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矢沢永吉 – THE STAR IN HIBIYA (1976)

 かつて不良文化の象徴だったグループCAROLが解散したのは1975年の春のことだった。リード・シンガーの矢沢永吉はそこから約1年間のうちに2枚の名作アルバムを発表し、自身だけでなくロック・ミュージックそのものを日本のメインストリームに押し上げる役割を果たしていた。
 土砂降りの中、日比谷野外音楽堂で決行したCAROL解散ライブは当時すでにロック界の語り草になっており、後の武道館公演のMCでも雨はジョークのタネになった。特別な場所である〈野音〉で改めて録音された本作は、矢沢のソロ・シンガーとしての再出発宣言となった重要なアルバムでもある。
 サディスティックスのメンバーとホーンを擁したゴージャズな演奏をバックに繰り出される「恋の列車はリバプール発」は真にピュアなThe Beatles賛歌で、この一曲だけでリスナーの心を奪うには十分すぎる魅力がある。ソウルフルなバラード「最後の約束」や、しっとりとした「雨のハイウェイ」の弾き語り、そして男の色気に満ちた永遠の名曲「アイ・ラヴ・ユー,OK」など、キャリア初期のナンバーはほとんど聴くことができる。
 まだ血気盛んな客が多かった頃の、矢沢のコンサートに漂う危険な香りは「ウイスキー・コーク」でのMCから垣間見える。そして続く「恋の列車~」のアンコールで群衆の興奮は最高潮に達しており、おかげで警備のスタッフたちは物々しい雰囲気でステージに上がる若者たちを制止しなければならないほどだった。
 当日はCAROL時代の曲もいくつかプレイされたがレコードには収録されず、D面には同年の中野サンプラザにおける音源が収められた。不敵なマイク・スタンドさばき、そしてまだまだ少なかった曲のレパートリーすべてに、矢沢の遠大な自信と颯爽としたパワーが満ち溢れている。日比谷のラストを飾る名曲「A DAY」の冒頭で彼は〈あと10年、20年やっていく〉と語っている。言うまでもないことだが、その宣言は40年以上たった現在もなお実行中である。