見出し画像

Memphis Willie B. – Introducing Memphis Willie B (1961)

 Memphis Willie B.として知られるブルースマンWilliam Borumは戦前から地元メンフィスを中心として、Memphis Jug BandやRobert Johnsonをはじめとした有名ミュージシャンたちとの活動で知られた存在だった。しかし、こうした華々しい経歴以外に彼の人生に大きな影響を与えたものがあったとしたら、それは第二次世界大戦における陸軍での苦難に満ちた経験だった。
 1942年の冬の北アフリカ侵攻を皮切りに、シチリア島からのイタリア本土上陸作戦、そして山岳部隊での活動…。戦地を転々としてきたBorumは、ドイツの次は日本との激戦が控えている、というまことしやかな噂の中でおびえた。そして、戦火のただなかで書いた「Overseas Blues」の詞の中に司令官アイゼンハワーやマッカーサー元帥への恨み言をちりばめた。このブルースはJ.B. Lenoirの「Eisenhower Blues」にも通ずる権力者への直接的なメッセージ・ソングとなり、戦後の彼のキャリアにおける代表曲となった。結果的に8月の原爆投下によってBorumは日本送りを免れたのだが、「Overseas Blues」の中で彼は心から安堵したことを回想している。日本人としては複雑なブルースである。
 伝統的なカントリー・ブルースのスタイルを貫くBorumの奏法の特徴は、「Everyday I Have The Blues」の硬派なアレンジや激しいハープを交えた「Mattie Mae」のような曲の中に顕著だ。歌と演奏はいずれも力強く、時にハード・ブルースとも形容されている。軽快なナンバーである「The Stuff Is Here」には、かつてのMemphis Jug Bandにおけるプレイ・スタイルも少なからず息づいている。