The Band – Music From Big Pink (1968)
カナダのロカビリー・シンガーRonnie Hawkinsのバック・バンドに始まり、エレキ転向期のBob Dylanを支えたThe Hawksはニューヨークの片田舎にバンドの拠点を移し、ある種のしがらみを逃れてデビュー・アルバムの制作に取り掛かった。そして現地の住民から〈あのバンド〉呼ばわりされていた彼らは、いつの間にかそれを自分たちの名前にしてしまった。
サイケデリック全盛期において『Music From Big Pink』は同時期のロック・アルバムと比べると非常に異質なサウンドと言える。しかし端的に形容してしまえば、メンバーの大半がカナダ出身だった彼らが抱いていたアメリカへの純粋な憧憬を、ロックという媒体で具現化したに過ぎなかった。結果的にこのアルバムは、来るべき70年代のロックを再定義する運動の嚆矢となる。
悲劇的な歌詞の「Tears Of Rage」を歌い上げるRichard Manuelのボーカル(Ray Charlesを彷彿とさせる)から聴き手はThe Bandの世界へグイと引き込まれる。そしてRobbie Robertsonのライティング・センスがすでに完成を見ていたことは、架空のアメリカ人の会話や生活を描いた名曲「The Weight」を聴けば明らかだろう。また、このアルバムが特別な地位を得たのはプロデューサーのJohn Simonだけでなく、名曲「I Shall Be Released」や独特のアートワークを提供したDylanによるところも多い。
The Bandは卓越したライティングと確かな演奏の技術によって、ヒッピー的価値観と個人主義の波の中で失われようとしていた家族の絆、祖国の郷愁を蘇らせている。彼らは世界中を包んでいたサイケデリックの潮流をたった一枚のファースト・アルバムで断ち切ってしまったのだ。