The Tuss – Rushup Edge (2007)
Karen TregaskinとBrian Tregaskinのコンビによるプロジェクトと銘打っていた2007年のリリース当初と、Richard David Jamesの変名だったことが確定してしまっている現在では、『Rushup Edge』に対する印象が異なって感じられるのは無理もない話だ。しかし、当たり障りのないジャケットの向こう側に浮かんで見えるのは、いつものJamesの不気味な薄笑いではない。決して人を食っているわけではなく、ソリッドなビートと練りこまれたメロディの完成度の高さにおいて、彼は真剣そのものである。だがそれがかえってリリース時に嵐のような憶測を呼ぶ原因にもなった。
テクノ・ミュージックの再出発、認識のリセットを果たした本作のオープニングには、あからさまに80年代的なファクターを含んだ「Synthacon 9」が選ばれた。「Last Rushup 10」で聴かれる東洋的なメロディなど、EPの全編にわたってアイデアと遊び心が途切れることなくわき続けている。「Death Fuck」のビートが持つ凍り付くような暴力性は、情報が希薄だった当時〈『Rushup Edge』はJamesによる作品である〉という推測の大きな拠り所だったに違いない。
センセーショナルなアルバムであることは事実だが、本作の名義は現在では些細なことだ。「Rushup I Bank 12」のシンセとピアノが紡ぎだす途方もなく美しいメロディの前には、誰もが言葉や思考を捨ててひれ伏してしまうのだ。