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Tom Waits – Small Change (1976)

 3枚目のスタジオ・アルバムを録音する頃、Tom Waitsのただでさえ渋かった歌声はさらにハスキーでザラついたものに変貌していた。この年にあった初のヨーロッパ・ツアーでの体験や、彼のヒーローの一人でもあるドラマーShelly Manneの参加は音楽づくりの確かな追い風となり、『Small Change』はWaitsのキャリアの中でも特筆すべき名品に仕上がっている。
 冒頭の「Tom Traubert's Blues」でWaitsは、自身の悪酔いの体験をドラマティックな物語として昇華させている。オーストラリアの伝統歌「Waltzing Matilda」を引用した旋律は残酷だが美しく、聴く者の涙を誘う。酔っ払いの独白は続く。鯔背なレトリックを感じさせる「The Piano Has Been Drinking」や、ピアノの弾き語りが切ない「Bad Liver And A Broken Heart」はWaitsの当時の生き方をそのまま反映しているのだろう、と信じずにはいられない。
 ジャズの実力者が顔をそろえる本作には、Jim HughartやManneのほかにLew Tabackinという意外な人選もなされている。「Step Right Up」ではスインギーなトリオ編成をバックに軽快な歌とスキャットを、「Pasties And A G-String」ではManneのドラムだけをバックにポエトリーリーディングを披露するといった、いかにもビートニク的なシーンもある。「Invitation To The Blues」におけるTabackinのブルージーなサックスも聴き逃せない。
 2トラック・テープに直接録音する昔ながらのスタイルで作られた本作はビルボード・チャートで89位を記録し、アサイラム・レーベルにおける彼の商業的な成功の頂点となった。