Guy Clark – Old No. 1 (1975)
間違いなくナッシュビル最高のソング・メイカーだったGuy Clarkは、カントリー・ミュージックすら呑み込もうとしていた70年代の冷笑主義などどこ吹く風といった面持ちで、待望のファースト・アルバム『Old No. 1』を発表した。当時Clarkは30代半ばに差し掛かろうという年齢になっていたが、それは自身が手掛けてきた音楽をじっくりと醸成するには十分なタイミングでもあった。素朴なアレンジで名曲を歌い上げるこのレコードは、さながら高級な蒸留酒のように胸にしみこんでくる。
73年に「L.A. Freeway」をヒットさせたJerry Jeff Walkerは、本作に寄せたライナーノーツの中で、Clarkのアルバムを長いこと待ち望んでいた旨を書き綴っている。都会から田舎へ逃れようとするロード・ソングの名曲「L.A. Freeway」のセルフ・カバーは、まさに本作全体のテイストを体現している。Walkerのロック調のサウンドは、Johnny Gimbleの優しいフィドルのメロディとEmmylou Harrisを擁したコーラスに置き換えられた。そしてClarkの語りかけるようなボーカルは、進む道の先に確かな希望を見出しているように響いてくる。
「Rita Ballou」で陽気なファルセットを披露したかと思えば、ヒッチハイクの一幕を情景たっぷりに描く「Instant Coffee Blues」では、Clarkは一流のストーリー・テラーを演じてみせる。「Desperados Waiting For The Train」は後にスーパー・グループThe Highwaymenが好んで演奏した名曲で、「Like A Coat From The Cold」は不器用なアウトロー男の愛情を歌い、哀愁のあるピアノも相まって特に涙を誘うバラッドに仕上がった。
カントリー史上最も美しく、ドラマチックな一枚だ。心に残る短篇小説集を読んだような気分に浸ることができる。