場合にはハッキリしないことも多いです。とは言え完全型でも不完全型でも、突然筋肉や腱が裂けたり切れることに伴う激しい痛みがあります。
【重症度判断】
専門的な診断や重症度判定には、スポーツでよく起きる筋痙攣や筋打撲傷との鑑別が必要となる為、MRI撮影や超音波検査などを行います。
筋痙攣は一次的な筋肉の痙攣による痛みで、筋打撲傷は衝突など明らかな外力による筋肉への直接的な衝撃による損傷です。
【重症度分類】
Ⅰ型(軽傷):腱・筋膜に損傷がなく、筋肉内に出血を認める(出血型)
Ⅱ型(中等症):筋腱移行部の損傷を認めるが、完全断裂・付着部の裂離を認めない(筋腱移行部損傷型)
Ⅲ型(重症):筋腱の短縮を伴う腱の完全断裂または付着部裂離(筋腱付着部損傷型)
重症度は、治療やリハビリの計画や競技復帰までの期間に関わるので、特にアスリートの場合には、画像診断などを用いて正確に判定する必要があります。
【肉離れの治療法】
肉離れの多くは不完全断裂(Ⅰ型とⅡ型)で、保存療法が選択されることが多いです。Ⅲ型(腱付着部完全断裂や裂離損傷)では、手術療法が選択されることもあります。
【保存療法は何をするのか】
重症度によらず、受傷直後から48時間は、下記の様なPRICE処置を行いながら、患部の保護を行います。アイシングと圧迫は出来る限り繰り返し実施して、靴を脱ぐ、床のものを拾うなど日常生活で痛みを誘発しやすい動作にも注意が必要です。
【PRICE処置】
・Protection(保護):損傷組織を保護し再発や悪化を予防
・Rest(安静):痛みの緩和、損傷の悪化を予防
・Ice(冷却):疼痛緩和、内出血の止血、急性炎症抑制
・Compression(圧迫):内出血の広がり、腫脹の抑制
・Elevation(挙上):浮腫軽減目的
昔は応急処置は後ろ4つだけの「RICE」として教えられることが多かったですが、装具やシーネなどで損傷部位を保護し再受傷や悪化を防ぐと言うProtectionが付け加えられる様になっています。
また最新のスポーツ医学では、急性期を脱してからの組織修復を最大化させる為には適度な負荷をかけた方が良い、と言う知見から、下記の様なPOLICEと言う概念もあります。適切な負荷は経験と感覚によるところが大きいので、専門家の意見を聞いてから行いましょう。
Protection(保護)
Optimal Loading(最適な負荷)
Ice(冷却)
Compression(圧迫)
Elevation(挙上)
受傷から48時間経過した後は、修復を促す意味で「貼るカイロ」などで患部を温めた方が良いとも言われていますが、炎症の落ち着き具合にもよりますので、温めてズキズキ痛む様な場合には、無理に温める必要はありません。
湿布薬や抗炎症薬は、毛細血管の血流を悪くし、組織の修復を遅らせる原因になります。漫然と使い続けるのは良くないですので、急性期の痛みなどの症状が落ち着いたら、なるべく使わない様にした方が回復には良いです。
リハビリを行う場合には、受傷部位を伸ばした時の痛みや力を入れて筋肉を収縮させた時の痛み、運動後に痛みが酷くならないか、などを確認しながら、無理ない範囲でストレッチと筋力トレーニングを行います。
急性期の受傷後48時間以内は基本的に痛みの一番軽い関節位置で固定しますが、その後は痛みの無い範囲で曲げ伸ばしだけでなく捻りなどの動きを軽く行う様にします。
軽く引き伸ばす時の痛みが消失したら、弱い負荷での運動を開始し、筋肉に力を入れた時の痛みが無くなったら、少しずつ負荷を大きくしていきます。その際も、運動後や翌日に痛みが酷くなったり力が入りにくくなったりしないか、などの所見を確認しながら、強度を徐々に増やす様にします。
以前は回復の程度について、受傷後どれくらい経過したかで判断されていましたが、最近では個々の患者さんの「運動能力が基準に達しているか」で判断すべきという考え方が主流ですので、焦らず自分に合ったペースでリハビリを行うことが大切です。
単純に「動かせば良いんだな?」と痛みを我慢して無理に動かしまくると、適度を超えて過剰になり悪化してしまい、長引く原因になったり、運動障害が残る場合もあります。
肉離れの危険因子とは
肉離れを起こしやすい因子として、
・柔軟性が低い
・筋力の不均衡(過体重、靱帯や腱が筋力に合った強さになっていないなど)
・疲労の蓄積
などが挙げられます。
繰り返さない為には、少なくとも解剖生理学的な関節可動域で関節を日常的に動かせる様にしておくことや、食事改善による体重の適正化が大切です。過剰な可動域のある関節は、逆に関節周囲の靱帯が弛んでいて日常生活に支障を来たしたり、酷い怪我の原因になることもあるので、関節が軟らかすぎる人は別の意味でリスクがあります。
腱や靱帯を強くする為には、バランス良く十分ない蛋白質やビタミン、ミネラルを摂ることに加え、無理のない範囲で瞬発的に筋肉を伸ばすトレーニングが有効と言われています。
しゃがみ込んでジャンプしたり、腕立て伏せで沈み込んでから身体を浮かせて拍手する様な運動です。
軽いしゃがみ込みジャンプや膝をついた腕立て伏せで行って良いので、習慣化しておくと良いですね。
ジムでバーベルやダンベルを使う場合には、限界ギリギリの重さでは無く軽度から中程度の重さで、ワザと軽く反動を使って行う様なトレーニングをいつものメニューに加えるのも良いと思います。
肉離れと似ている筋痙攣もスポーツ現場では良くあり、一般の人でも「足が攣りやすい」と言う人は意外と多かったりします。
水分不足、カリウムやマグネシウムの不足、などがリスク因子とされていますが、自分の運動能力を超えた運動を休養なくやり過ぎた場合に起こることも多いです。
休養を意識するとともに、水分やマグネシウム(海産物に多く含まれます)やカリウム(野菜や果物に多く含まれます)を意識して摂る様にすると良いですね。
ただ、腎臓の調子が悪くて病院に通っている方は、カリウム制限などの指示が出ている場合もあるので、主治医の指示に従って下さい。
【まとめ】
少し専門的な話もありましたが、この記事を読んで頂ければ、筋肉、靱帯、腱を傷めた際に、どうすれば良いのか、少しでもイメージ出来る様になって頂けたら幸いです。
捻挫や突き指などの対応も、腱や靱帯が完全に切れたかどうかで対応が変わってきます。急性期に行うこと自体は基本的に同じですので、緊急時や災害時の応急処置として、PRICE処置やPOLICEなどについて確認しておくのも良いと思います。
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