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Circle – Paris-Concert (1972)

 一口にフリージャズと言っても、決して一枚岩の世界とは言い難い。本作はMiles Davisの下で経験を積んだChick Coreaが、生粋のシカゴ・アヴァンギャルド派であるAnthony Braxtonとのライブ・セッションを遂に実現した記録だ。Coreaと同門のベーシストDave Hollandと、Paul Bleyとのセッションを経験し名を上げたドラマーBarry Altschulも参加しており、それぞれ出自や系統も異なるが、演奏の一体感や完成度はフリージャズの作品群の中でも圧巻のものがある。ライナーノーツでCoreaが「夢を果たした」と意味深に記している通り、まさに記念碑的作品と言える。
 基本的に新主流派として捉えられることの多いピアニストであるCoreaのキャリア中、最もフリーに接近していた時期の一枚でもある。また、同時期にフュージョンの名作『Return To Forever』を発表していることを鑑みれば、1972年という年が、Coreaのイマジネーションや探求心が最も旺盛だった時期だったのは間違いない。
 Wayne Shorterの筆による「Nefertiti」は、Braxtonを迎える前の3人体制の『A.R.C.』でも録音された曲だ。本作のバージョンと聴き比べてみれば彼が加入したことによる化学反応がどれほど大きかったかを感じることができる。そのブロウはまるで他のメンバーを牽引するようで、特にAltschulのドラムはそれに呼応するように壮絶である。「73° Kalvin」は(なぜか誤植のようだが)タイトルからしてBraxton的な曲だ。
 LP2枚組の大ボリュームであり、Coreaのフリー期という枠を超え、まさに畢生の大作とも言うべき名盤だ。リスナーも演者も体力を大いに削ったのは間違いなく、冒頭にもあるように、Coreaはある意味で燃え尽きたのかもしれない。Circleは本作の発表後すぐに解散し、短命なグループとなってしまったが、ジャズファンの記憶には今なお深く刻まれている。