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The Troggs – From Nowhere (Wild Thing) (1966)

 偉大なロック・クラシック「Wild Thing」は、今でこそThe Troggsが1966年に大ヒットさせたことで知られているが、この事実はもしかしたら変わっていたかもしれなかった。同年の春に、当時The Rolling StonesやThe Righteous BrothersのアレンジャーだったJack Nitzscheの下で、The Blues Projectがレコーディングする企画があったのだ。ギタリストのDanny Kalbがこの風変わりな曲に強い拒絶反応を示したためにこれは立ち消えになったのだが、グリニッジ・ヴィレッジの急先鋒だった彼らが「Wild Thing」を歌っていたら、いったい歴史はどうなっていただろうか?
 確かなのはそれだけ「Wild Thing」が奇妙な歌だったということだ。原曲となったThe Wild Onesのバージョンからして、サビとメロがひっくり返ったかのような曲の構成に、あまつさえ歌詞のキメの部分で演奏が止まるという斬新なものだった。The Troggsは、バンドのアンサンブルを全てグルーヴに振り切るように演奏し、リフのタメはまるで往年のシカゴ・ブルース(というよりもはや歌舞伎の見得のようである)を思わせるほどに誇張されたものになった。また、Reg Presleyのハスキーな歌声やソロでフィーチャーされたオカリナの音色も、この曲の強烈な印象付けに一役買っている。
 英国盤LPには、Lee Dorseyがヒットさせた「Ride Your Pony」や「The Kitty Kat Song」など、R&Bの比較的忠実なカバー群が多く収録されている。ふんだんに聴かれるChris Brittonの激しいギターや、チェンバーとエキゾチックの融合した「I Just Sing」や「Jingle Jangle」のようなナンバーは、初期ガレージ好きの心にぐいぐいと迫ってくる。「Louie Louie」はThe Kinksのバージョンを思わせつつも、しっかりと「Wild Thing」の焼き直しがなされている興味深い仕上がりだ。