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The Beatles – Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (1967)

 Pink FloydやThe Doorsといった、サイケの綺羅星のようなバンドが各地でデビューを果たし、一方ニューヨークではThe Velvet Undergroundがオルタナティブ・ロックの種をひそかに蒔き始めていた。1967年とはそういう年だった。
 バンド活動の外でそれぞれが一定の充電期間を経たThe Beatlesのメンバーたちは、奇抜な衣装に身を包んだ架空のバンドで〈再デビュー〉を果たした。最新のスタジオ技術と一種のペルソナのもとで様々な趣向を凝らすことで、彼らはポップ・ミュージックの枠組みを完膚なきまでに叩き壊してしまった。
 Jimi Hendrixも熱を上げたヘヴィなタイトル・トラックで、Paul McCartneyは高らかにショーの幕開けを告げる。Ringo Starrがボーカルを執ったサイケ・ポップの名品「With A Little Help From My Friends」は、彼のレパートリーの中で現在でも最も重要な地位を占める曲となった。東洋思想の影響が色濃く出た「Within You Without You」で、George Harrisonはインド音楽の大家であるRavi Shankarの教えを実践している。本作では全編にわたって薬物によるトリップを追体験させるような演出が満ちており、実際「Lucy In The Sky With Diamonds」のようなナンバーは婉曲的な表現が様々な憶測を呼んだ。
 めくるめく音楽旅行が終わりを迎えた静けさの後にやってくるのは、「A Day In The Life」というなんの変哲もないタイトルの歌だ。しかし、John Lennonの独白調の歌にはじまり、オーケストラの演奏を交えて嵐のようなクライマックスを迎えるこのナンバーこそが、実は本作の中で最も奇妙でブッとんだ歌だったのだ、とリスナーは気づかされる。
 徹底したポップさとそのビジュアルも含めて、ロック芸術の頂点を極めた本作は世界各国でチャートのトップを独占し、さらに当年のグラミー賞で4部門を獲得する。レコードは発表と同時に多くのアーティストのインスピレーションを刺激し、尊敬も受けたが皮肉の材料にもなった。それらすべてを含めたうえで、多大な影響力を持った歴史的傑作だ。