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Black Flag – Slip It In (1984)

 軟派なロックンロールへの反動のせいもあって、80年代のアメリカのハードコア・シーンには女性が入り込む隙間など微塵もありはしなかった。そういう意味ではBlack Flagのアルバム『Slip It In』はサウンド以外の面でも大きな変革(進歩とは言えないにしてもだ)をもたらしている。このアルバムの制作には複数の女性の力が寄与しているが、Chuck Dukowskiに代わってタフな女ベーシストKira Roesslerが加入したのはそのほんの一例にすぎない。タイトル・トラック「Slip It In」にはHenry Rollinsのボーカルが放つ退廃的な示唆が満ちており、さらにこの曲には、荒れる共学校を舞台にしたミュージック・ビデオ(必見)まで登場した。後半のきわどい喘ぎ声で参加しているのは後にL7のメンバーとなるSuzi Gardnerで、彼女はかつてDukowskiのガールフレンドだった。この曲はそれまでのハードコアでは考えられないほど性的なイメージを含んでいる。
 話をサウンドに戻そう。やはりBlack Flagの核となるのはGreg Ginnのアヴァンギャルドなギター・サウンドなのだ。『My War』の頃からほのめかされていたメタルへの傾倒は「Black Coffee」のソロや、初見では絶対についていけないような「Obliteration」のヘヴィなリフで、より明確なものになっていた。Dukowskiも交えたラストの「You're Not Evil」ではBill Stevensonの緩急自在のリズムとともにハードコア史に残るセッションが繰り広げられる。このプレイを聴くだけでも、Black Flagが依然としてLA最高のバンドであったことに納得できるはずだ。