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Wucan – Heretic Tongues (2022)

 Black Sabbath風のリフの焼き直しだけがついついストナー・ロックを定義してしまいがちななかで、Wucanの持っている旺盛なクロスオーバー精神は際立った存在感を放っている。紅一点のボーカリストFrancis Tobolskyによるフルートをフィーチャーしたおかげで、初期は〈Jethro Tullとメタルのハイブリッド〉のように評されることもあったが、今思えばそれはウォーミング・アップに過ぎなかった。
 前半はヘビー級のサウンドの宝庫だ。重厚な「Kill The King」はもちろん、「Don't Break The Oath」では中東風のメロディが、「Fette Deutsche」は心地よいメタルのギター・カッティングが次々と飛び出す。前作『Reap The Storm』からはファンク・ミュージックの要素を積極的に取り入れてきた彼らだが、「Far And Beyond (Until We Meet Again)」はその集大成のような心地いいディスコ・ロックに仕上がっている。
 「Zwischen Liebe Und Zorn」はKlaus Renft Comboのカバー。過激なサウンドに乗ったドイツ語のラップ、そこにクラシックのような荘厳さといった要素が少しずつ織り交ぜられている。Wucanのアルバムは、最後は10分超えの大曲で〆るのが恒例となっているが、「Physical Boundaries」はダンサブルなビートとTobolskyのハイトーンが圧倒する。
 本作を一言で形容できる言葉はまだ発明されていない。それくらいにアルバム『Heretic Tongues』は素晴らしく、またWucanの音楽も拡大しているのである。