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Suicide – Suicide (1977)

 無機質なドラム・マシンとMartin Revの催眠術のようなシンセのメロディ、そしてAlan Vegaの偏執的かつ神経質なボーカルで構成されたSuicideのサウンドは、ポスト・パンクやシンセ・ポップなど様々な音楽のスタイルをいち早く定義した。Gene VincentやEddie Cochranのような50年代ロカビリーの大胆な解釈は、彼らの不謹慎なバンド名とともに物議を醸したが、その実Vegaは他のパンク・ロッカーたちよりも二回りは上の世代である。
 アルバム『Suicide』は結成から7年以上を経て発表された1stだ。非難と称賛の入り乱れるライブ活動も相まって議論や反発にますますの拍車がかかっていくNYを後目に、本作はイギリスでは〈本物のロックンロール〉というスローガンを掲げて挑発的に宣伝されていった。
 冷徹なビートで展開される歪んだロック・チューンをいくつか聴けば、彼らが後進のバンドに称賛される理由がすぐに分かることだろう。アメコミから題を採った「Ghost Rider」(実はバンド名もこの漫画から来ているという)の抑揚のないメロディ、「Johnny」で聴かれるあからさまなベース・ラインとLou Reedのような歌声は、官能に満ちたシングル曲「Cheree」と同じくらいにポップだ。
 こうした人懐っこさの一方で人を寄せつけないナンバーもある。貧困と狂気が織りなす救いようのない物語を描く「Frankie Teardrop」は、次第に精神のタガが外れていくVegaのシャウトが真に迫っており、一度聴けばもうごめんだ、という気分にさえなりかねない。
 ギターを用いないこの70年代パンクの傑作は、50年代と80年代の音楽シーンを恐るべき力で統合している。本作に流れる無気力、暴力性、絶望感は、ポスト・パンクやノー・ウェーブにあますことなく受け継がれていった。