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Blue Cheer – Vincebus Eruptum (1968)

 録音の際に機材のサウンドボードを犠牲にして生まれたBlue Cheerの『Vincebus Eruptum』は、音楽技術の革新をもたらしたわけでもなければ、誰もがドライブ中に口ずさめるようなポップ・ソングも収録されていない。しかし、ロック・ミュージックが到達しうる最大級の轟音を至上目的としたこの驚異的なレコードは、メタル、ラウド、ストナーといった、あらゆるヘヴィ・ロックへと続く道を開拓した。まったくもって単純明快なコンセプトだったが、音楽のジャンルと歴史を強引に捻じ曲げるだけのパワーが彼らにはあったのである。
 そういった意味では本作は壮大な音楽実験とも呼べる。その証拠にEddie Cochranによるロックンロールの古典「Summertime Blues」は完全なる変貌を遂げ、もはや別曲と呼ぶべき唯一無二の曲として生まれ変わった。「Parchment Farm」は歌詞に複数のバージョンが存在するブルース曲だが、本作ではハード・ブギー・バンドCactusと同様にMose Allisonの筆によるバージョンを重量級のサウンドで奏でている。9分弱に及ぶアシッド賛歌「Doctor Please」は彼らのオリジナル曲の中でも白眉の出来だ。
 初期Blue Cheerの方向性を決定づけたプロデューサーのAbe Kesh(Chuck Berryのサイケデリックなライブ・アルバムを作ったことでも知られる)は、サンフランシスコ産サイケの伝道師とも言うべき存在だ。彼が本作と同様に手がけたセカンド『Outsideinside』もアシッド・ロックの名盤として知られている。これらのハードなアルバムのイメージが強いBlue Cheerだが、作品を経るにつれてピアノやホーンの導入、スワンプロックへの傾倒など、時代に沿ったサウンドの変化も見せていく。